第87話 第六感
「メシア……、我々は彼の力を見誤っていたのかもしれない──」
「見誤っていた……?」
「ああ。ジョーカーが相手の能力をも消せるとなれば、彼は想定以上の強さとなる──」
A0-2は少しの間を開ける。
僕の目をじっと真剣に見つめながら、彼女は言い放った。
「──彼は君の脅威となりうる……。能力が使えない究極生命体など、そこらの人間とさほど変わらないのだから」
A0-2が淡々と言葉を紡いでいく。
そうだ、究極生命体というのは能力あってこそのもの……。
「メシア、たとえ究極生命体一の実力の君であっても、その光を操る能力を失えばジョーカーの前では無力──」
彼女が僕にかけたその言葉。
僕もまったく同感であった。
しかし──
「──いや、そんなことないぜ!?」
当のジョーカーはそれを否定する。
「メシアは光を操る能力なしでも十分強えよ! いいかA0-2! よく見てろ──!」
「──何をする気だジョーカー!」
「──削除」
ジョーカーがその単語を口にしたのを僕は感じとった。
彼がそれを言ったということはつまり……彼からの攻撃がくる──
僕は能力を発動しようとするが、僕の体は何の反応も示さない。
やはりジョーカーに能力を消されているのだ。
そんな中彼は──
「ロッツ・オブ・パンチング──!」
技名のような何かを言い放った。
直訳すれば「たくさんのパンチ」、しかし技名にしては安直すぎる……
そんなことを思っているうちに、先程まで捉えていたはずのジョーカーの姿が一瞬にして拡大される。
彼はすぐそこまで来ていた。
彼の握り拳が見える。
それが僕に向かって飛んでくることを予想するのは、赤子でもわかるほど容易なことであった──
やっぱり能力なしじゃ……僕は無力だ……。
テレビ局の時と同じ……、誰も守れない……!
僕は……僕は何も……、成長していないじゃないか──!
自分の無力さを感じ、僕はぐっと力強く目をつむる。
「……………………!」
……何も起きない。
「……………………、あれ?」
異変に気づき、僕はゆっくりと目を開く。
瞳孔に光が差し込んだ。
僕は目の前の光景を捉える。
「ジョーカー……?」
彼の拳は僕の目と鼻の先にあった。
しかし、それはまったく動かず、まるで時が止まっているかのよう。
「何だこれ……」
続けて僕の目に飛び込んできたのは驚くべきもの。
ジョーカーの拳はひとつではなかった。
コマ撮りのように、大量に空中に存在していたのだ。
更には、その拳一つ一つに刻まれたしわ。
彼の仮面についたかすかな傷跡。
ありとあらゆるものが、視力がありえないほど上がったかのようにくっきりと見える。
それだけでない、この部屋全体に何が、どのような配置で存在しているのか、手に取るようにわかる。
それは目に見えるはずのない、背後にある物でも同じ。
何だこの感覚は──、何が起きている──!?
自分自身を第三者視点で見ているかのように、すべてを完璧に感じ取れるのだ。
言うならばまさにそれは────"第六感"であった。
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