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1. プロローグ(表舞台で戦う者達)

主人公は次の話から登場します。

「モンスター出現確認。対象はゴブリンメイジ二体とオーガ一体」

「了解、我々C班が対応にあたります」

「無理はしないように。苦戦するようでしたらD班の応援を待つこと」

「はい」


 男は無線を切ると、チームを組んでいる二人の仲間に指示を出す。


「これよりモンスター殲滅行動を開始する。無線を聞いていたとは思うが、今回の対象はゴブリンマージ二体とオーガ一体。我々三人であれば十分に対処可能な相手だ。二人とも急いで準備しろ」

「準備完了しております」

「私もいつでもいけます!」


 冷静に答えたのは若い男性。先端に宝石のようなものがつけられた体よりも大きな杖を右手に持っている。

 元気良く答えたのは小柄な若い女性。体格的に持てるとは思えない大剣を軽々と肩に担いでいる。


 リーダーは二人の回答を聞いて満足気に頷き、急いで自分の準備をする。

 準備といっても、無線に出ている間にテーブルの上に置いておいた小柄な盾を手にするだけだが。

 不思議なことに、その盾を左右の手にそれぞれ持っている。


 なお、彼らは武器こそ目立ったものを持っているが、防具に関してはそうではない。

 彼らの衣服は普段着慣れている正装のようなもの、迷彩服だ。

 実はスキルによって守備力を大幅に向上させてあるため、そのままで問題無いのである。


「場所は渋谷公会堂近くの交差点だ。急ぐぞ」

「「はい!」」


 出現したモンスターを討伐すべく、渋谷駅付近を警戒していた自衛隊のC班が現場に向かって走り出す。


 全く人気ひとけのない渋谷の街を駆け、報告通りに目的地付近でモンスターを発見する。

 敵に気付かれないうちに、リーダーはチームメンバーにハンドサインを出して三人バラけて建物の陰に身を隠す。


 視線の先ではファンタジーお約束の小鬼ゴブリン大鬼オーガが周囲をキョロキョロ見回している。


 ゴブリンは二体で、小さな杖を持っているため魔法を使うタイプのゴブリンメイジで間違いない。

 オーガは一体のみで無手である。

 いずれも自衛隊が情報を持っている既知のタイプの敵であり、イレギュラーでは無さそうだ。


 リーダーは敵の情報を分析し終えると、離れて隠れている仲間達にハンドサインを出す。


 すると三人は同時に飛び出してモンスター達に襲い掛かった。


「グゲッ!」


 襲来に気付いたゴブリンメイジが魔法の詠唱を始める。

 魔法は最低でも五秒の溜めが必要なため、前衛の二人はその間に敵との距離を出来るだけ縮める。


 後衛の男は飛び出す前に既に詠唱を終えており、敵よりも先に魔法を放った。


「フレイムピラー!」


 ゴブリンメイジの片割れの足元から円形の炎の柱が立ち昇り、いとも簡単に焼き尽くす。

 男は高威力の単体攻撃魔法の使い手であり、魔法耐性がそれなりにあるゴブリンメイジでさえもあっさりと葬った。


 しかし速攻で潰せたのは一体のみ。

 もう一体のゴブリンメイジは詠唱を終えてこちらへと攻撃を放とうとしていた。


「何勝手な事してんだよ!!!!」


 リーダーの男が吠えると、オーガとゴブリンメイジが驚いたようにリーダーに注目する。

 挑発スキルを使い、ヘイトを自分に集中させたのだ。

 このスキルは相手が自分よりも極端に弱い場合、詠唱をキャンセルさせる効果がある。

 ゴブリンメイジの魔法は霧散し、再度詠唱を余儀なくされた。


「ざーんねん。間に合いませんでしたーっと」


 その頃には前衛は敵の元に辿り着いており、ゴブリンメイジは女性剣士の手により難なく斬り捨てられた。


