第275話 百済美咲
うざすぎんか?
「──っていうことがあってさ」
「何それ……心音は究極生命体でも何でもないただの人間なのに……」
「人体実験とかそういうのは僕が絶対させないように防ぐよ。でもアマテラスを作るってなった時に、心音の能力が奪われるっていうのはあるかもしれない……」
翌日、学校にて僕は七海に昨夜A0-5から聞いたことを話した。
七海の話によると今朝は家にA0-5が来ることはなかったらしく、一件落着といったところ。
しかしAPEX社が心音の危機察知能力に目をつけているのは変わらない。
心音の身を案じてどんよりとした暗い空気になっているその時、突如甲高い声が耳を刺した。
「天沢ー! 雫ちゃーん──!」
『──っ?』
知り合いではないその声で名前を呼ばれ、戸惑う僕達。
廊下で話していた僕達だがこっちに向かって走ってくる女子生徒が一人いた。
「ごめんね始めましてなのにー!」
「う、ううん! 大丈夫、名前は?」
明らか動揺しているがしっかりと対応をきかす七海。
彼女は七海の質問に答える。
「私C組の百済美咲って言いまーす! よろしくねー!」
相当距離が近い。
それなのにも関わらず彼女は僕たちに勢いよく手を振った。
元気よく活発だが馴れ馴れしい──僕が百済に最初に抱いた印象である。
彼女の自己紹介に対して今度は七海が口を開こうとする。
しかし──
「大丈夫大丈夫! 美咲ね、もう二人のこと知ってる!」
「え、なんで?」
百済に僕がそう聞き返すと──
「なんでってー、そりゃあもう天沢はイケメンってことで知られてますからー」
「そうなんだ……」
「雫ちゃんは言わずもがな! 芸能人だもんねー!」
勢いの釣り合いがまるで取れておらず、明らかにこちらが引き気味なのに対して全く気づいていない様子。
それに加えて──
「あっ! 葵ちゃん──!」
話の途中であるというのに百済は自身の友達を見つけては大声で名前を呼び、ブンブンと大きく手を振る。
それに対して相手側もハイテンションでその対応をしていた。
この無駄に活発なやり取り──僕がおかしいのだろうか。
「それでねー私二人と友達になりたくってさー!」
「じゃあなろうよ──」
「──特に雫ちゃん! ほんっと可愛いよねー! 妹もいるんでしょー?」
「うん……」
彼女の友達になるという誘いに対して僕が反応するが、それを遮るのは百済の発言。
『特に雫ちゃん』などと初対面のこの時点で僕達二人に優劣を付けている。
かつ今はデリケートな七海の家族事情──心音のことにもグイグイと首を突っ込んでくる。
「ねぇ雫ちゃん! 一緒にトイレ行こうよー!」
そう言うと彼女はグイッと七海と腕を組み、戸惑う彼女を無視してそのままトイレへと連れていった。
そしてここにただ一人取り残された僕には『ばいばーい!』と一言だけ言って消えていったのだ。
百済が姿を消して僕は唖然としている中、次に聞こえたのは周りからの呟き。
「またなんかちょっかい出してるよ……」
「今度は雫ちゃんだって……。どうせ芸能人だからでしょ……」
「別他の人と仲良くするのはいいんだけど、流石にうるさくね……?」
百済は知らない裏で渦巻く負の感情。
あの活発で積極的な性格──味方を作りやすい一方で敵も尚更作りやすい。
だがしかし先程の会話の途中ですれ違った相手のように、百済にも友達は大勢存在するはずだ。
これを利用しない手はない──
そう考えた僕は新たに目的を追加した。
『──五つ目、百済美咲と交際関係を持つ──』
★★★
その日の関わり以降、百済は異様に七海に執着するようになった。
僕が心音の情報を手に入れても彼女に話しかけて伝えるタイミングはおろか、相思相愛の爽真でさえも関わることが困難な状態。
更には七海を頼りに復帰した鬼嶋も百済の強い性格には勝てず、最近は休み気味だ。
七海も鬼嶋は当然考えていたようなのだが、そのことを百済に伝えると──
「えー私より"そいつ"の方行っちゃうんだー、裏切るんだー」
「いやいや……そういうのじゃなくて──」
「──もういい!」
と一瞬にして拗ねたという。
しかし百済は次の瞬間にはまた違う女子生徒の輪に加わっていたらしく、そこまで七海に執着する理由が見当たらない。
「最近爽真さ、七海と話せてないでしょ?」
「まあそうだな、雫にも友達の事情とかあるだろうし仕方ねぇけどさー」
「でも爽真も七海から話聞いてるでしょ? 『百済が七海に関わってる理由が分からない』っていうやつ」
爽真はコクリとうなづく。
今は帰りの電車だ。
今日は七海も鬼嶋もいない──というか『今日は』ではなく『最近』と言った方がいいだろう。
七海は百済とどこか遊びに出かけているらしく、鬼嶋は学校に来ていない。
「──この今の状況、まずくない? 爽真も七海が好きなのに話せてないし、鬼嶋だって学校に来れてないでしょ?」
「まぁそうだけど俺らにできることなんてなくねー? 直接本人に理由聞くくらいしか」
「いやあるじゃん」
「あ、ほんとだ──」
──といった具合で話は進み、今夜爽真が百済にDMで理由を聞くという。
しかし今振り返ってみれば、やはりどこか最近の日常は薄まった感じがする。
ゴールデンウィークにアメリカに行ったあの時と比べて、輝きが無くなったというかなんというか……。
そもそも七海や鬼嶋と関わることが減ったんだ。
当たり前と言えば当たり前である。
それに今までは相当警戒を強めていた観世も、僕たちの前に姿をほとんど現さなくなった。
彼女も彼女で七海と仲良くしたかったはずだが……百済の力が強すぎるのだろうか。
時が流れるのも早く感じ、夏が始まるせっかくのこの季節もぽっかり穴が空いたように感じる。
そしてその"空白"に一番最初に耐え兼ねたのは、鬼嶋であった。
APEX社日本支部に着いてスマホを開いた僕の目に映ったもの──
『天沢助けて、もう無理』
読んでいただき本当にありがとうございます!
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