034 推しと幼馴染
"推している気持ちは、黙っていたら伝わらない"
東山に言われたこの言葉がぐるぐると頭を巡って、試着するヘッドホンから流れる音楽すらもかき消してしまう。
幼馴染のユウのことを推している気持ち。ずっとずっと、隠してきたままだった。
私がバーチャル配信者としての活動を始めたのはゲームが好きだから、それを共有したい気持ちもあったけど、何よりユウに推してもらいたかったからだ。推す気持ちが伝えられないのなら、推されればいい。そう思っていた。
でも……ユウはゲームにカケラも興味がない。私の配信の面倒は見てくれても、バーチャル配信者クロモモには一切の興味を持ってはくれなかった。
「はぁ」
明るくて、社交的で、運動が得意で、こんな根暗な私とも一緒にいてくれる優しいユウ。推すなという方が難しい。
「ふっ!」
「ひぃ!?」
突然右耳のヘッドホンが外され、耳に息を吹きかけられた!
後退りをして振り返ると、そこには明るい金髪と表情を輝かせるユウが立っていた。
「驚きすぎ〜ウケる」
「ゆ、ユウ……そういう悪戯はやめて」
「あははは、ごめんごめん」
ユウはスニーカーを見に行ったはずだけど、もう終わったのか。高くてやめたのかな。
「モモはそれ買うの?」
「ううん。ちょっと高いから無理」
「それなー、でもウチは買っちゃった」
「え?」
どこに袋が……と思ったらユウの足元にはピッカピカに輝く赤色のスニーカーがあった。
「まさかそのまま履いたの?」
「うん。その方が気分上がるじゃん?」
なんという思い切りの良さだ。そんなこと私にはできない。でもちょっとそういうところ、憧れているところもある。
「モモに似合いそうなヘッドホンなのにな〜」
「……配信でお金貯まったら買うよ」
「そだね。ならまた来ようよ。今度は2人でさ」
「い、いいの?」
「当たり前じゃん。ウチらの仲じゃん?」
このこの〜と、ユウは私のことを肘で突いてくる。
2人で買い物か。どうせユウは別のお店行っちゃうんだろうけど、それでも楽しそうだなぁ。
「じゃあ……また来て買う」
「顔真っ赤じゃんウケる。モモ、ウチのこと好きすぎでしょ笑」
"好き"という言葉に、私は驚愕した。
「え、な、えっ……なんで……」
「何でって……言わなくても顔見りゃわかるし笑。何年幼馴染やってんだって話。それとも何? モモはウチがモモのこと好きだって、気がついていないとでも言うわけ?」
ユウの中では当たり前のことだったみたいだけど、私にとっては唐突すぎてついていくことができない。
とりあえず今は、ごめんと言いながら首を縦に振るしかなかった。
「も〜、モモは仕方ないな〜」
「えっ……ちょ!」
ユウは私の肩から手を回して、肩組み状態になってしまった。目立つ! 目立つって!
「んじゃ、これから鈍感なモモにも気がつかせてあげるから。それでいいっしょ?」
「…………うん」
東山、あなたの言っていることは間違っていなかった。
でも、私たちの関係はそれを超越しているみたい。だって私たちは……幼馴染だから。




