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6. はじめてのだんじょん ~こんな死に方は嫌だ~

 渦の正体がダンジョンである可能性が高いとの情報を得た自衛隊と日本政府に突き付けられた最大の問題は、ねむこにダンジョンに入ってもらうか否か、である。


 普通の女子高生を危険な場所に送り込むなんてとんでもない。

 だが中にはいれて調査できるのは彼女だけだ。

 彼女のスキルをもっと解析すべきだ。

 どうやって?スキルのこと自体、全然分かって無いのに。

 それを調べるのがお前達の仕事だろうが。

 そうこうしているうちにはぐれによる被害が増える一方だぞ。

 それは警察と協力して対処する方針に決まっただろ。


 決まらない議論を延々と繰り返す。

 誰も責任を取りたくないのだから当然の事である。


 そんな愚かな人間の行為は許さないとばかりに、渦から出てくるモンスターは徐々に強さを増し、はぐれにも強いモンスターが出現するようになってきた。


 被害者が増え、政府がテレビやネットで執拗に叩かれ、そんな中でねむこのスキルの情報が世間に漏れてしまった。


 そしてはじまる日本中を巻き込んだ大論争。


 ねむこの心配をする者と、はぐれに怯える者や被害者家族、そして日本を混乱させたいだけの某国の者。


 様々な思惑が入り乱れる中、オタク達が発信した一つの想像が蔓延して行く。




 そろそろスタンピードが起こるんじゃね?




