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4. やったねねむこちゃん、ねんがんのスキルをてにいれたぞ!

「その服触って良いですか?スキル見せて貰えませんか?私にも使えませんか?髪サラッサラですね!モンスターと戦ったことありますか?スタイル良いですね!魔法使いたいです!やっぱりオークの肉って美味しいんですか?私もモンスターと戦いたいです!この服もスキルでカッチカチですか?」


 二十人程度が入れそうな小さめの会議室にて、ねむこが迷彩服を着たお姉さんの周囲をグルグル回りウザ絡みをしていた。

 その様子を部屋の中の数名の自衛隊員が苦笑しながら眺めている。


「ええと……」


 自衛隊の若いお姉さんは、ねむこの質問攻めに苦笑い。

 少し離れたところで大人しく座っているにゃもちーに助けを求める視線を向けた。


「その子マグロだからどうしようもないので無視してください」

「そ、そう……」


 常に動いて無いと死ぬくらい元気なので相手にするだけ無駄、という意味での例えだったのだが、一部の男性隊員は別の事を想像したのか不自然に彼女達から目を逸らした。


 尤も、彼らがスルーしたのに、一人だけ空気を読まない女が居たが。


 もちろんねむこである。


「え!?私は敏感な方だよ?」

「何言って……っ!?」


 ねむこの言葉の意味を把握し、羞恥で顔を染めるにゃもちー。

 普段は冷静な彼女だが、ねむこにかかれば感情豊かになる。


 ……冷静な場面など殆ど描いて無い気もするが、冷静なのだ。


「マグロなのはにゃもちーだったりして、ぐふふ、確かめて見よっか~」

「ちょっ止めなさい!」


 おっさん臭く手をワキワキさせてねむこはにゃもちーににじり寄る。

 にゃもちーは胸を両手で隠して涙目である。


 ちなみに、マグロの意味が分からない人はそのままのあなたでいてください。


 なお、この時点で男性隊員は全員静かに部屋を出た。

 脳内では良からぬことを考える者もいるが、基本的に紳士なのだ。

 この晩、人知れずナニをするかは分からないが。


「もうノート見せてあげないわよ!」

「ごめん、ごめんってにゃもちー!次のテストで赤点取ったらお小遣いが無くなっちゃうよー!」


 ねむこは決して不真面目というわけではないが、集中出来ないタイプなので授業中に余計なことを考えてしまいノートも取り忘れる。

 そのためテスト前はいつもにゃもちーの力を借りている。

 それでもお察しの成績なので、罰として小遣いがどんどん減っているのだ。


「あの、そろそろ良いですか?」

「はーい」


 JKの絡みを見たがる男性隊員が居なくなったのを見計らったわけでは無いが、最初にウザ絡みされた隊員がそろそろ話を進めたいと声をかけた。

 もっと見たい女性隊員が小さく舌打ちしたのは誰も気が付いていない。


「それじゃあ改めて、『心地ここち ねむり』さんと『夜野よの 幸夢こゆめ』さん。襲われた時の話を聞かせてくれないかしら」




 救援にかけつけた自衛隊員によってゴブリンが倒された後、ねむこ達は自衛隊員に拉致、ではなく保護された。

 ゴブリンから指一本たりとも触れられることはなかったが、念のため検査入院して異常が無いかを確認するためだ。


 結果、心身ともに異状なし。


 はぐれモンスターに民間人が襲われるケースはこれまでにも何度かあった。

 襲われた人は体は無事であっても、心に大きな傷を負い、PTSDになる人が多い。


 それほどまでにモンスターから感じられる威圧感、嫌悪感や死の恐怖は強烈なものなのだ。


 だが二人には今のところそのような兆候はない。

 もちろん見た目からでは分からないセンシティブな話なので要経過観察。

 普段通りに見えて内心は、とか、何かをきっかけに豹変する、といったこともあり得るのだ。

 メンタルケア担当の隊員と定期的にお話しすることが決まっている。


 ねむこの担当は大変そうである。


 また、家族ともすぐに再会した。


