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002 推し、ぐいぐい来る

 叫んで立ち上がった私は、先生とクラスメイトや未来(みらい)ちゃんの視線で我に返った。

 しまった……なに叫んでんの私!


 耳まで熱くなり、顔が赤くなっているのがわかる。こうしてみんなの視線を集めるのには慣れていないから苦手なのだ。クラスメイトもヒソヒソと話して嫌な空気だし。

 そんな空気を払ったのは、他でもない未来ちゃんだった。


「あー! (ふみ)ちゃんだよね? 同じクラスだったんだ〜♪」

「お、覚えててくれたんですね」

「えー? 昨日のことじゃん」


 そう言って未来ちゃんは口を大きく開けて笑った。か、可愛い。

 みんなが未来ちゃんに注目している間に私はそおっと席に座った。はぁ、無駄に注目を浴びちゃった……。


「じゃ、じゃあ星ヶ丘(ほしがおか)さん、今立ち上がっていた東山(とおやま)さんの隣に座ってくれる? それと東山さん、しばらくの間、星ヶ丘さんの面倒を見てあげてちょうだい」

「うえっ!? は、はい……」


 マジか……推しの面倒を見れるってそんなのご褒美以外の何物でもないじゃん。

 未来ちゃんは私の隣の席に座り、昨日と同じ笑顔を向けてくれた。


「よろしくね、東山文(とおやまふみ)ちゃん」

「は、はい」


 目が合わせられない。

 昨日はファンと声優という関係性だったから目を合わせられたけど、クラスメイトとして突然推しがやってくると固まってしまう。

 ホームルームが嫌に長く感じ、先生が出て行ってようやく解放されたと思ったらすぐに未来ちゃんは私に話しかけてきた。


「ねぇねぇ、ここでも文ちゃんって呼んでいいかな?」

「は、はい! 至極光栄でございます!」

「あはは……同い年なんだから敬語はいいって〜。ね、未来って呼び捨てにしてみてよ」

「そ、そんな難題を! でもそれなら未来ちゃん……はどうですか?」

「んー、まぁいっか。それでさ文ちゃん、今日の授業で怖い先生っている?」

「え? ……い、いないと思うけど……」

「良かった〜、私勉強苦手なんだよね〜」


 プロフィールに書いてあった勉強が苦手、あれ本当だったんだ。

 少し話しただけで未来ちゃんは裏表なんてない人だと確信できる。見たまんま、絵に描いたような明るい人なんだろう。


「ど、どうして未来ちゃんはこの学校に?」

「今まで田舎にいたんだけど、声優活動のために都会に越して来ました☆」


 敬礼して笑顔を見せてくれる未来ちゃん。ファンサが! ファンサが神ってる!


「あ、そういえば昨日会ってるからって挨拶を忘れてたね。星ヶ丘未来です。よろしくね、文ちゃん」

「はい! 東山文です! こちらこそよろし……く?」


 なんと未来ちゃんは私に向かって、「手」を差し伸べていた。

 な、なんてことなの!? まさかこれは握手!? 昨日12000円の出費をしてやっとできた握手を、今から無料でできるの?


「あれ? 文ちゃん握手は〜?」

「はっ! ごめんなさい!」


 謝りながら握手に応じた。昨日触れた通り、柔らかくて温かくて優しい。自然と頬に持っていきたくなる欲望が湧いてくる。


「なんのごめんなさい?」

「あ……未来ちゃんを推している仲間たちに? 無料で握手できちゃったから」


 私がそう言うと、未来ちゃんは少し固まった後に吹き出した。


「ぷっ、あはははっ! 文ちゃん面白いね。そんなに推してくれているんだ、私のこと」

「そ、それはもう。デビュー作から全部追って観てます」

「嬉しい〜。さっきの自己紹介で声優ですって言ってもあんまりみんなの表情良くなかったんだよね〜。もしかしてアニメ好き少ない?」

「……かも。私がライトノベルを読んでいても誰も話しかけてくれなかったし」


 私はクラスに1人くらいオタクさんがいるだろうと思ってわざとブックカバーを付けずにライトノベルを読んでいた。

 しかし、何ヶ月経っても声をかけられることはなかった……。


「そっか残念。でも全然平気かな。だって文ちゃんがいるし。私を推してくれる人がね!」

「う、うん。大好きです」


 言ってからハッとした。本人を目の前に大好きなんて口走ってしまった!


「あ、えっと今のは……」

「ふふ、ありがとう♪」


 輝く笑顔で未来ちゃんはお礼を返してくれた。

 そんなこんなで、すっごく幸せで長い休み時間が終わったのでした。

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