18. 適当にやるよ
「ねーむこー!」
「ゆーるぽー!」
「「ひしぃ!」」
中ボス撃破明けの登校日。
ねむこはまたしても学校中で大人気だった。
それもそのはず、鉛筆削り戦は敵の姿こそシュールだったものの、迫り来る数々の攻撃を躱しては受け止めての映えるシーンの連続だったからだ。
わちゃわちゃと揉みくちゃにされるところをにゃもちーに押し付け、ねむこはゆるぽの待つ音楽室へと向かった。
「いい加減にしなさい!」
「早かったねー」
「にゃもちーもお疲れー」
押し付けられたにゃもちーが案外早くにやってきた。
今回は特に説明することも無かったので直ぐに解放されたのだった。
「ゆるぽ、ねむこを甘やかすのは止めて」
「え~少しくらい良いじゃん。こんなに頑張ったんだからさ」
「そうだそうだー!」
ねむこはゆるぽのお膝に頭を乗せてお休み中だった。
なお、にゃもちーもゆるぽと面識がある。
というか、面識どころか幼馴染である。
「ねむこは遊んでただけだと思うけど」
「それは同意」
「ぶーぶー」
軽口を叩き合える気の合う仲間達。
ねむことしてはみんなに称賛されるのも悪くは無いけれど、こうやって二人と一緒に適当にだべる方がよっぽど心地良い。
「でもねむこ。本当に大丈夫?」
「それ私も思った。実は結構無茶してるでしょ」
「ん~そうでも無いよ」
配信画面に映るねむこの姿はいつだって楽しそうで、辛いとか恐怖といった負の感情を何処かに捨て去ったようだった。
いくらダンジョンが学校で文房具という子供だましみたいな敵を相手にしているとはいえ、全く抵抗無く受け入れているのは本来ならば変なのである。
ねむこの普段の天真爛漫な雰囲気から周囲の人間はそれが普通なのだと勘違いしていた。
「「嫌なら止めちゃえ」」
だけれども、幼馴染の二人だけは分かっていた。
ねむこが本心では怖がっていることも、痛いのが嫌だと思っていることも。
「そだねー」
ねむこもこの二人の前で本心を隠し続けることなどしない。
柔らかな膝の感触を堪能しながら、これからどうしようかと考える。
コンパスの攻撃は痛かった。
そして怖かった。
鉛筆削りの戦闘はいつ終わるか分からず不安だった。
敵が人型になっただけで恐怖感が激増した。
この先、これ以上に強い敵が出現するだろう。
例え装備を整えてもダメージを全く負わないなどあり得ない。
「適当にやるよ」
しかしねむこはダンジョン攻略を続けることを選択した。
この理由ばかりは幼馴染達も分からない。
ただ、ねむこがそう思ったのなら応援するだけだ。
「んじゃもっと気合入るようにデコりなおすかー」
「私はこの先の文房具を予想して対策を立ててみるわ」
「二人ともやる気だねー」
ねむこは立ち上がり、思いっきり伸びをした。
「んー!よし、それじゃちょびっとばかし頑張っちゃおうかな」
ダンジョン一階はまた新たな文房具が敵として立ちはだかった。
中でも厄介なのが消しゴムだ。
「あ~もう邪魔邪魔!」
消しゴム自体に攻撃能力は無いのだけれど、その身を挺してねむこの攻撃をガードして来る。
そして体が粉砕されてもまた合体して盾となる。
「ふんっ!」
幸いにも他の敵を撃破すると消しゴムも撃破扱いになって消えるため、ねむこは気合で消しゴムごと敵を粉砕して強引に突破する。
ただ苦労したのは消しゴムくらいだ。
事前ににゃもちーが敵の予測と戦法を考えてくれたこともあり、ダンジョン一階の攻略は順調に進み、ドロップアイテムもしっかりと集めて装備を強化した。
今回は色を集めるようなことも無かったので、実にあっさりと中ボスへの挑戦が決まった。
しかし……
「え?」
中ボス部屋と思われたその教室には何も無かった。
雑魚敵すら出てこなかった。
だけれども一つだけ、これまでに無かったことがある。
黒板にメッセージが書かれていたのだ。
『ボス戦、頑張ってね!』
どうやら学校ダンジョンはそろそろ終わりそうだ。
ねむこは一旦ダンジョンを出てあらゆる準備を整え、ボスが待つであろう『体育館』へと足を踏み入れた。