第3話 ピエロ
スマホの画面を見るとそこには『A0-2』という文字が。
僕は彼女からの電話をとり、耳にスマホを当てながら名前も知らない駅のホームを歩き出した。
『初日からトレインジャックだなんて災難だったなメシア』
「まあ慣れてますし別に大丈夫です」
「そうか、今の状況はどうだ?」
彼女の名前はA0-2、少し変わった名前だがいわゆるコードネームみたいなものだ。
彼女の立ち位置は何だと言われれば少々説明が難しくなる。
よく分からないと思うが、今はとりあえず僕の保護者兼上司だと思ってくれていい。
「今の状況ですか。僕は一発撃たれましたが一般人の負傷者はゼロ、正体はバレてませんよ」
『そうか、なら良かった。これからは何事もなかったかのように学校に向かってくれ。電車はしばらく止まったままだろうから、能力を使った移動も構わない』
「わかりました」
『上手く立ち回ってくれ、それでは──』
プツッという音がして電話が切れた。
前を向けば周りからの沢山の目線が目に入る。
僕はスマホをポケットに入れ、代わりにリュックから応急処置キットを取り出し先程撃たれた脇腹に包帯を巻いた。
「あとは警察の皆さんに任せます! よろしくお願いします!」
僕はその言葉と笑顔をおいてその場を飛び立つ。
光を纏って空へ舞っていく僕の姿を人々は見つめていた。
雨が過ぎ去った晴れ空の下、僕はビル群の隙間を空中浮遊で駆け抜け大賢高校へ向かっていった。
★★★
巨大な駅のすぐ近く、僕がこれから通う大賢高校はそこにあった。
社会で役に立つ優秀な人材を育成するために政府が直々に創立したこの学校。
三十年から四十年ほど前に建てられたこの校舎だが、そんな事実はまるで見えないほどの外見。
大きな校舎がどっしりと構えており、外装はとても綺麗。
グラウンドやテニスコート、他にも様々なものがすべて大きく、完璧な設備である。
空からでもその大きさは目に止まった。
僕が校門前に着地すると風が僕の髪を靡かせる。
それは何というか物語の序章を感じさせる、そんな雰囲気。
「ちょっとのんびり来すぎたかな……」
校門前だというのに周りに人の気配は一切ない。
トレインジャックに巻き込まれたのだから遅れていかないと怪しまれる。
そう思って相当ゆっくり来たせいでかえって遅れてしまったようだ。
校門から校舎まで大きな広い道が繋がっている。
脇には草木や花々が植えられてあり、先程の雨の雫を日光が照らし輝く。
そろそろもう姿変えとこっか──
スー──
その広々とした道を進んでいくにつれて僕の容姿は次第にぼやけていく。
真っ白な白髪、世に知られた明るい顔立ちはただの男子高校生のそれへと変わっていくのだ。
髪は黒く、顔も『メシア』の面影を残すことなく標準的なものへとなる。
僕はこの学校で過ごすために与えられた架空の人物『天沢輝星』となった。
そう、今の僕はメシアじゃない──
学校での僕は世界的ヒーローなんかじゃなく、そこら辺にいる男子高校生、天沢輝星だ──
「──おいお前メシアだろッ!」
「──ッ!」
そう意気込んでいたのもつかの間、突如背後から背中を叩くような力強い声が聞こえた。
驚き慌てて振り返るとそこにはこの場所には似合わない、異様な格好をした人物が一人。
「何でお前みてぇな奴がこんなチンケなとこ来てんだよッ!」
「ち、ちょっと待って……僕がメシア? いきなり何の話……?」
大賢高校の制服とはまるで違う、真っ黒な服を身にまとい僕の目の前立つ人物。
彼の何よりの目を引くポイントはそのピエロの仮面であった。
何かの刺客か──?
この仮面は何だ──?
何らかの組織の構成員が自分の正体がバレない目的で──?
色々考えを巡らせてみたが納得がいく考えはでない。
それに彼は手ぶら。
僕の正体がメシアだと知っているのなら、生身で目の前に姿を現すだなんて馬鹿な真似はしないはずだ。
「お前がこの世界のトップだろッ!? あぁ? 何なんだこれッ! 思ってた反応と違うぜェッ──!」
「──うるさっ、……まずそもそも僕はメシアじゃないし、君は一体何者?」
「とぼけても無駄だってェッ! オレの目に狂いはねぇんだッ──!」
一つ一つがすべてうるさい、それに発言の様子が幼稚で仕方ない。
彼はピエロの仮面をつけていて、その仮面を挟んで響く声の大きさではない。
相手は僕のことを知っているようだが、こちらは相手のことを一切知らない。
僕は再び『君は誰?』と名乗りを催促すると、彼はようやく口を開いた。
「オレは"この世界にたまたま堕とされた神"ッ! エルドラドの称号を持ちィッ! 半端ねぇ強さを持ってたッ──!」
彼の言葉に僕は眉間にシワを寄せて見つめる。
それどころか僕の心には恐怖心すら含まれていた。
神──彼が名乗っているそれは、僕がこの大賢高校に入学する理由ともなったものだ。
皆は今の彼の言葉を聞けば中二病だと罵るかもしれないが、僕の反応は違った。
彼は最後に息を大きく吸って言い放った──
「そんなオレの名前はッ! ジョーカァァアッ──!」
ジョーカー──聞いたことのない名前だ。
しかし聞いたことがあるないに関わらず、ジョーカーの今言った『神』という発言が正しいのであればこれはまずい事態だ。
「ジョーカー君は──」
「──んじゃもう用ねぇからッ!」
僕が彼に事情を聞こうと声をかけるが、彼は遮って言った。
ピエロの仮面が僕の顔を見つめる──そして指パッチンが響いた。
『削除ッ──!』
──ジョーカーは消えた。
僕はその一瞬の光景に目を疑っていた。
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