第55話 エントランス(残り0日)
「よし。じゃあ行きましょう、メシアさん!」
心音は僕の胸元からすっと離れ、何事もなかったかのように話を進めた。
そして彼女は僕の袖を引っ張って無理やり連れて行こうとする。
「なに突っ立てるんですか、はやく行きましょうよ!」
僕は彼女のその言葉通り、ザ・ハウス 大賢タワー100へ向かうのであった。
★★★
「着きました。ここが私の家です」
道中、彼女は初めて会ったときとは見違えるほど積極的に話しかけてきた。
それに対し、先ほどの駅での急な告白のこともあってぎこちない返事を返してしまう僕。
なんとも言えない雰囲気が続いていたが、ようやくついたようだ。
僕は心音と並んで歩きながら、ともにエントランスに向かった。
大きな自動ドアが開くと、その先には高級感あふれる色々な装飾品が。
僕はそれらに軽く驚きを覚えながらも、足を進めた。
「メシアはさん、お姉ちゃんからパスワードはもらいましたか?」
「うん、もらったよ」
「じゃあここに打ち込んで下さい。絶対に打ち間違えないでくださいね?」
「わかってるよ」
僕が真剣に入力ボタンにパスワードを打ち込んでいたその時。
背後から声がかかった。
「すみませーん、ここって入るのにパスワードいるんですか?」
突然の男性の声。
入力に集中していた僕の体はビクッと動く。
僕は後ろを振り返り、返事をしようとしたが──
「そうですよ──って、爽真!?」
「き、輝星!?」
なんと、僕に声をかけたのは爽真だったのだ。
僕はとっさにAPEX社から貰っていた、自身の容姿を錯覚させる機械を起動する。
その瞬間に、僕の容姿は"メシア"から"天沢輝星"へと変化する。
唐突に見た目が変わったことに、どうやら爽真は気づいていないようだったが、心音は勘づいていたのがわかった。
彼女は横から僕のことを不思議そうに見つめる。
そんな中、爽真は喋りだした。
「なんで輝星がここに居るんだよ」
「爽真こそなんでここに……」
「俺か? 俺はな……えーっと、輝星お前、ムーティアライトのこと知ってるか?」
「う、うん」
「……ならわかるだろ。今日が人生最期の日になるかもしれねぇ。だから俺は七海に告白するためにここに来たんだよ……!」
握りこぶしをつくり、固い決意を見せる爽真。
僕のことをじっと見つめる。
恋愛に関しては挨拶すらできなかった、消極的な爽真が初めて見せた自分からの一歩。
世界が終わるかもしれないから告白するというのは、少々遅い気もするが──
爽真はようやく勇気を振り絞ったのだ。
そんな彼は僕に疑問をぶつけた。
「それで輝星は? なんでここに来たんだ?」
「えっとね──」
質問に戸惑う僕。
なんて返答しようか──
迷いながら、ちらちらとあたりを見回す。
そんな僕の目に映ったのは、心音の姿だった。
そして僕は口を開いた。
「えっと爽真に隠してたんだけど……実は僕七海の妹と付き合ってて──」
「えぇ!?」
「えぇ!?」
心音と爽真の二人ともが思わず声を上げる。
「いや、なんで君が驚くんだよ」
途端に爽真は心音にそう言った。
それに対し、少し慌てた素振りを見せる心音だったが、なんとか状況を察し設定に付き合ってくれることに。
しかし──
「そうそう、私はメシアさ──」
心音には僕が大賢高校で『天沢輝星』として過ごしていることを伝えていなかったのだ。
僕はとっさに心音の口に手を当てた。
困惑する彼女の耳元で設定の内容を囁く。
「心音、今はとりあえず僕は天沢輝星って人でお願い」
「わ、わかりました……!」
そして彼女を解放した。
心音は設定通りに言葉を続ける。
「……えっと、そう、私は輝星くんの彼女です……!」
「まじかよ……! お前にこんなに可愛い彼女が居たなんてなぁ……」
うらやましがる爽真。
それに対し心音のほうは顔を真っ赤にして立ち尽くしている。
「そうそう、だから最期くらい一緒にってことでね……」
「なるほど、そういうことか……」
そして僕は心音の言葉に付け加えるようにして理由を話す。
爽真の反応を確認した途端、すかさず僕は爽真に質問をした。
「でも爽真、パスワード持ってるの?」
「あ、そうそう、その話だったな。ここ入るのにパスワード必要なのか?」
「うん、そうだよ。僕は一応持ってるから大丈夫だけど……」
「うーん、俺持ってないんだよなぁ……」
腰に手を当て、考える素振りを見せながら立ち尽くす爽真。
しばらくその様子を続けたあと、何かひらめいたのか顔色を変えて心音に話しかける。
「なぁなぁ、君って七海の妹なんだろ?」
「は、はい……」
「じゃあさ、俺が彼氏の友達ってことで特別にここ通してくれない?」
「え? えっと……」
考える心音。
それに対し
「頼む、頼むよ……!」
と頭を下げながら頼み込む爽真──
★★★
結局心音は爽真の頼みを承諾し、僕たち三人はともに七海の部屋へ向かうことになった。
三人そろってエントランスのドアを通り抜ける。
そして、エレベーターに乗り込み、上へ上がったのであった──
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