第31話 歩き出し(残り10日)
美香につられてそのまま駅を出ていくのかと思っていた女子たちだが、意外なことに美香の様子を見たあと、こちらへ寄ってきた。
「美香の代わりに謝っておくよ。天沢、ごめん……!」
「電車での悪口もその場の雰囲気につられてた……。本当にごめん!」
そう言って頭を下げる女子たち。それに対して
「わかったよ」
と一言だけ言う僕。
その後女子たちは僕にもう一度頭を下げた後、美香を追ったのであった──
★★★
改札前の柱の下。
爽真、七海、僕の三人だけとなった場の雰囲気は先ほどよりも気まずくなっていた。
爽真と七海はお互いのことが好きで、なかなか話しかけられず僕に助けを求める。
それに対して僕は、どのタイミングで七海を連れ出せばいいか考えているせいで終始無言だった。
誰一人として声をあげない中、最初に喋ったのは爽真だった。
「ね、ねぇ七海……さんっ……?」
「は、はい!? ど、どうかしましたか?」
「な、何があったか気になったんですけど……。"七海"がそ、それを知らないかなぁーって思ったんですけ……ど……」
お互い目を合わせられないから、僕の方を見ながらぎこちない会話を繰り広げる。
二人とも謎に敬語。
『この状況どうにかして』と訴えかける二人の目線が僕に突き刺さった。
しかし、無反応な僕を見て二人は会話を再開する。
「え、えっとねぇ……。私もあんまよくわからないっていいますかぁ……」
「そ、そう……ですか……」
「あ、でも……天沢くんが私に頼み事あるって……言ってたのは……覚えてます……」
「そ、そうなんですか……。な、なぁ輝星。その頼み事ってなんだ?」
「そ、そうだよ天沢くん。す……めらぎくんの言う通りあれなんだったの?」
二人とも冷や汗をかきながらこちらに声をかける。
しかし僕は無反応。
「……」
「おーい輝星ー」
「うわぁ! な、何何?」
完全に上の空だった僕は、爽真の呼び掛けによって現実に戻された。
僕のそんな反応を見て、二人は息ぴったりハモリながら言う。
『だからぁー、頼み事って何?』
たまたま声が合わさったことで二人とも顔を赤くして戸惑った。
もじもじしながら見つめ合う二人だったが、僕は二人の声を聞いて思い出したのだ。
自分は七海に頼まなければならないということを。
二人が絶賛青春お楽しみ中のところ、僕は立ち上がって躊躇せずに七海と目を合わせながら頼む。
「七海、ここでは話せない重要な話がある。一緒に来て欲しい」
「え、えぇ……!? このタイミングで……?」
「ごめん七海。でも本当に重要なんだ……!」
「わ、わかった……」
戸惑いつつも承諾する彼女。
僕はこくりと頷いて言う。
「よし、じゃあ行こう──」
「ちょ、ちょっと待てよ輝星」
さぁ行こうという時に後ろから声がかかった。
僕は乗り気じゃない、嫌な顔を向けながらそっと爽真のほうに体を寄せた。
爽真と僕はこそこそと喋り始める。
「爽真なに?」
「いや、今七海とめちゃくちゃいいところだったじゃんか」
「邪魔してごめん。でも本当に重要な頼み事なんだって……」
「なんだよそれ」
彼の気持ちはよく分かる。
僕のやっていることが異常なこと、タイミングがおかしいということ。
でも──やっぱりこっちが優先だ。
「いや、重要だから言えないんだって」
「二人で俺にそんな隠し事みたいなこと……」
「隠し事……に思えちゃうよね。でも違う、爽真もすぐに分かることだから」
「そ、そうか……。な、ならわかったよ輝星」
少し僕のことを疑っているようだったが、とりあえず一応は信じてくれたらしい。
好きな人と友達が二人で人目のつかない場所に行って、隠し話をしようとしている──
爽真からしたら嫌に決まっている。
不満そうに僕たちを見つめる爽真をおいて、僕と七海は歩き出した──
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