第28話 蹴り(残り10日)
顔を前に向けると、僕の目に先に降りた七海たちが階段を降りていく姿がチラッと映った。
考え事してたせいで降りるの遅くなった──
急がないと──!
爽真を連れて早歩きで階段へ向かう。
後ろから見えた七海の姿は、周りの女子たちに絡まれて少し疲れた様子だった。
「なぁ輝星、あの周りの女子たち七海のこと疲れさせてねぇか?」
「そ、そうだね……」
「ここはいっちょ俺があいつらを退かしてやった方がいいよな、輝星」
僕たち二人も彼女たちの後ろを付けるように階段を降りていく。
その間もずっと考えごとをしていた僕は、爽真の話など聞いちゃいなかった。
爽真に問いかけられているがすべて無視。
「輝星ー」
「え!? ど、どうかした!?」
「話聞いてなかったのかよ……」
「ごめん……」
駅のホームから駅内に繋がる階段は、白く塗装され清潔感に溢れている。
日本政府が直々に設立した学校の駅だということもあって、やはり手が込んでいた。
七海たちはその階段を既に降り終わり、改札へ向かって歩いていた。
七海は歩きながらカードを取り出す。
「だからな、輝星。さっき俺は七海の周りの奴らどかしてやった方がいいよなって思ったんだけど──って輝星!?」
七海がカードをタッチし、ピッ──という電子音が鳴る。
彼女たちが改札を通り過ぎた途端に僕は爽真をおいて走り出した。
「おい、そんなに慌ててどうしたんだよ輝星!」
後ろから爽真の呼び掛けが聞こえるが僕は聞こえないふりをして、改札を駆け抜ける。
七海に追いつくために、ぐんぐんスピードを上げてゆく。
他の人にぶつかりそうになるがそんなこと僕は気にしなかった。
★★★
改札を出てすぐの切符売り場から少し進んだところにある、柱の下。
そこに居た七海に声をかけた。
「七海! ちょっと待って!」
「え!? 天沢くん!?」
七海はとっさに振り向く。
七海の金色の綺麗な髪が一気に動き、ふんわりとした香りが舞う。
僕はスピードを落とさずに七海の前へ回り込んだ。
「七海、頼み事がある! ここじゃ話せないから一緒に来て欲しい!」
「え!? 頼み事? 急にどうしたの?」
「だからここでは言えない──」
必死に頼む僕だが、あることを忘れていた。
七海を囲む女子たちだ。
「ねぇ天沢、この前私たちの雫ちゃんに関わったら容赦しないって言ったよね? 覚えてないの?」
彼女たちは僕の言葉を遮り、腕を組んで、上から見下すような目つきで睨みながらそう言った。
「近寄るな」とでも言いたそうな雰囲気。
彼女たちは駅の照明に上から照らされ、いつにもまして圧力があった。
しかし、僕はそんな彼女たちに一切動じない。
僕は変わらず話し続けた。
「いやそれどころじゃ──」
「言い訳するなよ。雫ちゃんも困ってるじゃん」
「ちがう、言い訳とかじゃなくて。とりあえず邪魔しないで話させて──」
「邪魔? 二人の恋愛を邪魔したのはどっちの方だよ」
彼女たちは僕が喋ろうとするとそれを遮るばかり。
本当に勘弁してくれ──
苛立ちを覚えた。
このままじゃ埒が明かない──
そう思った僕は説明するのを諦め、黙って七海の手を掴み引っ張る。
しかし──
「おい天沢、いい加減にしろよ!」
なんと七海を囲む女子のうちの一人が、そう言いながら蹴りをかましてきたのだ。
自分たちのものを勝手に他人から触られたようで、相当怒っている。
彼女の足が僕の腹に向かって進んでくる。
究極生命体である僕はその様子を完全に捉えられていた。
僕の持ち前の動体視力でそれが追えないはずがないのだ。
しかし、僕の体は動かなかった──
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