「ねむりちゃああああん無事で良かったよおおおおおお!」

「はい、よちよち、ねむりは無事ですよー」


 ねむり母は抱き着いて号泣しているが、その頭をねむりを優しく撫でている。

 どっちが母だ。


 その様子をいかつい顔の父が腕を組みながら見守っている。

 その瞳にうっすらと涙が浮かんでいるのを見たねむこは戦慄した。


 涙が出る程に怒っているのか、と。

 普段、あまりにも怒られ過ぎであるため、心配していると思えなかったのだ。


 親の心、これだけ分かりやすく伝えても子知らず、であった。


 一方、にゃもちーの両親は真逆であった。

 母親は涙を浮かべているものの、優しく微笑んでいるだけ。


「うおおおおおあああ、幸夢ええええええええ!」


 パパン号泣である。

 それこそ、ねむこ母とは比べ物にならない程の号泣っぷりで、見るに堪えない姿となっている。


「キモイ!来ないで!汚い!くさい!きゃああああああ!誰か助けて!」


 パパンは泣いていい。

 もう泣いてたか。


 にゃもちーは本当は母親に抱き着いて泣きじゃくりたかったのに、それを阻止されてパパンへのヘイトがさらに上昇した。


 ねむこはゴブリンと同じ扱いであることをにゃもちーパパンに言いたくてウズウズしていた。


 などと感動的な?再会シーンを経て、翌日、退院前に詳しいお話をしましょうと自衛隊員から強制的なお誘いが来たのだった。




「二人とも、良く無事だったわね……」


 あまりの無茶苦茶っぷりに、お姉さんの頬がひきつっていた。


 小学生を助けるための行動だったので彼女達の行動を非難や否定することは無いが、これまでのはぐれの例では見たことが無いほどのアグレッシブな行動に思考がついていけないようだ。


「ゴブリン相手に普通に立ち回れたのが信じられないわ。怖くなかったの?」

「VRパワー!」

「え?え?」


 まだお姉さんはねむこの奇行に慣れていないようだった。

 代わりににゃもちーが説明した。


 お姉さんが質問し、ねむこがかき乱し、にゃもちーがフォローする流れで話は進み、誰かさんのせいでかなりの時間がかかって確認は終了した。


「こちらから聞きたいことは以上よ、ありがとう」

「それじゃあこちらからの質問タイムです!」

「ダメです」

「えー」


 あなたたちに教えられる話は何もありません。

 情報だけよこして後は帰りなさい。


 などという権力の横暴ではない。


「ふふふ、もう一つやることがあるのよ。質問はその後ね」


 部屋の中に髪がボサボサで、瓶底眼鏡をかけた女性が入って来た。

 今時その眼鏡どこで売っているのだろうか。


「二人にはこれから『鑑定』スキルを受けて貰うわ」

「鑑定キターー!」


 ガタっとねむこがまた立ち上がる。


 『鑑定』スキルと言えば、定番中の定番チートスキルである。

 作品によっては便利度に差があるが、これがあるのと無いのとでは冒険の難易度に天地の差があるだろう。


「別に心地さんが使えるようになるわけじゃないのよ?」

「それでも良いんですよ。だってスキルですよ、スキル。ワクワクするじゃないですか!」


 あるとは聞いていたが決して見る機会は無いと思っていたスキルが見られるのだから、それだけでもねむこのテンションは爆上がりだったのである。


「ワクワクしているところ申し訳ないのだけど、話を聞いて欲しいの。これからとてもとても大事なことを説明するから」

「はい!」


 元気いっぱいに着席し、ソワソワが止まらないねむこ。

 一方、にゃもちーは何処となく不安そうな表情を浮かべていた。


「二人とも『鑑定』スキルについては何となくイメージ出来ているみたいだから基本的な説明は省くわね」


 この手のテンプレを知っている人相手には説明が楽である。


「この『鑑定』スキルには、二つの効果があるわ。一つは相手のパラメータやスキルが見える事。パラメータには色々とあるのだけれど、それは今すぐに必要な話ではないので後回しにするわ」

