第251話 回復力(リンク)
その後、学校に救急車が到着したところで僕の視界は真っ白になった。
リンクがこれで終わったのかと思ったのもつかの間、気づけば別の場所に僕は移動していた。
ピーピーピーピー──
電気音が耳に聞こえる。
すぐさま気づいた──ここは病室であった。
長い髪の女子が白いベッドに寝かせられ、目を瞑り気を失っている。
何本もの管が体に刺さっており、見るにも耐えない残酷な姿。
何だ今回のリンクは──
僕は一体何を見せられているんだ──
視界から汲み取れる彼女の苦痛。
しかし、実際は僕の想像もつかないほどのものだったのだろう。
一方続けて目に入ったのは一人の男性。
彼女の手を握って自身の額に当てて、回復を願っているようだ。
「水無瀬……、頼む……死ぬな……! お前はまだ死んではいけない……」
そう言葉を発しながら手を握るのは、先程体育館裏に駆けつけた生徒会長──観世達也である。
しかしそんなことは今はどうでもよかった。
それより僕が圧倒的に気になることがある。
水無瀬──?
たった今観世達也は彼女のことをそう呼んだよな──?
アスナじゃ……ないのか……?
いや、僕の認識違いという問題だけではなかった。
言わずもがなだが、水無瀬という名前を僕は聞いたことがあるのだ。
それはつい最近のこと──
僕がバグとの戦闘で並行世界に飛ばされたとき、その先のドライブインで僕たちはある二人に出会った。
そのうちの一人の名前が水無瀬結──
僕はそんなことを思い返しながらも自分の目の前に広がる光景を見続ける。
「すみません、ここにもう一人入院してると思うんですけど……」
巡回する看護師が通りかかったのを目にしたとき、観世達也はその人にそう声をかけた。
「すみませんがお名前を……」
「雨宮朔夜──その名前で入院してる人がまだいませんか?」
「あーあの子ならもう退院しましたよ」
「──ッ!?」
彼は看護師のその返答に驚いて目を見開いた。
しかしそれは僕もまったく同じこと。
「ほんとに退院したんですか?」
「はい……いやぁ最近の子は回復力が強くておばさんびっくりしちゃいますよ」
「回復力って……入院してきたのは昨日の夕方。まだ一日も経ってませんよね……」
「なんか先生もそう言ってたわねぇ。今までに見たことのないほどの回復力だって──」
一日であの重症を完全に回復させた──?
手術でどうにかなるものなら話は別だが、怪我となると自然治癒力に任せるしか──
いや僕が気になったのはそれだけではない。
雨宮咲夜──彼女同様、その名前の者と並行世界にて共に戦った。
つまりは初めてのリンクで僕が見た視点こそ、雨宮の視点。
そして今まで僕がリンクしてきた相手こそ──雨宮咲夜であったのだ。
「生徒会選挙戦の最中にこうなるとは……水無瀬、僕も実に無念だった……」
水無瀬の手を握ったまま、生徒会長の観世はそう言う。
話を聞くところ、どうやら僕が今見ているこの時は大賢高校の選挙の時期だったらしい。
「『大賢高校の実力主義を取っ払う』君のそんな革新的な考えは僕も素晴らしいことだと思う。だがやはり保守派の人間が多数だ……」
水無瀬は未だ気を失ったままであり、どれだけ言っても無駄だというのに口を動かし続ける観世達也。
彼はそのまましばらく黙り込み、何か考える素振りを見せたあとに立ち上がった。
「生徒会の用事だ、僕はもう行かなければならない。君のことは心の底から応援しているよ。復帰した時には、今度は"会話"が出来れば嬉しい」
部屋のドアのところで立ち止まる彼。
「またいつか、水無瀬──」
彼はそのまま部屋を出ていった──
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