第9話 強敵
「──だからやっぱり命神コアトリクエとレナトゥスの関係は否めないと思うの」
「新しい究極生命体のレナトゥスは分かりますよ。今は太陽内部に潜んでるだとか、数ヵ月後に地球に降り立つとか。でも……」
「でもー?」
「やっぱり未だに神の存在なんて完全には信じられません」
A0-5はあの後、机を挟んで僕たちの正面に腰掛けると説明を始めた。
その内容については、簡単に言えば"新たな究極生命体"と"以前観測された神"について。
いきなり何のことだと戸惑うのは分かる、僕もそうだった──というか今でも信じきれてない。
イザナミは僕の言葉に『はぁ……』とため息をつくと腰に手を当てて、『やれやれ』と言わんばかりの素振りを。
そして口を開いた。
「メシア、ほんとにいるんだから信じるしかないでしょ」
「いやまあそうだけどさ……」
「怯えてるなら後で私がいくらでも慰めてあげるから、とりあえず今は話聞くの、わかった?」
僕は彼女の言葉にこくりと頷く。
この話は二回目、半年前にA0-2から伝えられて以来だ。
あの後も正直ピンと来ていなかった。
そして今になっても信じきれていない自分の気持ちをなんとか飲み込む。
「それでね、今太陽内部に存在してる究極生命体レナトゥスは、命神コアトリクエが造ったんじゃないかって私たちAPEX社は睨んでるの」
「その命神コアトリクエの『命に関する力』に着目したってこと?」
「イザナミちゃん冴えてるねー、そういうこと。命神コアトリクエが何らかの目的の為に究極生命体レナトゥスを造って、それを置いて消えてった──」
「──そう考えれば二人が突如として同時に現れた辻褄があう。そういうことでしょ」
イザナミは落ち着いた性格、そして本当に頭が良い。
彼女に搭載された人工知能の影響もあるのだろうが、彼女は何一つ表情変えることなくA0-5の話すことを当ててゆく。
半年前にこの驚くべき事実を伝えられた時ですら、彼女は特に戸惑うことはなかったという。
先程話していた僕が大賢高校に通うことになった理由──大切な人を沢山作るためということ。
その大切な人が危険に晒されれば僕は自責する。
そしてその自責は僕の能力を覚醒させる条件。
強い敵がもし現れたら、今の自分にはそれに太刀打ちできる力なんてない──
だから強敵が現れる前に、早いうちに力をつけておこう──現状はそんな生易しいものじゃない。
「いきなり太陽から新たに究極生命体が検出されるし、それとは別に今までにない圧倒的強さの、しかも究極生命体じゃない神とかいうのが現れるし」
「それも全部半年前、いきなり、しかも同時に二人が現れましたからね」
「そうそう、発見してやばいってなって、今からメシアくん鍛えても間に合うのかなーとか。もう私たち終わったのかなーとか思ってさー」
ため息混じりで自分の心を赤裸々に口にするA0-5。
机にだらんと腕と顔を伏せ、その薄い赤の髪がぐしゃっと崩れていた。
僕のことを貶されたイザナミは『チッ』と舌打ちするが、僕は何も言うことが出来ず黙っていた。
そうだ、もう強敵の存在は決まってるんだ──
戦うことは避けられない、そういう運命なんだ──
「でも……勝ちます絶対に」
「ふーん、メシア君随分頼もしいね」
「A0-5とは違って私はメシアのこと心から信じてるからね大丈夫。メシアには私がついてるよ」
イザナミのその発言に心做しか肩の荷が重くなる。
僕は口から出そうになったため息をぐっと抑え、飲み込んだ。
そして『よし』と一言言うと立ち上がる。
「あ、イザナミちゃんはこの後追加で話したいことあるから待っててね」
「私たちに割り込んできたってのにまだあるの」
「しょうがないでしょー? 別の資料取りに行ってくるからちょっと待っててね」
そうイザナミに言うA0-5、僕はそんな彼女とともに部屋を出た。
僕にもう話す用はないらしく自然と自室に帰る流れに。
僕はそのままゆっくりとこの廊下の歩みを進めた。
★★★
そんな中でまた違った部屋、A0-2専用の研究室──
彼女はパソコンを眺めていた。
画面に写っていたのは今朝のトレインジャックについてのニュース記事。
「トレインジャックの被害者──皇爽真、そして……雫。巡り巡って私が結局日本支部に派遣されるとはな」
ぽつりぽつりと呟くA0-2。
ブラックコーヒーを一口飲んで彼女は引き出しを開けた。
そこには額縁に飾られた写真──それにはヒビが入っていた。
彼女はそれを見て再び言った。
「これも運命というやつなのかもしれないな──」
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