「えー」


 気にするなと言われても無理だろう。

 モンスターと戦う予定が無くとも、自分の能力がどれくらいか、普通なら知りたくなるはずだ。

 ねむこの今回の抗議は当然の反応である。


「まぁ待って。これからもっと心地さんが大喜びする話をするから」

「?」

「この『鑑定』スキルの二つ目の効果。それはね、鑑定した相手が自分のスキルやパラメータを見られるようになるの」

「それって!」


 何故かこの『鑑定』スキルは、こっそり覗き見はダメですよ、設定がかかっているのだった。


「でも私達にスキルが付与されているのでしょうか」


 スキルがどうすれば付与されるのかは一般人には公開されていない。

 実は自分にはすでに何らかのスキルがあるのではと期待したオタク達が色々と試したが、今のところ成功者はゼロ。

 本当にスキルが存在するのかすら疑われている。


「それは間違いないわ。スキルが付与されるきっかけは『モンスターと戦う』だから。貴方達は間違いなくスキルが付与されているはずよ」

「良かった……立ち向かって本当に良かった……」

「うげー、やっぱり見捨てれば良かった」


 感無量といった感じで号泣するねむこと、心底嫌そうな顔をするにゃもちー。

 正反対で面白いなぁとのお姉さんの感想です。


「早く!早く!」

「はいはい、じゃあみーこ、お願い」

「はいよ。『鑑定』」


 ボサボサ女がねむこに向かって『鑑定』スキルを発動すると、ねむこの目の前に透明なステータス表が出現する。


「ふぉおおおおおおおお!これこれ、これだよおおおおおおおお!」


 歓喜に打ち震えて、早速熟読するねむこ。


「ええ!ステータス全部1ってどういうこと!?」

「それは問題無いわ。誰もが最初は……ってみーこ、どうしたの?」


 『鑑定』スキルでねむこのステータスを確認したボサボサ隊員の様子がおかしい。

 目を見開いて、食い入るように読んでいたのだ。


「これはとんでもないことになるぞ」

「え?」

「このスキルは……」


 不穏な様子に気付いたにゃもちーが、ねむこに慌てて駆け寄った。


「ねむこ、スキルを見て!」

「にゃもちー、パラメータがー」

「それは良いからスキル!早く!」

「うええ、怖いよーどうしたの?もう、スキルは……これかな『日本ダンジョン攻略』だって。なにこれ?」

「嘘……ホントに……?」

「え?何?どうしたの?何が変なの?ねぇにゃもちー!にゃもちーったら!」


 にゃもちーが驚いたのは『ダンジョン』という単語だ。


 数多くのオタク達により、世界中に出現した渦はダンジョンではないかと囁かれていた。

 だがあの渦は誰が触れても通過して、中に入れるようなものではないとの発表が為されている。

 その発表に対し、あれがダンジョンだと公開すると、中に入りたがる人が出て来るから国が隠しているのだろう、と声高に主張する人もいる。


 だが目の前の自衛隊員の焦り方から考えるに、偉い人達もあの渦が本当にダンジョンであるかどうかの判別がついていないのだろう。


 ねむこのスキルは、あれがダンジョンである可能性を指し示すものだったのだ。

 大慌てになるのも当然のことである。


「(他にダンジョンがある可能性もあるけれども、やっぱりあれがダンジョンだと思うのが自然か。はぁ……嫌だなぁ、これ、本当にねむこにダンジョンに連れてかれる流れじゃない)」


 がっくしと肩を落とすにゃもちー。

 自分のスキルがダンジョン探索向きではないことを願うばかりだ。


「おめでとう、ねむこ。あなたの大好きなダンジョンが実在するそうよ」

「ほんと!ってあ、そういうことか!」


 ようやくねむこも事の重大さに気付いたようだ。

 気付いた……よね?


「それで、そのスキルの説明は?」

「説明?ちょっと待ってて……どうやるんだろう。せつめーい、でろー、あ、出た。ふむふむ」


----

 ユニーク・・・・スキル『日本ダンジョン攻略』


 日本に発生した八つのダンジョンに出入りし、攻略することが出来る。

 対象:スキル保持者のみ

----


「だってさ」

「……」

「……」

「……」

「あれ、みんなどうしたの?」


 騒いでいた自衛隊員が一斉に静かになった。

 もしかすると『鑑定』スキルではスキルの詳細まで見えず、今のねむこのセリフで始めて具体的な内容を知ったのかもしれない。


「ね、ねむこ、分かって無いの?」

「何が?」

「最後のところ、もう一度読んでごらん」

「最後って『対象:スキル保持者のみ』ってやつ?」

「ところでねむこは、ソロで冒険したいんだっけ?」

「違うよ!みんなで冒険したいの!」

「もう一度スキルの説明を読んで」

「えー…………ふぇ」


 楽し気なねむこの表情が一気に涙目に変わる。

 両親との再会でも泣かなかったくせに。


「ごめんね、私は一緒に冒険出来そうに無いわ」

「で、でもでも、にゃもちーだって同じスキル持っているはずじゃん!」

「それはないわ」

「なんでよー!」

「だってそれってユニーク・・・・スキルなんでしょ?」 

「…………」


 世界でたった一つのスキル。

 つまり、日本ダンジョンに入れるのは世界で唯一、ねむこだけになるのだ。


「おめでとう、ねむこ。ダンジョンに行けるわね!」

「うわああああああああん!そうじゃなああああああああい!」


 やったねねむこちゃん、ねんがんのスキルをてにいれたぞ!



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