025 推しを知る者
「おっす〜、ご飯食べよ」
宣言通りというべきか、八田さんと高畑さんはお昼にお弁当を持って集まってしまった。
異様な空間だ……すごく居心地が悪い。
「八田さんも高畑さんも絶叫系とか得意?」
「ウチは大丈夫なんだけど、モモがダメなんだよねぇ」
「そうなんだ〜」
「でもウチらが乗ってるとこ見るのは好きっしょ?」
「うん」
「仲良いんだね」
えっ……なんか仲良くなってない!?
さすが未来ちゃんだ。社交的で愛想がいい。推している者としては鼻が高い限り。
八田さんと未来ちゃんの話が盛り上がると、必然的に私と高畑さんの2人が取り残されることになる。どうしよう……気まずい。
「た、高畑さんは絶叫苦手なんだね」
「……うん」
「あはは……私も……なんだけど……なんだけど……」
助けてくれぇぇぇ!
何だこの子は! 攻略難易度Sランクのキャラクターか?
会話は諦めてそそくさとお弁当を完食し、気まずさから逃れるためにソシャゲを起動した。
あんまりソシャゲとかやるタイプではないけど、膨大な数のキャラクターの中に未来ちゃんが声を当てているキャラクターがいるから、その子目当てでコツコツプレイしているのだ。
「……東山さん、その指の動き」
「え?」
高畑さんが長文を喋った!? 意外と声可愛いな。未来ちゃんほどでは無いにしても。
「虹猫プロジェクターやってる?」
「え……よく分かったね」
虹猫プロジェクターとは私が今やっているソシャゲの名前だ。未来ちゃんが声を担当するキャラがいて、その子のためにインストールした。
「指の動きだけで虹猫をやってるって分かったの?」
「モモはゲーマーだからね。スマホゲーもそこそこやるっしょ?」
「うん」
ゲーマーさんか! だからって指の動きだけで虹猫って分かるもんか?
「ねぇねぇ、高畑さんはどんなゲームをするの?」
「えっ……エンゼルリングとか虹猫とか色々……」
「そうなんだ〜」
「モモ、観念して言っちゃいなよ」
「う……」
高畑さんは八田さんに突かれ、観念したように口を開いた。
「ほ、本当は私、星ヶ丘さんのこと知ってた。アニメは見ないけど、ゲームでたまに出てくるから。それで班を組みたいってユウに言ったの」
「そうなんだ〜! 私のこと知っててくれたなら言ってくれれば良かったのに」
「は、恥ずかしかったから。それに大ファンってわけじゃないし」
「あははは、それでも嬉しいよ」
私は大ファンだけどね(極大マウント)。
それにしても驚いたな、このクラスに未来ちゃんのことを知っている人がいるなんて。
「星ヶ丘ごめんね。モモのために近づいちゃった」
「いいよいいよ。声優だし、こういうことがあるってのも嬉しいから!」
「人間できてるね。ウケる」
まぁギャルとゲーマー……私とは性質の違う人たちだけど、未来ちゃんのことをよく見てくれている人たちがいるってのは喜ばしいことかな。
不安が少し私の心から離れた気がする。




