037 推しのイベント
遠足を終えた私たちに待っていたのはしばしの休息だった。
テストも遠く、それすらも乗り越えてしまえばあとはクリスマスを楽しむだけなのだ。
そう、クリスマスを……楽しむだけなのだ。
「はあぁぁぁぁぁ」
「どうしたの文ちゃん!?」
クリスマスのことを意識すると自然にため息が出てしまう。別にカップルが蔓延る時期に辟易しているわけではない。ただ……ただ今回のクリスマスは……
「未来ちゃんのクリスマストークショーに行きたかったなぁって思ってね」
そう、未来ちゃんの出演したアニメのクリスマストークショーがあるのだ。
そのイベントに申し込むにはアニメのブルーレイを買って応募し、抽選に当たる必要がある。私はそのブルーレイを……買えなかったのだ。
「文ちゃん、来られないの?」
「うん。そのトークショーとこの前の握手会、どちらかにしか参加できなくて……」
一般高校生の私にとって、金銭的な問題で推しのイベントに参加できないのはよくあることなのだ。そしてその度にこうして凹んでいる。
少ないお小遣いでオタクのイベントに参加するのは無理難題なんだよねぇ。これでも節約している方なんだけど。
「そっか……うん、分かったよ!」
「わ、分かった?」
「うん!」
分かったとはどういうことだろう。ただ未来ちゃんがなんかやる気になっている顔をしているので、まぁいっかと思えた。
帰宅しても筆が乗らない。といっても基本的にいつも乗ってないが……。
「あー! 未来ちゃんのイベント行きたい行きたい行きたいぃ!」
子どものように駄々をこねられるのも、自宅のメリットだろう。学校でやったら未来ちゃんにドン引きされるだろうし、八田さんや高畑さんにも軽蔑されそうだ。
もうこうなった以上気持ちは治らないからと、イベント出演者を調べてみた。
「メインキャスト4人……もちろん未来ちゃんがいて、opを担当したアイドルのfelizの2人か……」
羨ましすぎるっ! こんなん行きたいに決まってるわ!!
キャパは1700人……選ばれし者たちかぁ。せめて私が大学生で、アルバイトできていたら行けたのかなぁ。
「……はぁ、ダメだダメだ! 一応数人は待ってくれているんだから、今日こそ更新しないと!」
行けないものは行けない! 高校生なんだから諦めて、やるべきことをやるんだ!
今日の更新した話はいつもより陰気なものになり、「いいね」数が若干下がってしまったことは言うまでもない。




