16. 学校ダンジョン2F 中ボス戦 ガリガリガリガリ
「おーし、いくべー」
諦めた途端にピンクの粉が大量に出るという嫌がらせを乗り越え、ねむこはついに二回目の中ボス戦へと向かった。
なお、せっかく集まったピンクの粉だが、今の装備に愛着が出てしまったので使っていない。
愛用のトゲクソバットを手に中ボスがいると思われる教室へと足を踏み入れた。
「んほ!」
変な声が出てしまったのは、これまでと教室の様子が少し異なっていたからだ。
机と椅子の数が減っていて、教室の後ろ側の四分の一くらいの範囲に置かれていなかった。
その代わりにとある巨大な文房具が置かれていた。
「鉛筆削りかー」
ハンドル式の巨大な鉛筆削り。
半分より下の部分は透明になっていて削られた部分が溜まったら取り外して捨てられるようになっている。
「ねむこ気を付けて、他にも敵がいるはずよ」
「だよねん」
鉛筆削りだけでは何も攻撃は出来そうに無い。
せいぜいが体当たり程度だろうが、そんな力業をするとは思えない。
「さぁ、かかってこーい!」
ねむこの声に反応してか、鉛筆削りの周囲にボスが出現した。
「めっちゃ多い。やばす」
「色付き……これまでと何か違うのかしら」
鉛筆削りがあるのだからペアで登場するのは鉛筆だろう。
だが単なる鉛筆では無く、色とりどりの色鉛筆だった。
「ねむこ来るわよ!」
「おうさ」
クレヨンは体当たり、シャープペンシルは遠距離攻撃、そして鉛筆は物体の具現化。
コンパスにセットされていた鉛筆がそうであったように、二階で出現した鉛筆も同じく物体を具現化して攻撃してきた。
となると色鉛筆達も何かを生み出すと想定できる。
「やっぱりお絵描きかにゃ~」
色鉛筆達は宙に絵を描き始めた。
だがそれらはこれまでのように雑魚敵ではなく、純粋に『絵』だった。
例えば黄色を使ってジグザグと太い線を描けば。
「ぎゃー!当たるー!いやー!しーびーれーるー!」
天井から雷が落ちてくる。
例えば白色を使って小さな丸い粒を大量に描けば。
「ささささ、ざぶいざぶいざぶいざぶい!」
たちまき教室内は吹雪に見舞われる。
例えば赤色を使ってギザギザの葉っぱのような形を描けば。
「うおー!あっちいいいい!」
教室の床は炎で燃え上がる。
ねむこは次々と繰り出される色鉛筆達の攻撃を必死になって避けていた。
「ねむこ、このまま耐えるのはしんどいからこちらから攻撃しましょう!」
「そうしたいんだけど無理なの!」
厄介な色鉛筆そのものを撃破しようにも、見えない壁があって教室の後ろ側に行けないのだ。
その壁はクソトゲバットで殴ってもビクともしない。
「となるとこれって耐久勝負なのかしら」
「めんどいよー!」
強風が吹き荒れ、大岩が転がり、氷が飛んでくる。
ただし、シンプルな攻撃ばかりなので装備をしっかりと整えたねむこにとっては耐えるのはそう大変ではない。
ドラゴンなどの強敵を描くようなことが無いのは、このダンジョンが簡単な証なのだろう。
「ムッキー!削るなー!」
色鉛筆は空中に絵を描くと芯が減って描けなくなるのだが、鉛筆削りに突っ込んで復活する。
つまり色鉛筆が削れなくなる程に小さくなるまで耐える必要があるということだ。
「んぎゃー!混ざるな!ほむらーん!」
床が炎で一杯なので机の上を逃げていたら氷が飛んで来たので打ち返す。
徐々に複数の攻撃が同時に飛んでくるようになる。
「こらぁ!緑仕事しろよ!」
ねむこはまだ余裕があるのか、ほとんど動いていない緑の色鉛筆を煽った。
「ちょ、草生える」
すると床に草が生えてねむこも草生えた。
しかしこれが地味に嫌らしい。
「草結ぶなし」
長めの草が蝶々結びになっていて足がひっかかるのだ。
「もういいもん!ずっと飛んでるから」
とか言って床に降りずに机の上にいると。
「ぬおおおお!強風はずっこい!」
風で吹き飛ばされて落とされてしまう。
ねむこ、完全に遊ばれている。
「削るなああああ!」
ガリガリガリガリ。
延々と削られる音が教室内に響いており、攻撃が止む気配が無い。
装備に着色している効果でどの攻撃も耐えられはするのだけれども、絶妙にギリギリ喰らいたくない程度のダメージを与えて来るのが嫌らしすぎる。
「隠れてないで出て来ーーーーい!この鶏肉共がーーーー!」
その手の煽りにだけは絶対に反応せず、徹底して安全圏から攻撃を仕掛けてくる。
だがそれも終わりが来る。
ようやく色鉛筆が尽きる時が来たのだ。
「よっしゃああああ!終わったああああ!」
今回はコンパスの時のようにヒヤっとするシーンも無かった。
ただただひたすらに面倒臭いだけ。
見ている方としては必死に逃げるねむこの姿は映えていたかもしれないが。
パリンと小さな音がした。
ねむこは直感的に、見えない壁が消失したと分かった。
残された敵は何も描けず削ることも出来ない短い色鉛筆数本と、攻撃が出来そうに無い鉛筆削り。
これまでのうっ憤を晴らすべく、据わった目のねむこはトゲバットを構えてそれらに近づいた。