第29話 美香(残り10日)
見事僕の腹に蹴りが炸裂した。
僕は低く唸りながら腹を抑えてうずくまる。
「ゔぅ──」
「きゃははは!」
僕の情けない様子を指さしながら、彼女たちは甲高く笑う。
しかし、僕が避けなかったのには理由がある。
□□□
理由はただ一つ、温存だ。
ムーティアライトに備えて能力の使用を制限している。
僕は普段正体がバレないように能力を使って輪郭や髪型を多少変えている。
しかし、やはりムーティアライトを破壊できる可能性が限りなく低い今、できるだけ力を温存しておきたいところ……。
特に容姿を変えるなどという、そんなくだらないことに能力を使っている場合ではないのだ。
だから僕は昨日A0-1と話した時に、もう一つ頼みごとをした。
「僕の容姿を錯覚させる機械を作ってくれ」と。
その結果、僕の能力を使わずともAPEX社の技術で僕の容姿を変えれるようになった。
□□□
七海の後ろの方では爽真がこの様子を見ていた。
しかしうずくまる僕を見て七海は気にせず大声を出す。
「さすがにそれはダメだよ美香──!!」
その声が駅全体に響き渡る。
どうやら僕のことを蹴り飛ばした、七海を囲っている女子のリーダーは美香という名前らしい。
顔がいくら良くても性格には難あり。
「……え?」
いつもはされるがままの七海が見せた一面。
美香たちはそれに驚き、まさに唖然と言った様子だった。
爽真も変わらず後ろからその様子を見ている。
「……なんでそんなこと言うの、雫ちゃん。私は雫ちゃんのためにやっただけだよ?」
「私のため? それでも美香がやってることはいじめと変わんないよ!」
「いじめてなんかいないよ?」
「電車の中でも天沢くんに聞こえるようにわざと大きく陰口言ってたし、今だって天沢くんの話にだってまったく聞く耳持たなかったじゃん!」
「……」
七海に追い詰められた美香は黙って下を向いた。
一気に場が静かになり、緊張が走る。
ゆっくりと握りこぶしをつくり悔しそうな様子を見せる美香。
いつもと何かがちがう──
そう思い、心配そうな眼差しを向ける他の女子たち。
しかし、腹を蹴られて姿勢を低くしていた僕だけが彼女の本当の顔を知っていた。
「わかったよ……。雫ちゃんも"そっち側"なんだね……」
美香の髪で顔が隠れて他の人は見えていなかったが、彼女は一人ニヤついていた。
その言葉と美香の表情が合わさった時、全身に鳥肌が立った。
その様子からは彼女の底しれない復讐心と、恐怖を感じる。
その一コマは僕の脳裏に焼き付いた──
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