 そうなった時に、果たして自衛隊と警察だけで対処できるのか。

 もし渦とは関係のない場所に大量にモンスターが出てきたら。


 そんな馬鹿なと鼻で笑う者達も、内心では怯えていた。

 何とかすべきだと声高に叫ぶものも、ねむこを単独でダンジョンに送り込めとは言えなかった。


 詰んでいるのだ。

 何を選んでも間違っていると炎上するのだ。


 その事実をようやく受け入れた日本政府が、重すぎる腰をあげた。


 とはいえ、肝心のねむこにやる気がなければ意味が無い。


 強制させることも出来るけれども、一介の女子高生に命をかけることを命じるなど、あまりにも体裁が悪すぎるからだ。


 そのねむこの答えは……


「やりまーす!」


 この答えに、ねむこを知る者は驚いた。

 ねむこはソロでの冒険を嫌がっていたから、きっとやりたくないのだろうと考えていたからだ。


 その疑問に答えるかのように、ねむこは条件を出した。


「中で動画撮りたい!それ持ち帰ってみんなで見てキャッキャするの!」


 ねむこはやっぱりねむこだった。


――――――――


 てなわけで、小難しい大人の事情はすっ飛ばして、初めてのダンジョン探索の日。


「お寿司!お寿司!」

「はいはい、終わったら凄い美味しいとこに連れて行ってあげるから」

「わーい!」


 もっきーのメッセージを信じるならば、日本で最後に発生した渦ならば、ねむこは死なずに探索出来るはず。


 ねむこはその渦がある場所、金沢にやってきた。


 金沢駅の東口を出ると大通りが真っすぐ伸びており、そこを進むと近江町市場に辿り着く。

 駅と市場の丁度真ん中あたりに渦が発生した。


 駅近くのビル街であり、大迷惑な場所である。


「それじゃあねむりちゃん、これ着てね」

「は~い」


 ねむこのお世話係は、はぐれに遭遇後に話を聞いてくれたお姉さんだ。

 あれをきっかけに専任になってしまったらしい。

 可哀想に。


「……これ、かわいくない」

「ご、ごめんね!」


 ねむこを我儘と責めてはならない。


 何故ならねむこは全身をプロテクターでガッチガチに固められていたからだ。

 アイスホッケーのキーパーのようなもの、と言えば分かる人には分かるかもしれない。

 しかも自衛隊が作ったからか、武骨でデザイン性が皆無のもの。


 いくら命を預ける装備とはいえ、花の女子高生が着て喜ぶものではない。


「今度までに可愛いのも用意するから!」

「は~い、あれ、なんか軽いよ」

「スキルで徹底的に軽量化してあるから」

「凄い、何も着てないみたい!」


 軽さだけではない。

 防御力に超特化された装備であり、オーガの全力の一撃を喰らっても衝撃がほとんど無いという代物だ。


「でもこれじゃあ武器を持てないよー」


 腕の関節部分もガチガチに固められており、曲げにくいのだ。

 これでは武器を持って攻撃することは出来そうに無い。


「うん、だからこれを持ち込んでね」

「おお、魔道具!」

「あはは、ただの爆弾だけどね」


 その代わりに攻撃は道具で行う。


 中の様子が分からない以上、日本で唯一渦の中に入れる人物を守るには、守備極振り装備を選ばざるを得なかったのだ。


 ねむこはそれ以外にもいくつか説明を受けて、いざ、ダンジョンへ。


「いい、ねむりちゃん。出られるようだったらすぐに出てくるのよ。間違っても、ちょっと探索してこよう、なんて思わないでね。約束してね」

「あはは~だいじょうぶだよ~」

「絶対に絶対だよ!」


 自衛隊のお姉さんはねむこの言葉を信じていない。

 その疑いは正しい。

 ねむこがダンジョンに入って何もせずに引き返すわけが無いのである。


「それじゃあ、いってきま~す」


 自衛隊員が敬礼で見送る中、ねむこは渦へと向かう。


 流石のねむこも不安があるのか、渦に手を伸ばす前に少しだけ躊躇したが、すぐに前に進みだした。

 そして他の誰が触っても通過するだけだった渦の中に、吸い込まれるように入ったのであった。


――――――――


「ここがダンジョフギャ!!」


 ダンジョンに突入した直後、ねむこは突如地面に叩きつけられた。


「(襲撃!?やばい!動けない!死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!)」


 まさかの待ち伏せに命の危機を感じたねむこだったが、地面にうつ伏せに倒れたまま体を全く動かせないでいる。


 もうダメだと思い、目をつぶる。


 しかしどこからも攻撃はやってこない。


「どういうこと?」


 体は変わらず動かせない。

 でもその敵からしたら絶好のチャンスに何も起きない。


「ええ、なにこれ、なーにー!」


 バタバタと暴れたいのに、それすらも許してもらえない。


「うーごーけーなーいー!」


 全身が地面に縫い付けられたかのようだ。


「むぅ、まるで重力強くする修行で強くし過ぎて動けなくなっちゃったみたい」


 そんなアニメのワンシーンをねむこは思い出していた。


「う~ん、本当になんなんだろう、コレ」


 今すぐに命の危機があるわけではなさそうなので、ねむこは冷静になって考えた。

 体を細かく動かして自分の状態を確認する。


「あれ、隙間があるとこは一応動くんだ」


 全身プロテクターとはいえ、体と完全に密着されているわけではない。

 隙間があるところ付近はほんの少しだけ動かすことが出来るし、重力で押さえつけられている感じもない。


「これってもしかして、この装備が重くなってるのかな」


 正解である。

 ねむこの装備は軽量化されていることが前提の装備であり、実は軽量化前は人が着られる重さでは無い。

 ダンジョンに入ったことで、何らかの理由で軽量化が解けてしまったのだろう。


「え?それじゃあこれどうすれば良いの?」


 ねむこは装備の重さで動けなくなり、ダンジョンの入り口でぶっ倒れているという状況だ。

 基本的には、起き上がらなければ装備は取り外せない。


「もしかして、ずっとこのまま……?」


 ねむこの筋力では決して起き上がることが出来ない。


 つまりこのままだとねむこに待ち受けているのは……


「餓死!?」


 栄養補給が出来ずに、このまま倒れたまま衰弱して死ぬ。

 それがねむこの運命である。


「そんな死に方いや~!餓死するならせめてダンジョンを迷わせてよ~!」


 入り口直後で装備の重さで倒れたまま、戻ることも出来ずに餓死するという、微妙な死に方。


「みんな~!助けて~!」


 どれだけ騒いでも、ダンジョンの中から外には声は届かないようだ。

 いや、届いているのかもしれないけれども、外から中に入れない以上、助けは期待できない。


「うわああああああああん」


 残念、ねむこのぼうけんはここでおわってしまった!


 ……

 …………

 ……………………


 ちーん。


 とはならなかった。


 幸運にも重大なことを思い出したからだ。


『ねむりちゃん、もし敵から逃げる時に動き辛くて装備を外したかったら、『パージ!』って叫んでね』


 力を使わずとも装備を外す方法があったのだった。


「ぱ、パージ!」


 ガシャン、と全身の防具が外れる音がした。


「うううう、おもーーーーい!」


 装備の接続が解除されただけなので、背中に装備がまだ乗っている。

 ねむこは全力でうりゃうりゃと動き、辛うじて装備地獄から脱出した。


「ふっかーつ!」


 勢いよく立ち上がって、元気いっぱいに右手を突き上げるポーズを取ろうとしたが、少しふらついた。

 装備に押し潰されていた状態から抜け出すべく何度も何度もあがいたため、すでに体力を使い果たしていたのだった。


 まだダンジョンに入って一歩しか進んでいないのに。

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