013 推しの手料理
「よーし、じゃあカレイの煮付けを作っちゃいますか!」
「わー! 楽しみー!」
「…………いやいやいや、未来ちゃんが作るんだよ!?」
「バレたか……」
未来ちゃんは目を逸らしてバツが悪そうな顔をしている。本当に料理が苦手なんだなぁ。苦手なもの欄に勉強だけじゃなく料理も追加するべきかもね。
「じゃあまずカレイの切り身についた水分をキッチンペーパーで拭き取ります」
「それくらいならできるよ! ……ああっ、骨が少し動いちゃった!」
い、意外にパワータイプなんだなぁ……。
「そんなに身崩れしてないから大丈夫だよ」
「良かったぁ……。それにしても文ちゃん、お料理得意なんだね」
「得意ってほどでもないけど、まぁうちは両親の帰りが遅いから、自分で作っているうちにね」
「そうなんだ……よし、私も頑張るぞ!」
ついに未来ちゃんの中でも料理に向き合う覚悟ができたようだ。
そこから未来ちゃんは素直にアドバイスを聞きながらカレイの煮付けを作ってくれた。
途中で身崩れしたり、ベタだけど砂糖と塩を間違えそうになったりしたけど可愛いからヨシ。
そして……
「できた〜♪」
「結構うまくできたね。じゃあこれは今日の夜に食べてください」
役目を終えた私が帰ろうとしたその時、未来ちゃんが私の腕を掴んだ。
「せっかくだから食べて欲しいな。2切れあるし」
「い、いいの?」
「うん! 一番初めは先生に食べて欲しいし」
「先生って……」
やった! 推しの手料理だ! しかも夕飯を一緒に囲めるなんてラッキー! という感情を顔に出さないようにした。推しの前ではあくまでクールにね。
カレイの煮付けと白米というなんとも淡白な夜ご飯だけど、まぁ初めてまともな料理をしたにしては上出来でしょう。
「いただきます」
「い、いただきます」
あれ? この箸ってもしかして普段から未来ちゃんが使っているやつでは? いやいや、まさかね。来客用のやつでしょう。
「文ちゃんごめんね、それ私が普段使ってるカップ麺用の箸なんだ。新品がよかったよね」
「普段使い箸ッッッッ!」
「うえっ!?」
椅子から射出されるレベルでたまげてしまった。推しの箸を使うなんて許されるのか? 推し保護法に違反するのでは?
「や、やっぱり嫌だったよね。箸買ってくるから」
「待って! 全然嫌じゃないしむしろ箸だったら私がこの箸を買い取りたいくらいです」
「デザインが気に入ったの?」
「え? あ……うん」
天然だ……。自分が推されていることをストレートに言わないと伝わらないらしい。
改めて、未来ちゃんが作ったカレイの煮付けを口に運んだ。
こ、これは!
「すごいよ未来ちゃん! 家庭の味だよ!」
「ほ、本当?」
「うん! 実家かと思ったくらい! いや〜安心感ある味!」
「まぁ文ちゃんの家のレシピで作ったんだもんね」
「あー……そりゃそうか」
「ふふっ、これで文ちゃんの家族になったも同然かなー?」
「なっ……み、未来ちゃん! そういうこと言うのやめてください! て、照れるから」
「あー! 文ちゃん照れてる〜、可愛い〜」
推しに可愛いと言われる! 嬉しいけどなんか複雑だ! アンタの方が可愛いわ! ってなる!
カレイの煮付けを食べ終わるともういい時間になっていたので、そろそろお暇することにした。
「文ちゃん今日はありがとうね。明日のアフレコ、絶対に成功させるから!」
「うん。応援しているし、オンエアを楽しみにしているよ。頑張ってね!」
未来ちゃんはにっこり笑って親指を立てた。うん、満点だ!
未来ちゃんは苦手なものにも取り組んで頑張っている。じゃあ次は私も、執筆頑張らないとだね!




