第20話 たいせつなもの
「ジョーカーの収容完了しました」
「ありがとう」
銃を持った武装隊員とA0-2が会話を交わす。
A0-2は彼らからカード型のパスワードキーを受け取り、胸ポケットに入れてスタスタと立ち去る。
一方任務を終えた隊員達は、収容された新たな究極生命体を眺めていた。
透明な分厚い強化ガラスに覆われた正方形の部屋の中央には気絶した青年が一人。
彼はピエロの仮面をつけている反面、ボロボロの体にピクリとも動かないその様子は死を彷彿とさせる。
「APEX社の対応すげぇ早かったよな、新しい究極生命体だってのに」
「何だよお前、何か言いたいのかよ」
「あれほんとに新発見か……? APEX社は元々ジョーカーの存在知ってたんじゃ──」
「──おいおいそんくらいにしとけって。APEX社の陰謀なんか言ったら殺されるかもしんねぇぞ……」
★★★
「見てくださいこの大きな花火の玉! これからあの華やかな花火が空に描かれるんですね──」
女性のレポーターが興味もないであろう題材について取材している。
あの後僕はAPEX社日本支部にジョーカーを預けてそのまま学校には戻らなかった。
学校の方も休校になったとのことで僕の正体がバレることはなかった。
そして今僕は自分の部屋でソファに寝っ転がりながら、昼下がりの普段は見れない時間帯のテレビを見ている。
「ここ光財市の名物である光財花火。毎年夏に打ち上げられ、地元の人だけでなく日本中、世界中からも人が集まるんだそうですね! おすすめの観覧スポットなどはありますか?」
「えーそうですねー、私どもとしてはこの花火は横から見るのが一番華が出るんですね。なのでまあ、どこかの展望台だったり──例えばあの大賢タワー100からは絶景だと思いますよ」
ここで映像が切り替わり、夏の夜空に浮かぶ綺麗で大きな花火が画面いっぱいに映し出されていた。
それはいつかの光財花火の様子で、画面越しでもその迫力が伝わってくる。
大賢タワー100って七海が住んでるところだっけ──
セキュリティが完璧だから、芸能人とかがこぞって住むみたいなのを聞いた事ある気が──
「──メシア、ジョーカーについて聞きたいことがある」
「──っ!」
突然僕の耳にA0-2の声が聞こえ、ふと声のした方を見ると部屋のドアに彼女が立っていた。
ノックも何もせず、というかそもそもドアはオートロックでパスキーがないと開かないはずなのに──
「それは分かりましたけど、部屋入ってくる前に何か合図くらいしてくださいよA0-2」
「すまなかったなメシア、以後気をつける」
「いやいや僕今までに何回も言ってきましたからね? そろそろ頼みますよ」
改善する気のないA0-2に呆れつつも僕は彼女について行った。
住宅街の地下に広がるこのAPEX社日本支部はアリの巣のように張り巡らされ、その廊下の一つ一つが全面近未来的な様子。
「この前イザナミが日本に来て帰って以降連絡来てないんですけど、何か知らないですか?」
「学校生活を送っている君とは違ってイザナミは今も暗躍している。忙しいんじゃないか?」
「どんなに忙しくても連絡来ない日なんてほとんどなかったんですけどね……」
違和感を覚えつつも僕とA0-2は違う部屋に到着し、そこでジョーカーについての事情聴取を受けた。
僕は彼についての情報を余すことなくすべてA0-2に伝える。
一方の彼女はジョーカーの驚くべき情報に何の戸惑いも見せず、ただパソコンに入力し続けていた。
★★★
時は進みその日の夜、ジョーカーの収容室の前にはA0-2がいた。
目を覚ましたジョーカーと彼女は分厚い強化ガラス越しに会話を交わしていた。
「──ジョーカー、君のそのピエロの仮面は一体何だ? ただのファッションなんかじゃないだろう?」
「ファッションな訳ねぇだろッ! これはオレが堕ちたことへの罰だッ!」
「堕ちたことの罰とは何だ? どこからどこへ堕ちた?」
「んなもんここに堕ちてきたんだよッ! 何回も言ってっけどオレは神だからなァッ──!」
ジョーカーはそう言って狭い収容室内で飛び跳ねてはしゃぐが、A0-2はその彼の活発な様子に見向きもしない。
その淡白な彼女の様子をジョーカーは不思議に思ったのか──
「この仮面はオレが犯した罪の象徴、オレが向き合って大切にしなきゃいけねぇもんだッ! でもお前……A0-2とか言ったかッ!? お前さ、大切なもんとかあんのかッ!」
「……この話の筋とは違う」
「メシアもオレも、あの学校にいた人間たちだって多分大切なもん持ってるぜェッ!? お前の大切なもん……あれだッ! 家族とかいねぇのかよッ!」
A0-2はジョーカーの問いかけに無言を返し、そのまま彼に関する資料をまとめる。
その間も彼は色々喋りかけるが、彼女は話に関係ないことはことごとく無視した。
諦めない彼の様子に対するため息も一切出ず、そんな彼女の様子はもはや人ではなくロボットに近かった。
「──いや学校でのメシアには正直オレが本気出してたら勝てたッ! オレめっちゃ強いんだからなァッ!」
「何だ、負け惜しみか? 現に君はメシアに負けただろ」
「確かにィッ! メシアは自分の能力をまだ使いこなせてねぇだけで、ちゃんと扱えたらくっっそ強いぞッ! これはまじで断言出来るッ!」
「そうか、じゃあ具体的にメシアの力の扱いのどこが──」
人気のない深夜のジョーカーとA0-2の会話は続いていき、それをジョーカーは楽しんでいる様子。
しかしA0-2からすればそんなものはただの作業に過ぎず、聞き出すために少しばかり会話に工夫を入れてみただけである。
めいっぱい身振り手振りをして彼女に伝えるジョーカーだったが、彼女側としてはもう今聞くことは聞き終えたらしい。
彼女はパソコンなどのもろもろの荷物を片付けると立ち上がった。
『お前もう行くのかよッ! つまんねぇなッ!』というジョーカーの言葉に彼女は背を向ける。
コツコツコツという足音とともに立ち去るA0-2。
彼女は去り際、最後に彼にこう言い残した──
「──私に家族はいない」
ジョーカーは何も言わずに去っていくA0-2の後ろ姿を見つめていた。
読んでいただき本当にありがとうございます!
少しでも「続きが気になる」とか「面白い」とか思っていただけたら、ブクマと★(星)お願いします!
★(星)は広告下から付けられます!
作者のモチベやテンションが爆上がりするのでお願いします!