第8話 イザナミ
「イザナミが来てるぞ──」
「──ッ!?」
その知らせに僕は目を丸くして驚いた。
『どこですか!』と大きな声でA0-2に聞く僕。
それに対し彼女はある方向を指さして──
「A-1373号室だ」
「わかりました!」
僕はすぐさまそちらへ駆け出す。
自然光などではなく、妙に明るい電気のもとの人工的な廊下を駆け抜ける。
大賢高校入学の話以降しばらく会ってなかった──
落ち着いて話すタイミングもなく彼女をアメリカにおいて日本に来てしまった──
様々な感情が錯綜する中、入り組んだ道を一気に走り抜けた。
そして僕はすぐにその部屋へと辿り着く。
「イザナミ──!」
僕はそう叫びドアを開いた。
するとそこにはA0-2の言う通りの光景があった。
椅子に座る彼女の姿──
澄んだ青の瞳に、少し青みがかった深い黒の髪のボブヘアー。
その落ち着いた雰囲気、そして彼女がこちらを向いた時には確信した。
その整った顔立ちに小さな唇と少し赤みがかった可愛らしい頬。
僕のことを見るその表情は彼女そのものだった──
「イザナミっ……!」
「やっと来たメシア、遅いよ。ずっと待ってたんだから」
イザナミ──彼女も僕と同じ究極生命体。
そして僕ほど公に知られている訳でもないが、彼女も裏で世界のために暗躍している──ヒーローだ。
彼女の能力は簡単に言うなら、無から様々なものを創り出せる。
武器や装備、使い方を工夫すれば能力の改ざんすら出来るという。
『──計測完了、メシアのこの地点への到達時間には向上の余地が見られます──』
「……メシアまさか本気出してなかったってこと? 私が来てるっていうのに?」
「いや違うよ、そういう訳じゃなくて……」
そして彼女には彼女自身の意識とは別に人工知能が搭載されている。
その場に応じた適切な決断や行動のサポート、情報など色々な手助けをしてくれる。
今みたいに少し都合の悪い時もあるけど──
「──もういい」
イザナミはそう言うと腕を組んでそっぽを向いてしまう。
どうやら彼女は僕から何かを言って欲しいみたいだ。
でも……何て言うべきなのかわからない──
どうやって弁解しよう、どうやって慰めよう──
こんなやり取りが僕たちの日常だ。
そんな中で自分の頭をフル回転させて、何とかその場に適した言葉を選んで口にする。
するとイザナミの心は緩みゆっくりとこちらを向いて許してくれる。
彼女は立ち上がって僕の傍に寄ってくる。
挙動が一切読めず戸惑う僕。
そこで彼女の口が開いた──
「高校はどうだったの? 女子と関わり持ったりした?」
僕の儚げな期待はすぐに散った。
そしてまた違った意味で僕の心臓は脈打つ。
もう僕とイザナミの関係に薄々気づいている人も多いだろう──そう、想像の通り。
「トレインジャックで助けた七海雫って人を除けば……関わってないよ」
「七海雫……?」
『──検索完了、七海雫は日本の読書モデル、女優であり国民的な人気を誇る高校生です──』
「へぇーそうなんだ……」
そう呟きながらイザナミは僕から遠ざかり再び椅子に腰掛けた。
その様子をただ見ていた僕に、彼女はポンポンと隣の席を叩く。
僕は慌ててそれに従いすぐさま座った。
何を言われるのか緊張してつい背筋が伸びる。
顔も強ばりイザナミからの言葉をただ待っていた。
固唾を飲み込む──
「──ならいいや。メシアも何で学校に通うことになったか分かってるでしょ」
良かった──
僕は安堵に包まれながら言葉を返す。
「もちろん分かってるよ。肉体面だけじゃなくて精神面での強化でしょ?」
『──メシアの回答には少しばかりの誤りが含まれています──』
「……」
「……」
人工知能の言葉に、イザナミは僕の顔を無言でじっと見つめる──いやそれはもう睨みに近かった。
僕も気まずくなって口を閉じてしまっていた。
「……全部は四年前の出来事に起因してる。あの時の"メシアの覚醒"からこの全てが始まってるの。あの時何で覚醒出来たかなんて自分が一番分かってるでしょ?」
「はい……、強い責任を感じてそれで──」
「──どうして責任を感じたの?」
イザナミからの圧をひしひしと感じる。
僕は彼女からの問いに一つ一つ丁寧に答える他なかった。
言葉を間違わないように慎重に言葉を紡いでいく。
「四年前の出来事で大切な人を亡くして……、それは自分のせいだって……そう責任を感じました……」
「そうだよね? だからメシアは学校生活で"大切な人を沢山作って、守るものをもっと増やさなきゃいけない"んだよね?」
「はいそうです。それでまた大切なものを失った時に責任を感じれるように──」
「──そしてその責任で覚醒してまた強くなれるように、だよねメシア?」
ほぼ尋問、ほぼ説教。
久しぶりに会えたというのにこの仕打ちはなかなか厳しい。
ここに来るまではイザナミを慰めてあげようと張り切っていたのに、いざ対面すればこのオチ。
まあでもイザナミの言う通りだ、僕は別に学校に遊びに来たわけじゃない──
あくまでもこれはヒーローの任務の一貫なんだ──
「──これから先二人の前には強敵が現れて、そしてそれを乗り越えれる強さも求められる。ねイザナミちゃん、メシアくん?」
「A0-5……、何でここにいるの……」
「そんな怖い顔しないでよー、イザナミちゃんごめんねー。カップルのお二人さん邪魔しちゃうなんて私も分かってないなー」
ドアの向こう側から声が聞こえたと思えばすぐさま開き、僕たちの前に姿を現したのはA0-5。
大きな丸メガネに薄い赤のセミロング、少し気だるそうだが優しい表情、彼女の口調。
名前からも想像がつくが彼女もA0-2と同じくAPEX社幹部の一人。
A0-2の方が僕を担当していたのに対して、こちらはイザナミの担当幹部だ。
「何の用でここに来たの? 用がないならどっか行って」
僕との場を邪魔されたイザナミの冷たい言葉。
それに対しA0-5は苦笑いを浮かべながら言う。
「何も用無しで来るわけないでしょー? しっかり二人に話したいことがあって来たんだから」
「その話したいことって何? まさかしょうもないことじゃないよね」
「新たな究極生命体と、神についてだよ──」
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