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第5話

「結婚やっぱりやめるわ!」


 キャサリンはそう言うと、くるりと振り返り、ベールをかなぐり捨て、ブーケも投げ捨てて夫の方に歩み寄り、ぐっ、と腕を掴んだ。


「お願い、結婚やめろって言って」


 はあ?

 私も夫も唖然とした。

 キャサリンはそのまま夫の手を引っ張り、立たせようとした。

 だが夫は唖然としたまま動こうとはしなかったので、椅子から転げ落ちてしまった。


「やっぱり嫌! このひとじゃないと嫌! 姉さんに取られるのは嫌!」


 そう言って夫に抱きついて離れようとしないキャサリンを、父は慌てて離そうとした。

 だが思った以上の力でなかなか離れない。

 夫は体勢を崩し、椅子に挟まれていて身動きが取れず、彼女から逃れることができなかった。

 私はかがみ込み、キャサリンを引き剥がそうとした。


「姉さんは何でも良くできたから! 私にくれたっていいじゃない! 私ずっと好きだったんだもの!」


 花婿のはずの義兄はその様子を顔色を変えて眺めていた。

 私は思いきり妹の頬を打った。


「良くできるための努力はしてきたわ。貴女はそれをしてきたの?」

「やってもやってもわからないできない私の気持ちなんて姉さんには判らない!」


 そしてわっとその場に泣き伏してしまった。

 それっ、と父は使用人も使って一気に妹を引き離した。

 無論結婚式は中止――というか、結婚そのものが駄目になった。

 妹は泣いていたかと思うと今度は暴れたため、実家へと連れていかれた。

 夫は義兄に対し、何と言葉をかけていいのか判らない様だった。

 本当にいいひとなのに。

 ぽつんと残され、ばたばたと連れて行かれる花嫁だった女を眺める彼は、見るのが辛くなる程だった。


 さすがにこの騒動は社交界で相当な噂になった。

 義兄は父の口添えもあって、国外の職場を用意され、旅だっていった。

 家同士の縁は私と夫でつながってはいるが、それにしても酷い顛末だった。

 妹は、と言えば実家から何処かの別荘で隔離しようとかという話もあった。

 だがそれを父は拒んだ。

 あの場で唐突に起こした行動はさすがに見逃せるものではなかったのだ。


「私達が甘くしたから……」


 そう泣く母や祖母に対し父や祖父は首を横に振る。


「いや違う。あの子はどこまでも子供のままなんだ」

「……そのまま別荘になどやったら、その場に迷い込んだ者と何をするかわからん……」


 私と夫はただため息をつくばかり。


「たぶん、最初からボタンをかけ間違えていたんだわ」

「間違えて?」

「あの子には私達と同じ教育ではいけなかったのよ」


 そう。

 キャサリンははじめから「それは無理があるんだ」って全身で訴えてたじゃないか。


「それじゃあずっとこのまま、屋敷に閉じ込めておくのか?」

「庭に離れがあるから、そっちにお母様と一緒に暮らすみたい」

「そうか……」

「あと、私と貴方はしばらく出入り禁止。特に貴方は。お父様は済まなそうな顔だったわ。用事がある時には向こうから出向いてくるって言っていたわ」

「そうか」


 そう言って夫は横に座る私の膝にもたれて来る。

 そして私の下腹に触れて。


「俺達の子供は、ちゃんと間違わない様にしような」


 そうね、と私はうなずいた。

 今お腹の中に居る子供だけでなく、その後生まれる子達も。

 皆それぞれちゃんと見定めて。 


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― 新着の感想 ―
[一言] 気持ち悪い話だった 無意識に人を見下して、見下した人間が粗相をすると全ての責任をその人になすりつけて 登場人物全員吐き気がする
[一言] 向き不向きは有るから勉強が苦手は仕方がない。勉強でなくて運動だったり音楽だったり、それも個性と言い切っても良いと思う。しかし、善悪(時代や社会に合わせた)の理解については、親が責任をもって教…
[一言] 子育ては難しい。
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