017 推し、告られるけど断る
「それにしても佳子ちゃんのセリフいいなぁ〜。ちょっと声をあててみよう!」
「えっ!?」
「すぅー……『君とお昼を食べたいな。ダメ?』」
「あぁぁぁあぁぁああぁあああああぁぁ」
「ふ、文ちゃん!?」
ずっっっっと願っていた。未来ちゃんが私の小説のキャラクターの声優さんになってほしいって。それが今、簡単な形だけど叶ってしまったんだ。
東山文の物語、完!
「文ちゃーん? おーーい!」
「はっ!」
意識がトリップしてしまった気がする。そうか、未来ちゃんのアフレコの衝撃でぶっ飛んだ……って思い出すとまた飛びそうになるね。
こんなところで完結してたまるか! まだまだ私の物語は続くよ!
それにしても未来ちゃんは私を惑わす悪い女ね! 急にアフレコしてくるなんて。
「文ちゃん大丈夫?」
「う、うん。ご迷惑をおかけしました」
「それならよかっ……」
「あ、あの星ヶ丘さん、ちょっといいかな」
私たちの会話中にクラスメイトが乱入してきた。
おいおい、女の子の会話に入ってくると叩かれるって、幼稚園の先生から教わらなかったのか?
「どうかしたの?」
「その……今から体育館裏に来てもらえないかな」
こ、これは!!!!
噂に聞くあれだ! 体育館裏の告白ってやつだ!
「いいけど……ごめんね文ちゃん、少し席を外すね」
「う、うん」
あの男子……名前は知らんがクラスメイトだな。……申し訳ないけどそこも自信なかったわ。
未来ちゃんに告白とはわかっているな。だが……私は許さんぞ! こっそりついて行ってやろう。
未来ちゃんはオーケーするのだろうか。そういえば転校初日に何度か告白されたことあるって言ってたな。じゃあこれも日常なわけか。
体育館裏は人の気配がなく、告白にはうってつけだろう。男子生徒は緊張した面持ちのまま、ついに言葉を紡いだ。
「星ヶ丘さん、一目惚れしました……付き合ってください!!」
「えっと……ごめんね、まず誰かな?」
「えっ」
うわ、えぐっ!
そもそも未来ちゃん側は認知していなかったやつだ。
「ごめんね、私はまだクラスの子、文ちゃんしか覚えていなくて……」
「そ、そんな……文ちゃんって誰すか」
テメェふざけんなよおい。なんで認知していないんだ……って私もこの人のこと知らないから同罪か。
「とにかく誰かもわからない人と付き合うのは無理かな。ごめんね」
「そ、そんな……せめて友達からでも!」
「問一」
「えっ?」
「私のデビュー作はなんでしょう」
「…………あ……え……」
何そのイージーすぎる問題は。そりゃもちろん『あなたに綺羅星届けたい』の近所のお姉さんC役だよ。
男子は10秒待っても答えられなかった。せめて初ネームドキャラくらいは覚えてから告白しような。
「もう一度考えてみて。本当に私のことが好きなのかどうか。一目惚れは悪いことじゃないと思うけど、恋愛はもっと相手のことを知ってからの方がいいと思うな」
「は、はい……でも連絡先くらいは……」
くどいなコイツ! さっさと帰れよ!
「連絡先かぁ、まぁそれくらいなら……」
「だ、ダメ!!」
あっ
「えっ? 文ちゃん!?」
「ええっ!? このいつもクラスの端にいるちんちくりんなやつが文ちゃん!?」
この野郎、後でコメント欄で叩かれろ。
「もうわけわかんねぇ! すみませんでしたぁ〜〜〜〜」
男子は小物感満載の捨て台詞を吐いて逃げ去ってしまった。
「文ちゃん、ダメってのはどういうことかな?」
「あ、えっと……未来ちゃんの連絡先を持っているのは私で、私以外が……あの……」
「ふふ、同担拒否?」
「ちょ、ちょっと違うと思う」
「あはは、文ちゃん面白い。やっぱり文ちゃんと一緒にいるのが一番楽しいなぁ」
そういう未来ちゃんは先ほどまでとは違って、ナチュラルな笑顔になっている気がした。
「戻ろっか、教室に」
「う、うん」
私は未来ちゃんがみんなに好かれたら嬉しいと思っている。
でも……なんで連絡先交換なんて未来ちゃんの自由なことを拒んだんだろう。頭で考えるより先に口と体が動くほどに。
もしかして私は未来ちゃんを推しているだけじゃなくて、未来ちゃんの特別な存在になりたいって思っているんじゃ……
「文ちゃん、そんな神妙な顔してどうしたの? ……あれ? 今度は赤くなっちゃった。おーい、文ちゃーん」
なんでこんなにドキドキしているんだろう。
私……なんかちょっと変だ。
 




