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17. 何も無いんかい!

「ねむこ、気を付けて!」

「にゃにおぅ!?」


 手も足も出せなくなったと思われた敵に大きな変化があった。


 鉛筆削りの透明な部分が開かれ、中に溜まった削りカスが飛び出して来たのだ。


「させるかい!」


 ねむこは慌てて鉛筆削りへと近寄り本体をしこたま殴った。


 トゲクソバットでダメージを与え、鉛筆削りは消えて無くなった。


 だがそれは削りカスを全て放出し終わっての事だった。


「ちくせう。そう簡単には終わらせてくれないってことねん」


 ねむこは一旦後ろに下がり様子を見る。


 削りカスたちはしばらくの間、天井付近を漂っていたが、それらが突然一か所に集まり圧縮された。


「そう来たか!」


 それを見たねむこの表情はこれまで見たことがないくらいに真剣だった。


 今度こそおふざけモードは封印である。


 何故ならその敵の姿が一筋縄ではいかなそうな形をしていたからだ。


「来い!ゴミクズカス人間!」


 煽っているわけではない。


 色鉛筆のクズでカスでゴミが人の形をしているのだ。


 ねむこの考えでは人型は強い。


 あのゴブリンのように。


「来ないならこっちから行くよ!」


 ゴミクズカス人間はねむこと同じ高さまで降りて来たので攻撃が届く。


「くっ、速い」


 装備ブーストでねむこの攻撃速度はそこそこ速いのだが、ゴミクズカス人間は軽やかに躱してしまう。


「逃げて、ばかり、じゃなくて、かかって、こーい!」


 相手が回避に専念している間は攻撃を当てるのが困難。


 しかし相手がねむこへ攻撃をしかけるタイミングならばカウンターで攻撃すれば当たるかもしれない。


 ねむこは一旦攻撃を止めて相手の様子を見ることにした。


 するとゴミクズカス人間は宙に浮いていた短くなった色鉛筆の欠片を手に取る。


 もう芯の部分も無くなってしまい使いようが無さそうなそれに、削りカスたちが纏わりつく。


 そして先端をねむこの方に向けると削りカスたちが勢いよく色鉛筆の周囲を回り始める。


「チャーンス!」


 これはコンパスの時と同じ流れだとねむこは気が付いた。


 つまりミサイルのように飛ばして来るのだろうと。


「ヤられる前にヤる!」


 ねむこに照準を合わせている今なら、先程までのように軽やかに避けられることは無いだろう。


 その考えは正しく、ゴミクズカス人間の動きは明らかに遅くなっていた。


「ほむらーん!」


 と言いつつも上からトゲクソバットを振り下ろすフェイントだ。


 敵がこちらの言葉を理解しているとは思えないが様式美のようなものである。


「きゃああああ!」


 色鉛筆ミサイルの発射とねむこの攻撃のヒットが同時であり、色鉛筆は両者を巻き込んで爆発した。


 ねむこは吹き飛ばされて柄にもない可愛い悲鳴をあげたが、床に激突はせずにしっかりと自らの足で着地した。


「ふふん、効いてる効いてるぅ!」


 ゴミクズカス人間の右手部分が消滅していた。


 だがいつの間にか左手部分に次の色鉛筆が仕込まれていた。


 ねむこは再度駆け寄り今度は発射前に攻撃を喰らわせた。


「これで、終わり!」


 今度は爆発せずにゴミクズカス人間の左手だけが消滅する。


 ねむこは勢いのままトゲクソバットを胴体に向けて横薙ぎした。


 ゴミクズカス人間は体を分断され、削りカスは力を失ったように地面に落ちる。


 宙に浮いていた残りの色鉛筆も同様だ。


 そしてそれらは消えて無くなった。


「大・勝・利!」


 トゲクソバットを掲げて勝利のクソポーズを決めた。


「そしてご褒美ターイム!」


 前回の中ボスを撃破した時、ねむこに新たなスキルが付与された。


 となると今回も何かがあるかもしれない。


 ねむこはワクワクしながら待った。


 ステータスボードを開いて変化が起きるのを待った。


 閉じたり開いたりして待った。


 教室の出入り口が開いて確実に中ボスを倒した扱いになっているのを確認して待った。


「……………………」


 しかしどれだけ経っても何も変化は怒らなかった。


 どうやらあのボーナスは最初だけらしい。


「何も無いんかい!」


 にゃもちーをダンジョンに引き入れる何かが手に入るかもしれないと期待していたのでがっかりだった。


 この女、まだ諦めてはいなかった。


「もういい、帰る!」


 これで学校ダンジョンの二階はクリアとなった。


 次は最下層の一階である。


 そこをクリアしたら隣の棟に移動するのか、それとも次が最後なのか。


「何が来てもやっつけちゃる!」


 ねむこは決意新たに、学校ダンジョンを後にした。

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