第36話 テレビ(残り8日)
「えーでは七海雫さん、七海心音さんのお二人はここでスタンバイしていただいて……メシアさんは後で出たいただくのであちらの方へ──」
テレビのスタッフの誘導に従い、僕たち三人はそれぞれの位置についた。
七海と僕は何度もテレビに出演したことがあるため大丈夫だが、心音のほうはその固まった表情から緊張しているのが見え見えだ。
一応去り際に僕は心音に──
「大丈夫、何かあったら僕たちで助けるから」
──とグッドサインとともに言葉をかけたのだが……あまり効果はなかったようだ。
しっかし、世界の命運が決まる日まで残り一週間ほどしかないと言うのに……一体僕は何をやっているんだか──
ため息をついて、一人そんなことを考えながらテレビが始まるのを待つ。
何かあった時のために持ってきておいたサイバネティクスを眺め、ぎゅっと握りしめた。
★★★
しばらくして拍手の音とともにテレビが始まった──
「さぁ今週もやって参りました、ニューアンドオールド。芸能界の新人さんと大物の方々が対面して色々なことをしていくという番組ですが、司会進行は私、上田大輔が務めさせていただきます。さぁ今日の大物は……芸能界きっての大御所、宇喜多一さんでーす」
「えーどうも、よろしくお願いします」
ベテラン芸人の上田大輔の活気良い司会に対して宇喜多一の渋い声が響く。
「いやぁー宇喜多さん、よくオファーを受けてくださいましたねー」
「いえいえ、能力のある新人さんが目立つことのできる機会ですから、それに僕が関われるというのはとっても嬉しいことですよ」
「なるほどそうですか。宇喜多さんはフレンドリーで優しい方のイメージですが……裏では結構厳しいということで有名ですよね。どうでしたか、今日の楽屋挨拶は──」
司会者の中でも結構な人気をもつ芸人、上田大輔が淡々と番組を進めていく。
宇喜多一の別格の空気が、スタジオ全体の雰囲気にも影響していたのは見て取れる。
スタジオ側だけでなく、カメラマンやディレクターなど裏方の方も緊張している様子。
そんな中、宇喜多一と上田大輔のやり取りも順調に進み、次は新人の登場となった。
「では次は新人さんの登場でーす」
上田大輔の声が響いたあと、いくつかの照明が消えスタジオが暗くなった。
中央のドア、そしてそこから伸びた下り階段が明るく照らされる。
その瞬間、ドアがBGMとともに開き七海と心音の二人が姿を現した。
「読者モデル兼女優をやられ、今年の春には大賢高校に入学となったスーパー女子高校生、七海雫さんでーす」
拍手の音がスタジオ全体に行き渡る。
そして続けて──
「そしてそんな七海雫さんの妹であり、雫さんのSNSの投稿に写るたびに注目を浴びる、アイドル志望の七海心音さんでーす」
照明が元に戻り、一段ずつ階段を降りてくる二人。
七海のほうは笑っていたが、心音のほうは案の定緊張してぎこちない。
上田大輔が手で軽く席に誘導し、二人を席に座らせた。
「ではお二人の紹介を始めていきます。まずは七海雫さん。
一年ほど前から読者モデルを始めたのにも関わらず、怒涛の勢いで人気を伸ばしていき、今では女性タレントパワーランキング第8位にランクイン。
そして演技力でも認められ、女優の仕事も半年前に開始。
半年の間にCMを5本掛け持ちし、ドラマにも出演するというとてつもない勢いをもつ女子高校生でーす」
改めて七海の経歴を聞くと本当にえげつない。
芸能界屈指の大型新人である。
「そしてお次は、七海心音さん。
本人はSNSをやっていないのにも関わらず、姉である七海雫さんの投稿に写る度にその抜群のルックスとスタイルが注目される、まさに天使。
歌唱力もとてつもなく、最近始めたYouTubeの歌ってみた動画ではその抜群の歌唱力から、一週間でチャンネル登録者数20万人を突破。
そんなネットで今大注目の、七海心音さんでーす」
紹介が終わるとスタジオ全体に再び拍手が巻き起こり、宇喜多一に影響されていた雰囲気もだんだんと和らいでくる。
心音は何度も頭を下げ、消極的な様子を見せた。
そんな妹の様子を見て、七海は先陣をきって声を出す。
「今日は呼んでいただきありがとうございます。妹と一緒にテレビに出させてもらえるなんて、本当に夢みたいです」
「そんなに自分を下げて話すんじゃないよ。二人とも凄いことしてるんだから」
七海の言葉に宇喜多一が返した。
その後何回か七海、宇喜多一、上田大輔のやり取りがあり、三人はけっこう和んできているようだった。
★★★
そしてしばらく経ち、遂に僕の出番が来た。
「では次はゲストの方をお呼びしましょう。メシアー」
上田大輔の声が聞こえ、僕は七海たちが出てきたドアからではなく、スタジオの横の方から登場した。
拍手に包まれながら登場する僕。
観客の方からは『キャーキャー』という声がかかり、まるでハリウッドスターのような状態。
しかし、肝心の僕はそんな周りの反応には目がいかず、ずっと心音の方を見ていた。
それは何故か……心音の様子が何かおかしかったからだ。
顔が青くなり、呼吸も荒くなり、ずっとうつむいている。
緊張しているのか──?
最初はそう思っていたが、緊張というよりもまるで何かに怯えている様子。
三人はだいぶ会話を交わしているが、心音はまだ一度も喋れていない。
そんな様子の心音を心配しつつも僕は上田大輔に誘導され、心音の隣に座った──
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