022 推し、ズルい
私は未来ちゃんの前に出て、クレーンゲームの中にいるラファエルと向き合った。
そうだよ……君は未来ちゃんに声を当てられたんだ。だから……私に取られるべきなんだよ。
100円玉を投入し、クレーンが動き出す。未来ちゃんのプレイングを見た限り、おそらくこのゲーム機は掴ませる気などさらさら無いようだ。であれば何か別の方法でトライするべきだ。
「文ちゃん大丈夫? 瞬きもしてない気がするんだけど……」
「うん。ちょっとゾーンに入っちゃったから」
「ぞ、ゾーン?」
未来ちゃんがプレイした14回の中で、クレーンは基本的にまっすぐ下に降りることはわかった。ただ掴む力が極端に弱く、持ち上げて落とすということはできそうにない。なら……
私はクレーンを動かし、爪を一番奥まで動かした。
「そ、そんなところじゃ掴めないよ!?」
「うん、掴む気はないから大丈夫だよ」
「えっ?」
クレーンがまっすぐ降りると、左爪がラファエルの箱の角を押し、ほんの少しだけど景品が浮き上がった。そして爪が上昇すると、ラファエルの箱は棒に戻るが、先ほどよりやや落とし穴方面に向かっていた。
「なるほど! 爪が降りるのを利用して掴むんじゃなくて押していくんだね!」
「そういうこと! 名付けて『推しを押す作戦』」
「あははは、文ちゃん上手いこと言うね〜」
くっだらないダジャレだけど、未来ちゃんは大口を開けて笑ってくれた。その笑顔を守りたい! もっともっと眩しい笑顔にしたい! そのためには絶対、ラファエルを取るんだ!
2プレイ目も同じ作戦を決行し、ラファエルを落とし穴まで追い詰めることができた。しかし……
「くっ……あと100円じゃこれ以上は……」
「文ちゃん、後は任せて」
「み、未来ちゃん!」
「文ちゃんのプレイを見て分かったよ! ここからの私なら絶対できる!」
めっちゃポジティブな言葉はまるでアニメのキャラクターみたいだった。しかもCV星ヶ丘未来。ほぼアニメやん。
「いくよー!」
まるでライブのステージのように、未来ちゃんは気合を入れてクレーンを動かした。
まさに私と同じ作戦だ! ただ私と違って未来ちゃんには精密さがない! これだと爪に引っかからないぞ!
「未来ちゃん!」
「大丈夫!」
爪が降りてくると、やはりと言うべきかラファエルの箱には当たらなかった。100円無駄打ちか……そう思った時、奇跡が起こった!
「なっ!」
「ふふ、爪を支えるアームの部分で押すってのもアリだよね!」
未来ちゃんは爪ではなく、それを支える太いアーム部分でラファエルの箱を押した。確かにこれなら威力はある。最後の100円で落とせるかも!
「行けぇ!」
「お願い、ラファエルちゃん!」
浮き上がったラファエルの箱はまるで前転するかのように転げ、そして……落とし穴へと吸い込まれていった。
「やったー!!!」
「はは……すごいよ未来ちゃん」
1700円。そこそこの出費だけど、これだけ熱中できたんだから文句はない。何より……
「えへへ……ラファエルちゃ〜ん」
推しのこの笑顔を見られたのなら、いくら払っても大丈夫だね。
「はい、このラファエルちゃんは文ちゃんに託すよ」
「え、えっ!?」
「だって取れたのは文ちゃんのお陰でしょ?」
「作戦はそうかもだけど、取ったのは未来ちゃんだし……」
私が遠慮すると、未来ちゃんはラファエルの箱をお面のように構えた。
『東山文さん、貴女は私を拒むのですか?』
「ら、ラファエル!?」
ラファエルの顔でラファエルの声がする! それはもはやラファエルだ(?)
『答えなさい。貴女は私を、拒むのですか?』
「そ、そんなことない!」
『ならば受け取りなさい。私の偶像を崇め、毎日朝起きたら星ヶ丘未来の顔を思い浮かべるのです』
「そ、それは割と毎日やってるけど……」
「ふふっ、じゃあこれで決まりだね」
「ズルいよ未来ちゃん、生アフレコだなんて」
「えへへ……こうすれば文ちゃんは了承すると思って」
立派な悪女になっちゃって、もう。
「お、おい! なんかこの辺で星ヶ丘未来の声がしなかったか?」
「した気がするぞ! ラファエルたんの声だ!」
あ、ヤバい! ここは学校と違ってオタクもわんさかいるみたいだ!
「未来ちゃん、騒ぎになる前に逃げよう」
「え? あ……う、うん」
私は未来ちゃんの手を取って走り出した。さらばゲームセンター。楽しかったぜ……未来ちゃんと来れば。




