第21話 ベリーティー
これで「第1章 メシア編【始まり編】」の最後の話となります。
次話からは「第2章 メシア編【ムーティアライト編】」に移ります。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
僕とジョーカーが学校で戦いを繰り広げた日から一週間が経過した。
その間にAPEX社が壊れた学校を修復し校舎は元通りになり、この事件を目にしていた生徒達の方もトラウマなどの精神的なトラブルを抱えることはなかったという。
その理由としてあるのは世界中に救世主として知られる僕の存在。
何か起こってもこの学校にはメシアがいる──
メシアがどうにかしてくれるから大丈夫だ──
そういった考えが皆の中にはあり、それが皆の精神安定剤的な役割を担っていたのだろう。
★★★
──そして今日は一週間ぶりの登校の日、僕は最寄りの神中駅のホームで電車を待っていた。
しかし時間ギリギリに駅に着いた僕の耳にはすぐさまアナウンスが流れ、ホームを吹き抜ける風とともに電車がやって来る。
『この電車は、7時43分発大賢線普通列車、大賢高校行です──』
乗り込むとそこにはいつもと変わらず七海と爽真の姿があった。
爽真は乗車して向こう側のドアの近くの席、そこに座って腕を組み爆睡している。
一方の七海はそんな爽真の近くに立ち、その様子を見守っていた。
「おはよう二人とも」
「あっ天沢君! おはよう!」
「……」
返事が返ってきたのは七海だけ。
僕は爽真の隣に座り、七海を手招きして僕の隣に座らせた。
彼女は顔を赤くしながら僕に言う──
「あの……皇君に伝えてくれた……? あの屋上のやつ……」
「あ、あれ結局僕伝えれば良かったの? ほら、どっちか迷ってるって状態で終わってたじゃんか」
横の爽真を見るが声は聞こえていないようだ。
七海は慌てて僕の肩を叩き、『シーッ』と人差し指を見せた。
僕は彼女の気持ちを察して頷きグッドマークを出した。
しかし彼女は『はぁ……』とため息をついて呆れる。
僕は彼女に囁き声で話しかけた。
「それでどうする? もうさっさと爽真に伝えちゃう?」
「ちょ、ちょっと待ってよ天沢君……」
七海も囁き声で言葉を返す。
このままグダグダしていてはらちがあかない──
そもそも七海の言う通りに僕が伝えていいのか──
七海自身が爽真に言うべきじゃないのか──
「分かった七海、じゃあ決まったらまた教えて」
「う、うん……」
あっさり諦めた僕に七海は少し動揺。
しかしこの時僕の頭の中では既に計画が練られていた。
その週は何事もなく、二人の間に何の進展もなく時間が過ぎ去っていった。
僕と七海、僕と爽真の仲は時を経るにつれて深まる一方であった。
★★★
──その週の週末、僕はとあるオシャレなカフェの椅子に腰掛けていた。
木製の細い足をもつ椅子、目の前には木輪の刻まれた円形のテーブル。
メニューは壁に張り付けられた黒板にシンプルに記載されており、壁はレンガ造りで木漏れ日が窓から優しく差し込んでくる。
天井から吊るされた暖色のライトと、たまに店内に鳴る『チリンチリン』というドアの開く音──
「ちょ、ちょっと天沢君っ……! これどういう状況なのっ……!?」
「おい輝星、俺は何も話聞いてないぞ」
「まあまあ二人とも、落ち着いて──」
──そして僕の向かい側には爽真と七海の二人が腰掛けており、爽真は腕を組みながら状況を理解しようと試みる。
七海はマスクにサングラスに帽子という有名人ならではの装備であり、彼女の表情は全く伺えなかった。
「俺輝星からこの前この日に遊ぼうって連絡が来て……」
「わ、私も天沢君からこの日にって……」
「ごめん二人とも、間違えて予定被せちゃった」
『いやいやいやおかしいって──!』
二人は同時に立ち上がりそう言った。
しかし僕は反省の色を見せず『まあまあ』と二人をなだめて座らせると──
「まずは自己紹介からしようよ。僕は二人ともと知り合いだけどさ、爽真と七海は多分関わりなかったよね?」
──と言ってこの場を進める。
動揺する二人だったが、もうここまで来たなら仕方ないと思ったのか渋々口を開いた。
「俺は皇爽真。えーと、まあ自慢じゃないけどトレインジャックとか、この前の学校での戦闘とかで色々やってみたりしてた……よろしく」
壊滅的な語彙力、謙遜と自慢が入り交じってどう言ったらいいのか分からなくなっている。
それに日本の有名人である七海と会って緊張しているのか、いつもの勢いがすっかり消え去っていた。
今度は七海の番──のはずだが彼女は何も言わず硬直し、隣の爽真を見れないからか代わりに僕のことをじっと見つめる。
僕は目配せして『自己紹介しなよ』と指示するが彼女は首を横に振った。
