019 推しに膝枕
そこからというもの、とにかく特訓の日々が始まった。
未来ちゃんは中学の内容からして怪しかったので、とにかく総復習。別にうちの学校はレベルの高い学校ってわけじゃないので、中学の内容をマスターするだけでも25点くらいは取れるようになっている。
未来ちゃんは声優の仕事を頑張りながら、しっかりと勉強にも打ち込んでくれているみたい。やっぱり私、まっすぐ頑張れる未来ちゃんが好きだ。
そして……ついにテスト初日を迎えた。
「うーーん……」
「み、見事に燃え尽きているね」
「億劫だよぉ〜、テスト返却後に遠足なんて先のことすぎるよ〜」
確かに嫌なことがあると2週間先でも長く感じるね。ここまで頑張ってきたのに、本番でメンタルをやられてコンディションが落ちたらもったいない……。
そうだ、じゃあテスト返却前に楽しいことがあればいいのでは?
「ねぇ未来ちゃん、テスト最終日空いてる? もし良かったら未来ちゃんの好きなことして遊ばない?」
未来ちゃんにとっての楽しいことが私と遊ぶことと考えるのはずいぶんと不遜不敬極まりないことである。
しかし未来ちゃんが私に対してポジティブな感情を持ってくれていることは否定できない。それを感じ取れないほどに鈍感では無いよ!
「本当!? 遊ぶ遊ぶ! 最終日でしょ……うん、空いているから大丈夫だよ!」
1分前とは違い目をキラッキラさせて、士気が上がったようだった。よしよし、推しの喜びはオタクの喜び。こっちも嬉しくなっちゃった。
未来ちゃんの好きな遊びってなんだろう。むしろそこが気になってテストどころじゃなくなっちゃった。
まぁいいか、私は勉強が苦手ってわけじゃないし。
かくして4日間に渡るテストが始まった。
テスト期間は早く帰ることができるので、未来ちゃんは勉強してから仕事に行くらしい。
「池下さんにも勉強教えてもらってるんだ」
「え……混ざりたい」
大御所声優と推し声優の勉強会って、そんなん最強の空間じゃん。
テスト週間にも相変わらずの煩悩が漏れていた。
未来ちゃんが仕事がない時は家にお邪魔して私が勉強を教えている。対価なんていらないと言ったけど、未来ちゃんは毎回手作り料理を食べさせてくれた。だんだん料理も上手くなっていて、オタクとして誇らしい限りです。
そんなこんなで長く険しい4日間が終わり、ついに……
「おわっっっっっっったぁぁ!」
未来ちゃんが叫んだ通り、テスト期間が終了した。
「もー疲れたよ文ちゃ〜〜ん」
「うわぉ!?」
座っていた私の膝に頭を乗せてきたのでびっくり仰天してしまった。顔ちっさ! まつ毛長! 顔強!
「約束通り、今日は遊んでいいんだよね?」
「む、むしろ私の方が嬉しいよ。未来ちゃんと遊べるなんて」
「もう何言ってるの。私は友達なんだから遊んで当然だよ」
「とも……だち……」
「さぁ、行こっ!」
未来ちゃんは私の手を引いて教室を飛び出した。
「そっか……友達……へへっ」
「文ちゃん何か言った?」
「ううん。なんでもない」
心が温かくなった。これが幸せってやつだろうか。
未来ちゃんが転校してくるまで、学校では味わったことのないものだ。本当、あの日がターニングポイントだったんだなぁ。




