第84話 火種
「わかりません、なんの前触れもなく一瞬で現れましたから。まるで……"元からそこに居たかのように"──」
イザナミのその言葉で、部屋全体がどこか不気味な雰囲気に覆われた。
僕たちは三人とも立ち上がり、ドアの方を警戒する。
「ねぇメシア、異様なまでに何も感じ取れないんだけど……」
「え──?」
「さっきから何回も周囲環境をスキャンしてるのに……、なんの反応もない……。おかしいよ」
イザナミがこの妙な雰囲気にさらに追い打ちをかける。
A0-2は彼女に対して問いかけた。
「待てイザナミ。確認だが、この隣の部屋で待たせている、七海雫ら四人に身の危険はあるか?」
「大丈夫です。しっかり隣からは生体反応を感じます」
二人のやり取りが終わると、再びこの場は静寂に包まれる。
アカシックレコードで、ゼロが僕の精神体に手を加えた。
オリジンの気迫への耐性を僕に付与したのだ。
そのおかげで今こうやってまともに立っていられる。
だが、もしそれが無かったら……僕はとっくに気を失っていただろう──
本能的に僕の脳はそう感じていた。
そんな時──
「──ッ!」
机を挟んだ向こう側にいるA0-2の表情が一変する。
それに気づいた僕は思わず声をかけた。
「A0-2、どうしたんですか?」
「わかったぞ……。ドアの向こう側に、いる者が……」
A0-2の言葉に、僕たちの警戒心はさらに強まる。
ドアの方に視線を向けつつも、彼女の言葉を待った。
「やっとの思いで捕獲し、収容していたというのに……。こうも簡単に逃げ出すとはな──」
ゴクリ──
固唾を飲み込む音。
「──ジョーカー」
A0-2が彼の名を口にした途端──
「削除」
その単語と共に、部屋の明かりがプツンと消灯した。
部屋の所々に設置されている機器も電源を落とされ、辺りは真っ暗。
「サーモグラフィー、暗視ゴーグル──発動」
「ステップI、発動──」
僕たちが暗闇に徐々に対応していこうとする中、部屋の中から声が聞こえる。
「いやぁー、そこバレるかー? てかA0-2、お前俺と違って究極生命体でもないってのに、よくそこまで気づけるな! 逆に気味が悪いぜ!」
耳に届いたのはこの部屋とは真逆の明るい声。
口調やテンションからしても、やはり僕たちの前に現れたのはジョーカーだ。
「ねぇ、その仮面外して正体見せたら?」
「え? こんな暗いのに俺の姿見えてんの!? やっぱイザナミ、やべぇな!」
「なんで私の名前を……」
「そんなことどうでもいいって! 俺はメシアに会いに来ただけだからさ!」
ジョーカーに名指しで呼ばれ、僕は戸惑う。
彼とはテレビ局でオリジンから助けて貰って以来、一度も会っていないのだ。
別に彼が僕に会おうと思うきっかけもないはず……。
いや──
「メシアお前さ、ムーティアライトっていう月ぐらいのでっけぇ隕石ぶっ壊しただろ? お前の全力見た時はま・じ・で、ふるえたぜ!?」
「──だから何? 今のメシアにあんたみたいな不審者、簡単には近づけられないんだけど」
僕に対するジョーカーの言葉に、スっと割り込んでくるイザナミ。
『メシアは私のもの』とでも言わんばかりの勢いで、彼女は僕とジョーカーの接触を阻止しようとする。
先程のイザナミと僕とのやり取りが、彼女の動力源にでもなっているのだろうか──
「イザナミ、お前には話してないぞ? 俺は、"メシア"に話しかけたんだ! わかるか?」
「いや、あんたみたいな不届き者がメシアと話す資格なんてあるわけないでしょ」
「不届き者? 誰のことだよ! そんな奴いるか!?」
「"不届き者が自分だ"って自覚、ないの?」
イザナミとジョーカーの仲が、どんどんと悪くなっていく。
暗闇の中で繰り広げられる二人の激しい会話。
彼らの表情は、暗闇のためよく見えないが、このまま続けば争いに繋がることは容易に想像できた。
この二人のやり取りを止めないと──
そう考える僕だったが、二人の会話は変わらず続行される。
「──あ?」
「何、あ?って。言いたいことあるんならさっさと言えば?」
「言いたいことか? そうだな……よし、イザナミ、お前邪魔だ」
「それはこっちのセリフ。早くそのダサい仮面脱いでここから消えて──」
「…………おいイザナミ」
イザナミが仮面のことに触れたその途端、ジョーカーの声色は一気に威圧感を帯びたものに。
そして、そんな声で彼はイザナミの名前を呼ぶ。
それに対してイザナミは、戸惑いつつも変わらず言葉を返した。
「──何?」
しかし、ジョーカーから返ってきた言葉は──
「お前、それ以上この仮面のこと言ったら…………消すぞ──?」
読んでいただき本当にありがとうございます!
少しでも「続きが気になる」とか「面白い」とか思っていただけたら、ブクマと★(星)お願いします!
★(星)は広告下から付けられます!
作者のモチベやテンションが爆上がりするのでお願いします!




