14. ドーン!
「おーし、いくべー」
「気を抜かないのよ」
「おっすおっす」
世間がどうなろうとも、ねむこのやることは変わらない。
日本政府としては国としてのねむこの扱いが決まるまでは何もして欲しくなかったのだけれど、ねむこに行くと言われたら断れなかった。
ここでダメだと言って、二度と入らないなどと機嫌を損ねたら大変だからだ。
ねむこの意思は絶対なのだ。
かわいそうに。
「にゃもちー、配信のチェックおね」
「ちゃんと見えてるわよ」
「おー、どんな感じ」
「今はねむこの右斜め上くらいから少し見下ろすような感じで撮られてるわ」
「この辺りかにゃ。にぱー」
見えないところに向かって天使のスマイルを浮かべるねむこ。
世界中の大きなお兄ちゃんのハートを打ち抜いた。
「何やってるのよ」
「サービスサービス」
「サービスしたいなら全裸にでもなったら?」
「その手があったか」
この会話も実は世界中の人に聞かれてたりする。
大きなお兄ちゃんがドキドキしている。
一部の大きなお姉ちゃんもドキドキしている。
「でもその辺りどうなのかしら」
「センシティコンブなのは映さないでくれるってのが定番だよね」
「案外謎の光かも」
「試しににゃもちー全裸の写真を送ってよ。カメラに映してみるから」
「おいコラ」
「そういえば前に隠し撮りしたやつが……」
「コラああああ!それやったらねむこを殺して私も死ぬからね!」
そして誰もダンジョンを攻略できなくなり日本も死ぬ。
壮大な道連れである。
冗談とは分かっているものの、偉い人や自衛隊員は冷や汗が止まらない。
「わっちは死なない。何度でも蘇るのさ」
「ならさっさと死んできなさい」
「ほーい」
ねむこはようやくダンジョンを進み始めた。
なお、自動配信スキルの説明に『メッセージのやりとりも可』と書いてあったが、確かにねむこが念じると映像を見ている人達からのコメントを見れたのだが、世界中の人が見ているから爆速でログが流れて読めなかったので見るのを諦めた。
「前回の続きからイクゾー」
中ボスを倒した先には美術室があった。
その扉を開けると日本に戻って来れて、次に入る時に途中からが良いなと思いながら入ったらそこから再開出来た。
なお、最初からが良いなと思えば音楽室から開始出来た。
そんなこんなでねむこは防火扉で塞がれていなかった美術室近くの階段を降りて二階へと向かった。
一階への道はもちろん塞がれている。
再度廊下を反対側まで歩けという事なのだろう。
「違う敵だと良いなぁ。コンパスは無しで」
もう分度器や定規は飽きた。
輪ゴムはうざいから嫌。
コンパスはひたすら接近して殴れば良いと分かったので今度は倒せそうだけれども一撃必殺が怖いから嫌だ。
ということで、別の敵を希望した。
「たのもー」
教室内はこれまでとは違い、机と椅子が綺麗に並べられていた。
「おやおや、生徒がいるのかな。む、動かない」
ねむこはなんとなく座ろうとしたけれど固定されていて動かなかった。
「ざーんねん。しゃーない行くか」
修理されて新たにデコられたプラスチック装備に身を包み、トゲバットを構えてねむこは敵の出現に備えた。
「違うのキターーーー!」
宙に出現したのはとても懐かしいものだった。
「ええと、なんだけ。確かクレ、クレ……」
「クレヨンよ」
「そうそれ、〇んちゃん!」
だから危ない事を言うなって。
疑問に思った外国人が調べて大炎上するぞ。
実際この少し後、ケ〇だけ星人が世界中の子供達の間で大流行して大人達がこの世の終わりだと叫んだのであった。
「さぁかかって来なさい」
クレヨンの本数は五本。
いずれも一メートル程の長さでぶっとい。
ねむこの挑発に反応したのか、クレヨンが一斉に先端をねむこの方に向けた。
「わぁお、大人気」
「ねむこ出来るだけ避けて」
「ほいよん」
一番左端のクレヨンがねむこに向かって突撃して来た。
「わわ、邪魔ぁ!」
慌てて回避しようとするものの、固定されている机と椅子が移動を制限する。
「ふんぬ!」
クレヨンが当たる直前でどうにか身を捻って交わした。
コンパスの時もそうだったが、ねむこの得意の動きなのかもしれない。
「え?何々!?」
クレヨンはそのまま地面にぶつかりドーンと爆発した。
しかも結構な轟音を立てたので威力もありそうだ。
「ねむこ、そいつは機雷よ。必死で避けなさい!」
「うっそー」
今度は残りのクレヨンが順番にねむこに向かって飛来する。
「来るにゃー!」
一つ避けてもすぐに次が襲ってくる。
動きを止めたらその時点でアウトだ。
雑魚戦なので一度くらいは被弾しても耐えられるかもしれないが、複数回被弾したら死にはせずともかなりの大ダメージを喰らいそう。
「いた、いた、もう、邪魔!」
慌てて避けようとするので移動を制限する椅子や机にあたり、地味にダメージを受けてしまう。
「うっひょー!ぎゃー!みょー!」
なんとか四本までは避け切った。
だけれども大きくバランスを崩してしまい最後の一本を避けられない。
「これでなんとかなって!」
慌ててトゲバットを構えてクレヨンを受け止めた。
「きゃああああ!」
爆発の威力でねむこは吹き飛ばされる。
しかし、爆発そのものによるダメージは受けなかった。
その代わりに……
「折れてるうううう!」
無念、愛用のトゲバットはここでお亡くなりになったのであった。