第71話 安堵
「ステップ……ゼロ──! ……ライトニングゥッッ───!! スマァァァァシュゥゥゥゥッッ─────!!!」
先程まで感じていた不思議な感覚から解放されたせいか、元の感覚が心地よく感じる。
さらにはゼロによる、ステップゼロのおかげで体がありえないほど軽く感じた。
そんな状態で放った僕の攻撃。
拳がムーティアライト表面に触れた途端に発生したエネルギーと音、そして熱。
それらを逃がさんと言わんばかりにステップゼロ状態の僕は吸収し、自分の力に変換する。
そして表面に再び流し込む。
その作業を僕は一瞬のうちに何万回も繰り返した──
途端、ムーティアライトは音も衝撃波も出さずに消えたのであった。
まるでその隕石が前から存在しなかったかのように、跡形もなく。
しかし、それと同様に今まで僕の中に存在した果てしない力も消え去る。
ステップゼロの反動かなにかだろうか──
そんなことを考えながら、力を失った僕はどんどん落ちてゆく。
僕の髪は風でバサバサと動き、耳には空気の音が聞こえる。
重力に身を任せていたその時、僕の背中に衝撃が走った──
ズサ──
「──やっぱり……メシアならやると思ってたよ。私が傷一つつけられなかったムーティアライトをこんな風に……」
「イ、イザナミ……?」
「この件が片付いたら、今度はあの七海とかいう女たちのこと、聞かせてもらうからね?」
イザナミの声が聞こえると同時に、僕は彼女に抱えられる。
視界に映るのは、僕を両手で優しく包み込みながら、顔を覗き込む、彼女の表情。
彼女のもつ、ふんわりとした髪も僕と同様、風になびいている。
上空数千メートルで僕とイザナミは二人きり。
彼女は僕に嬉しげで、自然な笑顔を見せたのであった──
★★★
跡形もなく消え去ったムーティアライトの向こう。
そこには、僕でさえも眩しいと思うほどの太陽。
そして久しく見ることのなかった青空と、真っ白な雲が、ぽつりぽつりと浮かんでいた。
僕がそれをぼーっと眺めているうちに、イザナミの降下はゆっくりと、そして慎重に減速していく。
やがてザ・ハウス 大賢タワー100の屋上に寝かせられるのであった──
「よっしゃぁぁぁ! やったぞ輝星!」
「私たち……救われたんだっ……!」
「まさに運命を変えたな、メシア」
地面に頭をついて寝そべった僕の耳には、皆の歓声が連続して届く。
爽真は飛び跳ねて喜び、七海は事実を口にした。
A0-2も僕に感心している。
さらには爽真たちの横で「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔で立ち誇るイザナミ。
確かに、七海家の思い出の場所であるこの屋上を壊さずに済んだのは他でもない、イザナミのおかげである。
……しかし、何より今回の本当の勝因。
それは、言わずもがなゼロだろう──
「ゼロ……、本当に……ありがとう……」
広大な青空に拳を突き出し、僕はそう呟く。
この天空の遥か彼方には、ゼロがいる。
僕を助けてくれて、ありがとう──
アカシックレコードで見聞きした様々な事柄。
心を動かされる、スケールの大きい話ばかりだったが、それでもなおこの世界は美しく見えた。
僕の瞳からは無意識のうちに、一粒の涙が溢れ出ていたのであった──
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