第24話 隕石
「……は?」
先程までA0-1のことを冗談混じりで笑い飛ばしていたはずの僕の口は、ぽっかりと空いた。
うまく状況が飲み込めない、目を丸くして驚く僕。
僕の心音は秒針の音を追い越し、どんどんと早くなっていった。
七海に最初に話しかけられた時と同様、いやそれ以上に呼吸が乱れていく。
現実をうまく飲み込めなかった僕は、彼に再び聞いた。
「え? このムーティアライトっていう月くらいの大きさの星が衝突するんですか? 11日後に? 地球に?」
「そうだ」
彼は当たり前かのようにそう返す。
彼の声が室内に聞こえた途端に、先程まで眩しいほどの光で地を照らしていた太陽は雲の影に隠れた。
会議室の中にあるベージュのカーテンが風に揺れ、室内が少し涼しくなったのを感じる。
さらにそれに加えて、この面談室に緊張を表す静寂が訪れた。
窓から入ってくる風に二人の髪が揺れ動く。
その瞬間、僕は思い切り立ち上がった。
僕が座っていたソファは立ち上がる勢いで壁の方向に吹き飛び、ホコリが舞う。
ドン──!
僕と彼の間にあった黒いテーブルに力いっぱいに手を付き、A0-1に顔を近づけながら僕は怒鳴った。
「どうしてもっと早く言わなかったんですか!?」
「……」
「今のAPEX社の技術力ならもっと早くムーティアライトを発見できていたはずです! 衝突するまであと11日しかないなんて……まともな対策ができないじゃないですか!」
「……」
「どうするんですか!? これじゃ簡単に世界が滅びますよ! 黙ってないでなんとか言ったらどうなんですか、A0-1!」
僕の必死の言葉が彼の顔を叩く。
静寂に包まれていたこの場が突如乱れ始めた。
そして彼からの反撃が始まる。
「そんなこと言われても知るか! この星は昨夜確認されたばかりなんだ!」
「……っ」
「月の軌道になんの予兆もなく一瞬で現れたんだ! このままじゃ世界が滅ぶ? そんなことわかってるさ! だから僕は怯えてるんだよ!」
内気なA0-1が声を荒げるのを見て、僕は驚きを隠せずにいた。
僕たちの怒鳴り声が廊下にも響き、二人とも息があがった。
A0-1の黒いスーツと僕の着ている白い服が上下に揺れる。
二人睨み合いながら肩を揺らして、必死に冷静さを取り戻そうとした。
ただでさえ時間がない今、こんなふうに怒鳴り合っているのが最も時間の無駄だ──
そう察した僕たち二人は、一分ほど時間をかけて段々と落ち着きを取り戻した。
★★★
一度深呼吸をし、A0-1は話し出す。
「取り乱してしまってすまない、メシア。こんな大事な時に……」
「すみません、僕もです。こんな状況だからこそ、落ち着いて話をしましょう」
「あぁ、そうだなメシア」
面談室と僕たちの心の中にようやく落ち着きが戻ってきた。
先程吹き飛ばしたソファを元の位置に戻し、僕は腰をつく。
胸に手を当てて呼吸をしている間、扇風機のファンが回転する音が聞こえた。
深呼吸を一度大きくし、僕はA0-1に疑問を投げかける。
「その昨夜確認されたムーティアライトっていう星は月と同じくらいのサイズなんですよね?」
「ああそうだ」
「そんなに大きな星が接近してきているのに何故地球は影響を受けてないんですか? 重力の影響で普通だったら潮の満ち引きに影響がでたり、星の軌道が変わったり──」
「それはだな……」
彼は改めてソファに座り直す。
テーブルに両肘をついて手を組み、真剣な眼差しで僕と目を合わせる彼に、僕は固唾を飲んだ。
「メシア、半年前にA0-2から聞いた神のことを覚えているか?」
「はい……命神コアトリクエですよね」
「そうだ、恐らく今回のこの一件に命神コアトリクエが関与していると我々は考えている」
「というと……?」
「実はだな、このムーティアライトは簡単に言うと……色んな物理法則から外れているんだ」
彼の語る様子は非常に落ち着いている。
だがそれはそれで怖い。
これらすべて紛れもない真実ということを示しているのだから。
「例を出すと、君の言った通りムーティアライトは重力を持たない」
「重力を……持たない……」
新しく言葉を覚えたオウムのように、彼の言葉を繰り返す。
彼の言葉ひとつひとつが耳に入るたびに、心音が早くなっていった。
「我々APEX社が昨夜からぶっ通しで調べた結果、やはり何者かの力をムーティアライトが受けていることがわかった」
「力……ですか」
「力の発信源は不明だが、"物理法則を書き換える力"など命神コアトリクエと考えたほうが自然だ」
「な、なるほど……」
確かにそんなとてつもない力はまさに神の領域。
でもA0-2いわく命神コアトリクエのもつ能力は生命に関する能力のはず……。
つじつまが合わないような……。
そう思いながらも僕は彼の話に納得したような素振りを見せた。
ふむふむとうなづく僕を横目に、普段通り冷静さを取り戻した彼は立ち上がり、面談室の棚の方に向かう。
そして、そこに置かれていたもろもろの道具を使って彼はお茶を入れ始めた。
この技術が発展した現代で未だに急須を使っている。
彼の手付きに魅了され、僕はしばらくお茶が湯呑に溜まっていくのを見つめていた。
いやーやっぱ凄いな──
そういえばA0-1って日本すごい好きだっけ──
ブラジル支部担当なのにずっと日本支部にいるし──
あ、そういえば──
湯呑に注がれるお茶の音と趣深いその様子を黙ってじっと見ていた僕は、突然イザナミのことを思い出す。
そういえば昨日イザナミから連絡きてないな──
毎晩電話かかってくるっていうのに、元気にしてるかな──
ムーティアライトの話題から少し離れたかった気持ちも相まって、僕は彼に聞いた。
「あ、そういえばですけどA0-1」
「どうした?」
「最近のイザナミの様子とか知ってますかね……」
日本支部にずっと張り付いているA0-1が知るはずないとわかっていながら、僕は彼に聞く。
しかし──
「……あ、あぁ、知っているよ」
「え? 本当ですか? イザナミとA0-1が関わりあっただなんて意外です。どうです? 元気にしてますかね」
「あのなメシア、言いにくいんだが──」
彼の口の動きを見るや否や、嫌な予感が全身を駆け巡った。
こういう時の勘はよく当たるということを知っていた僕は、固唾を飲んで彼の言葉を待つ。
「実はだなメシア……イザナミはもう既にムーティアライトに攻撃を仕掛けたんだ」
「……え?」
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