第2話 ヒーロー
「僕はメシアだ」
大賢高校の立派な制服に髪は真っ白、そして体のまわりにはビリッビリッと度々光が散る。
先程のどこにいてもおかしくないような男子高生の姿とはまるで違った。
「お前何でっ……さっきこの銃で撃ったはずじゃ……」
「ピストルの弾なんて音速程度、僕はそれ以上の速さで動ける──避けたんだよ」
「あの至近距離での発砲をっ……、クソがっ……」
歯を食いしばりこちらを睨む犯人。
奴の銃はより強く握られる。
『チッ』と舌打ちをした後、奴は動いた。
ダンッ──!
犯人は背後の二人を振り返ると躊躇なく撃つ。
しかし僕は弾が二人に着弾する前に回り込み、それを軽々と防いだ。
「クソメシアが、やっぱもう詰みじゃねぇかよ。……でもなぁメシア、テメェの弱点ならよーく知ってるぜ? ──お前考えてから動いてんだろ」
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僕の弱点──というか僕の能力の扱いには特徴がある。
僕のこの『光』の力は光を利用した高速移動、超パワーを発揮することができる。
しかし僕はこの能力を使う際、あらかじめ攻撃や移動の軌道確定させてから使用している。
というのもこの速さに僕の動体視力はまだ追いついていないのだ。
つまりは僕はこの能力を使う前、軌道を確定させるまでの一瞬の隙が出来るという訳だ。
□□□
「──要はお前の意識外から撃てば勝ちってこった」
ダンッ──!
三度目の銃声、だがこれは目の前の犯人の銃からのものではなかった。
明らかに背後からの弾──僕の脇腹を貫いた。
血が出た、地面に落ちるまでのその刹那。
背後……つまりは隣の号車にまだ仲間が──
その仲間が貫通扉から僕を撃ったということか──
そうだ、いつ犯人が単独犯だと言った──?
「そういう隙が命とりなんだよクソメシア」
──ステップI発動──
犯人がそう言った時には僕はその場にいなかった。
その展開に驚く犯人だったが、奴は『どこへ行った』とも呟かずに迷わず背後を撃った。
ダンッ──!
四発目の弾丸が着弾した。
──もう一人の犯人の体に。
背後を振り返った犯人の目に映ったのは七海雫、男子高校生……そして自分の仲間とそれを盾に持つ僕の姿だった。
「は!? 何でお前がここにいんだよっ──!」
「危なかった、弾丸が二人に当たる前に君の仲間を見つけれて良かったよ」
「俺が後ろの二人を撃ったこの一瞬で……隣の号車にいた俺の仲間を見つけて……、しかもここに持ってきたのかよ……」
僕は犯人の仲間を思い切り蹴り上げた。
仲間は上に吹き飛ばされ、車内の天井に激突。
そして振り上げられた僕の足は目の前の犯人の脳天を捉えた──
「クソメシアが……速すぎんだよ──」
『ライトニングドロップッ──!』
僕の足が振り下ろされると同時に閃光が走った。
犯人の脳天を僕のかかとが強打し、奴はその勢いのまま地面に倒れた。
上に吹き飛ばされた仲間も地面に落下、どちらも意識を失っていた。
僕は高校生二人の前に僕は背中を向けて着地する。
「ありがとう……! ありがとう……! ほんとにありがとう……!」
「ほんとにっ……怖かったっ……」
振り返ればそこには感謝をひたすら述べる男子高校生と、安堵のあまり泣き出す七海雫。
膝から崩れ落ちていた二人の手を掴み立たせると、彼らは僕の目を見た。
七海雫が僕の手を途端に握る。
彼女の涙を拭った手は濡れていた。
彼女は上目遣いで言う。
「私七海雫って言います……。本当にっ……本当にっ……うっ……ううっ……」
恐らく『ありがとう』と言いたかったのだろうが、それを言い切る前に涙が勝ってしまう。
彼女は再び頬を雫で濡らし、それをまた手で拭った。
その彼女の反応とは打って変わって、先程までの雨は止み柔らかな日差しが降り注いでいる。
「君の方は大丈夫だった?」
「は、はい!」
緊張しているのか彼の返事はいきなり大きく、しかし裏返った。
続けて彼は言う。
「メ、メシア……俺メシアの大ファンです! ずっと憧れててほんとに助けて貰えるなんて夢にも……!」
「僕のことを慕ってたとしても、銃を無理やり奪うなんてしちゃダメだよ」
そう、先程の犯人の発言にもあったが彼は事件発生時犯人の銃を人混みに紛れて無理やり奪おうとしたのだ。
勇気ある行動でも流石に危なすぎる。
彼は僕の忠告にうなずくと少し残念そうな表情を浮かべた。
「でも君の勇気ある行動には感心したよ。君もヒーローだよ」
「──っ! マジで! メシアにそう言って貰えるとか超嬉しいっすよ! メシアもめっちゃかっこよかったです!」
「そんな、敬語なんて使わなくていいよ。僕と同じ大賢高校でしょ? 君の名前は?」
「えっと、俺は皇爽真……! メシアは──そっか正体隠してるんだったな!」
そう言うと皇爽真はひと笑い。
僕もそれにつられて笑ってしまう。
貫通扉にはそんな僕たちの様子を見つめる乗客の姿が。
皇爽真は僕に見入っているようだったが、一方で七海雫はすっかり泣き止んでいた。
涙袋は膨れて目の周りは少し赤くなっていた。
「メシア、私の友達……知らないよね……?」
彼女は僕にそう声をかけると貫通扉の向こう側の乗客の方をじーっと見ていた。
それは紛れもなく心配の眼差し、彼女は続けて口を開く。
「乗客が皆他の号車に逃げてく時、今日一緒に乗ってた私の友達も流されてっちゃって……」
「じゃあ俺がそいつ探すよ! 見た目は──?」
「──ちょっと待って爽真。残念だけど君たちは今から事情聴取とか色々受けないといけないから……」
「あーまじかよ……」
僕の言葉に二人は落ち込む。
しかし僕なら余裕があれば探せる。
これを機に二人との交友関係も築けるかもしれない。
僕は七海雫にその友達の名前を聞いた。
すると彼女はぱっと表情を明るくして──
「鬼嶋琴葉です! ずっと仲良くしてた私の友達なんです! でも……」
七海雫が何か言いかけた時、電車は最寄りの駅に到着しドアが開くと警察がぞろぞろと乗り込んできた。
彼女の友達、鬼嶋琴葉に何が事情があるのだろうか──?
この事件の後に探せばいいものを、他の人に協力を煽ぐその理由は何なのだろうか──
僕はそんなことを考えながら警察に連れていかれる二人の姿を見ていた。
ブーブーブー──
その時、僕のスマホに電話がかかってきた──
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