第43話 社長(残り8日)
しかし、変わったのは静寂だけではなかった。
先程まで感じていた息苦しさや、とてつもない威圧感もなくなったていたのだ。
そのことに気づき、僕は我に返る。
「何が……起こった……?」
そう呟き周りを見渡すが、僕の目の前には先ほどと同じく彼が立っており、辺りは真っ暗なまま。
サイバネティクスの暗視ゴーグルがなければ、ほとんど見えないだろう。
僕が不思議に思いつつも状況を理解しようとしていると、背後から声が聞こえた。
「メシアさん……そこにいるんですか……?」
僕が後ろを振り替えると、そこには心音の姿が。
心音は意識を取り戻し、ゆっくりと起き上がろうとしていた。
そんな心音のもとに僕は駆けつけ
「大丈夫、いるよ」
と声をかけ、手を差し伸べる。
心音は僕の手をとり、すっと起き上がった。
先程まで倒れて意識を失っていたはずなのに、すっかり調子が良くなっているようだ。
「メシアさん、その格好は……」
「楽屋で話したでしょ? サイバネティクスだよ」
「使ったんですか?」
「ああ、でも今はそんなこと話してる場合じゃない。すぐそこに犯人がいる」
僕はそう言って暗闇を指さす。
心音はよく目をこらし、じっとその方向を見つめる。
しばらくしてようやく彼を捉えられたようで、心音は慌てて僕の後ろに隠れた。
「何が起こるかわからないから、じっとしてて」
「わかりました」
ひょこっと顔を覗かせながら返事を返す心音。
僕たち二人は彼をじっと見つめ、警戒を強めた。
暗闇に立ち続ける彼の姿。
しばらくすると、彼から言葉がかかる。
「メシア、七海心音。私は君たち二人に会いに来たんだ。邪魔者がテレビ局から出ていくように仕向け、君たちをこの階に閉じ込めた。すべて私の仕業さ」
「最初の警報も、この階の構造がおかしかったのも、いきなり電気が消えたのも、さっきのひどい耳鳴りも、ぜんぶお前だったのか」
「そうだ。すべては私のこの力、現実改変能力が成したものだ」
「現実改変能力……?」
僕は彼の言葉をそのまま繰り返す。
「そうだ。何もかもを自分の思うがままに変えることができる。例えば──ほら」
そう言って彼は僕たちの後ろを指さした。
僕たちはそのまま振り返る。
するとそこには……非常階段が出現していた。
先程までは壁しかなく行き止まりだったのにも関わらず、まったく不自然なく、もともとそこにあったかのように存在する階段。
僕と心音の反応はまさに唖然だった。
これが現実改変能力……本当になんでも彼の思うがままに変えられるのか……?
彼のもつ絶大な力に驚き、恐怖しつつも僕は気を取り直す。
そして彼の方向に体を向け、問いかけた。
「……君はいったい何者だ?」
すべてが謎に包まれている彼。
その核心をつく質問だが、それに対して彼は驚くべき答えを返した。
「私は……オリジン。APEX社の社長だ」
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