しかし七海の沈黙を見かねた爽真が『大丈夫か?』と声をかけたことにより、彼女は口を開くことになる。
「わ、私は七海雫って言いますっ……! 女優と読者モデルやってて……、その……」
「爽真は七海のこと知ってた? まあ相当有名だけどさ」
「もちろん知らないわけないだろ! そうそう、そういや輝星どうやって仲良くなったんだよ!」
「えっとどんくらい前だっけ、どこかの休み時間に──」
「──ちょっと待って天沢君」
突然七海が僕の言葉を遮り、僕と爽真の目線が彼女に向けられる。
彼女は自身の胸に手を当てて心臓の鼓動をなだめると、大きく息を吸った。
そして彼女は一度うつむいてから顔をあげて隣の爽真に顔を向けた。
「私……皇くんに伝えたいことがあるの──!」
「──お待たせいたしました、ベリーティー、本日のコーヒー、アイスティーでございます」
このタイミングで店員が現れ、テーブルに注文した品々をを運んで来た。
七海は自身の言葉を遮られ一度爽真を見るのをやめて、自分のところに置かれるベリーティーを見つめる。
それぞれにドリンクが置かれた後、爽真は『なんだなんだ』と言わんばかりの戸惑いで、七海はスカートをぎゅっと掴んでうつむいていた。
落ち込む七海を見かねた僕はコーヒーを一口飲み、彼女に『爽真に伝えたいことって?』と再び話を振る。
七海はバッと顔を上げ何度か頷き、再び爽真の方に向き直した。
マスクとサングラスで彼女の顔は一切見えないが、その奥で緊張しているのは容易に分かる。
一方の爽真の姿勢をピンと伸ばし彼女からの言葉に構える。
七海は遂に言った──
「皇君、トレインジャックの時……助けてくれてありがとっ……!」
そう言い終えた七海は爽真の反応も待たずにすぐさま正面を向き、マスクを下げてベリーティーを口に運ぶ。
マスクの下に今まで隠れていた彼女の頬は、そのベリーティーに負けないくらいの赤い色をしていた。
隣の爽真も心做しか顔を赤くしながら、七海のその様子を見つめていた。
僕たちはカフェである程度仲を深めた後、映画に行き最後はカラオケで締めくくった。
二人のたどたどしい会話や、この初々しい恋愛がとても微笑ましい。
最終的に二人は連絡先の交換に辿り着き、その時には辺りはもう暗くなっていた。
★★★
ガタンゴトン──
三人並んで椅子に腰掛け電車に揺られる。
電車の窓から見えるのは暗闇に浮かぶ数多のビルの光で、それはこの街がいかに繁栄しているのかを示していた。
普段使っているこの電車だが今日はどうしてか特別な感じがした。
そんな中で七海がぽつりぽつりと話し始める。
「私ね、幼い頃は家の屋上から家族でよく花火を見てたの。……でも段々私の仕事が忙しくなったり、色々家族に不幸があったりもして……家族との時間が減ってって……」
『……』
「あ! その、そういう暗い話をしたかった訳じゃなくて! ……久しぶりにこんなに楽しかったなって思って」
僕の目が大きく開く。
ただ二人の距離を縮めようとしていただけの僕だったがそう言われると嬉しく、心の中の何かが動いたのを感じた。
それに続けて爽真も──
「俺も高校入ったから友達と遊んだのとか初めてだったし、マジで楽しかった! ありがとうな輝星!」
「ありがとう天沢君!」
僕は二人の言葉に大きく頷き、そして満面の笑みで──
「僕も楽しかったよ! 爽真も七海もありがとね──!」
★★★
──やがて電車は神中駅に到着し僕はそこで降り、電車が過ぎ去っていくまで僕は電車内の二人に手を振った。
そして電車がいなくなった後に残るのは今日の余韻、僕はそれに浸りながら駅を出た。
暗い空を見上げて今日一日のことを振り返りながら夜道を歩く僕。
カフェのあの時とか二人ともめっちゃ顔赤くなってたな──
爽真は映画黙って見てられないし、七海はすぐにポップコーン食べ終わるし──
カラオケも爽真は声大きすぎ、七海は恥ずかしがって小さすぎ──
──ピコン
その時突然、ポケットに入れていたスマホから通知音がなった。
開いてみるとそれは爽真からのメッセージ。
まだ二人とも電車に乗ってるはず──
せっかくなら二人きりで話せばいいのに──
カフェで感謝伝えられても、僕抜きで話しかけるのはまだ無理か──
そう思って『はぁ』とため息をつきながらも送られてきた文を読む。
しかしそこには──
『ちょっと輝星、俺七海のこと好きかもしんねぇどうしよう』
まさかの両想い、七海の好意が叶った瞬間だった。
僕は七海に代わって思い切りガッツポーズをした。
その夜はそんな二人を見守るかのように、"大きな月"が夜空に浮かんでいた──
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