第45話 現実改変能力(残り8日)
「はぁはぁはぁはぁ──」
心音のその姿を目にした瞬間からどんどん呼吸が荒くなっていく。
肩を大きく揺らして、心音からまったく焦点をずらさずにずっと彼女の姿を見ていた。
「運命を変える? 一番近くにいた彼女すら助けられず、どうやって変えるというんだ?」
心音をただ見つめるだけの僕の姿を見て、オリジンはそう煽る。
僕は怒りに満ち溢れた自分の体をゆっくりとオリジンの方へ向ける。
そして、拳を強く握り、唇を噛み締め、僕は憎しみに満ちた目で彼を睨みつけた。
「メシア、君が力を使わなかったせいで彼女は死んだ──」
彼はにやけながら僕と目を合わせ、そう言う。
その声が僕の脳内に響く。
瞬間、僕の体にとてつもない重さの"責任"がのしかかった──
なぜ僕は心音を助けられなかった?
銃弾くらい捉えられたはずだろ?
力を持ってるのになぜ使わない?
ムーティアライトのためか?
違うだろ、すべてを救ってこそ本当のヒーローだろ?
四年前、彼と約束したことを忘れたのか?
僕が力を持ってるのに使えなかったせいで今度は心音も死なせた──
心の中でそう何度も自分を責め続ける。
そして責任を感じ続けた。
いつまで経っても変わらないじゃないか。
力を持つ僕には人々を救う責任がある。
なのに僕はまたその責任を……果たせなかった──
心の声がその言葉を最後に止む。
そしてその後は……何も感じなくなった。
心の声がとても静かだ……。
「どうしたメシア? 負い目を感じているのか?」
「……」
「でももう遅い。七海心音はすでに死んだ」
「……」
「メシア、君は四年前と何も変わらない──」
その瞬間、全身を稲妻のような電撃が駆け巡った。
体内に存在する巨大なエネルギーが膨張を始める。
僕の体では抑えきれなくなり、全身から光が溢れた。
僕はそのどんどんと大きくなっていく光を纏う。
覇気が具現化したようなその光のオーラは、僕を包み込んだ。
「やっとこれが来たか、メシア……。大きな責任を感じた時に発動する……暴走状態が──」
僕の体の内側にあったはずのエネルギーは、外へ出てどんどん体を侵食してゆく。
口から嘔吐するように光を放出し、体中の穴という穴から光が溢れ出る。
僕が光を操るのではなく、まさに光が僕を操っているようであった。
そして、光の海に溺れるように、僕の五感が一つずつ消えてゆく。
味覚……嗅覚………触覚…………視覚……………
視界がどんどんと白くなってゆき、光に包まれる。
心の声は聞こえなくなり、音もだいぶ静かだ。
僕の自我はその巨大な光に擦れ、どんどんと薄くなっていった。
自我を失う……そんな時、遠くで誰かが僕を呼ぶ声がした。
「……ア………シア…………メシア……………」
頭の中にその声が反響する。
何度も繰り返し聞こえるその声はA0-2の声だった。
『メシア! 聞こえているか! メシア!』
光で埋め尽くされそうになっていた脳内に、無理やり入り込んでくる彼女の声。
僕は耳で声を捉えていたのではない。
脳で感じ取っていたのだ。
ぼやけていた彼女の声はしだいにはっきりしていき、最終的にはしっかりと聞こえるようになった。
『私はA0-2だ! 今私は君の脳内に語りかけている! 反応するんだ! メシア!』
……うるさい──
『うるさい? 反応があるということはテレパシーは成功しているんだな?』
……消えてくれ──
凝縮された光がぎゅうぎゅう詰めになっている僕の頭の中。
そこに無理やりねじ込まれるA0-2の声は不快で不快で仕方ない。
しかし、彼女はそんな僕のことも知らず続けて話した。
『メシア、よく聞け。七海心音は死んでなどいない──』
死んでない……?
嘘だ、僕はこの目で見たんだ。
額を撃ち抜かれた心音の姿を──
『違う! 君が見た心音は、彼の創り出した幻想だ! 惑わされるな!』
幻想……
『そうだ、幻想だ。メシア、君は今"七海心音を守れなかった"という大きな責任を感じて、暴走状態に入ろうとしている!』
暴……走…………
『気をしっかり保て! 絶対に能力を使うな! ムーティアライトのことを考えろ!』
ムーティアライト………
疲れきった僕の脳は彼女の言葉をオウムのように繰り返すことしかしない。
『彼が君の暴走に注目して油断している今がチャンスだ! サイバネティクスを使って心音を連れて脱出しろ! 君の50m前方にある壁を吹き飛ばせば外に出れる!』
脱出……
心音を連れて…………
──ッ!
その瞬間僕は我に返った。
頭に詰め込まれていた光の塊もすっと何事も無かったかのように消えてゆく。
僕の体から放出され、実体のあるオーラになっていた光も一瞬で僕の体内に返ってきた。
五感もすっかり元に戻り、白くなっていた視界が普通に戻った。
「メシアさん! メシアさん!」
目を開けると、そこには僕の名前を必死に叫ぶ心音の姿が。
責任からすっと解放された僕は呟いた。
「あぁ、心音か……」
「やっと元に戻ったんですね……! よかった……!」
「大丈夫か……? 心音……」
「大丈夫かってこっちのセリフですよ! APEX社の社長のこと話してたら、メシアさんとあの男の人がいきなり黙り始めて、ずっとそのまま動かないんですから……! バグったかと思いましたよ……!」
「そうか……」
「そしたらいきなりメシアさんから光がぶわぁぁーって出てきて──!」
心音の必死に説明する姿を目に映し、心音が生きている。
自分がさっき見た景色は幻想だった。
オリジンが現実改変能力で生み出した偽物だった──
そう実感する僕。
そんな安心した僕は脱力感に包まれ、思わず心音に抱きついた。
「──え……? いきなり……どうしたんですか……」
「よかった……本当に……」
自身が偽の現実で死んでいたことなど、知る由もない心音。
そんな彼女はいきなり抱きつくという、僕の異様な様子を心配する。
「や、やっぱりおかしいですよ……! あ、あの間……何があったんですか……」
「いや……心音が生きてる……から……」
「ほ、本当に大丈夫ですか……!?」
「うん……大丈夫」
僕はそう言って心音の体から離れた。
一度両手で自分の頬を叩き、気を取り直す。
そして僕は心音の目を見て言った。
「本当に無事でよかった」
しかし、意味がわからない心音は僕のそんな言葉に対しても首を傾げる。
──そんなやり取りをしていたのもつかの間。
後ろから声がかかった──
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