 最後の一匹であるオーガは別格の相手だ。

 軽く腕を一振りするだけで車をスクラップに出来る程の怪力の持ち主であり、肌が硬く防御力も高い。


「オラ、オラ、オラ、オラ、どうした、そんなもんか、ぬるい、ぬるい、ぬるい、ぬるいわああああ!」


 その強敵による拳の連撃を、リーダーは両手に持つ盾で次々と受け流す。

 なお、ハイテンションなのはスキルは関係なくリーダーの性格である。


 二盾流。


 盾は一つで良いのではと言ってはならない。

 彼の意思とは関係なくこのスキルが付与されてしまったため、盾を二つ使わないと何も出来ないのだ。


「曹長今日もノリノリだねぇ。っていけない、仕事しなきゃあとで怒られる」


 大剣使いの女性は隙をみてオーガを斬りつけるが、硬い皮膚を深く傷つけるのは難しい。


 リーダーがヘイト獲得系のスキルを使いオーガの攻撃を引き受け、剣士の女性と魔術師の男性が隙を見て攻撃を仕掛ける。

 決してリーダーを巻き込むことはせず、オーガからヘイトを取りすぎないように絶妙なバランスで攻撃するチームワークの良さが、この班の大きな強みである。


 だがそれでも、いずれは攻撃側のヘイトがタンクのヘイトよりも上回る時が来る。


 傷だらけになったオーガがついに、攻撃の矛先を女性剣士に向けようとしたその時。


「どこ見てんだよオラァ!」


 リーダーが右手に持っていた赤い小盾をオーガの腹に押し付ける。

 その盾は不思議とオーガの腹にくっつき落ちない。


 リーダーと女性剣士は大きなバックステップでオーガと距離を取る。


「爆ぜろ!」

「グオオオオオオオオ!」


 赤い小盾が爆発し、オーガの腹部に大きなダメージを与え、よろめかせる。


「貰った!『ぶった斬る!』」


 大剣を全力で上段から振り下ろす技、『ぶった斬る!』

 名前がアレだが、技名が勝手に決められているのでこの女性剣士を責めてはならない。

 本人は喜んでいるらしいが。


 オーガはダメージを負っているとはいえ、まだまだ体力が残っているため流石に脳天から真っ二つとはいかない。

 今回は腹部へ向けて技を発動した。


「ヌグオオオオオオオオ!」


 大剣での全力の一撃を受けて更に叫び声をあげるオーガ。

 そこに、トドメの一撃が飛んでくる。


「ミクロフレア!」


 炎の力を小さな球体上に圧縮させた超強力な炎魔法。

 発動には長い溜めが必要だが、魔術師の男は場の状況を良く観察し、最高のタイミングで発動出来るように調整していた。


「ヌグアッ!グフッ……」


 攻撃を全て腹部に集中させられたオーガは上下真っ二つに分断されて斃れた。


「警戒!」


 敵の殲滅は完了したが、他にも見落としている相手がいるかもしれないため、リーダーは仲間に警戒を促した。実際、敵集団を倒したと思ったタイミングで油断して攻撃され、重傷を負った隊員がいたのだ。


 今回はそのようなことはなく、戦闘は無事に終了となった。


「よし、D班が到着次第、本部に戻り状況報告をする」


 そう仲間に指示をしたリーダーの右手には、新たな小盾が装備されていた。

 腰についている小さな袋がアイテムボックスとなっており、爆発する小盾が何個も入っているのだ。


 この小盾爆破からの大技コンボが、このチームの最大威力の攻撃である。

 オーガであればこのコンボで確実に倒せると分かっていたからこそ、応援を待たずに戦闘に踏み切ったのだった。


「今回は被害なし、か。全く、いつまでこんな生活が続くのか。いや、いつまで保つのか、って言う方が正しいか」


 リーダーの呟きは風に乗り、無人の渋谷の街中へと溶けて行く。

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