第18話 勝敗
室内を飛び回る僕の軌跡が光線として現れ、教室に何本ものそれが引かれていた。
あまりの技の勢い、速さに流石のジョーカーも背を壁につけて腕をクロスし防御体勢に入るしかなかった。
『ライトニングウィップ』
しかし僕は技の最中で再び『ライトニングウィップ』を発動。
僕の指から伸びた光のムチが彼の腕に巻き付きガードを剥がし、そこに凄まじい勢いで攻撃を叩き込んでいく。
ドッドッドッドドドドドド──ドンッ!
最後の一発、蹴りを彼の顔面にお見舞いして僕は着地した。
彼のピエロの仮面の裏からはタラーっと血が流れてきていたが、仮面自体は傷一つ付いていない。
──それが何なのかはさておき、周囲に人が集まり過ぎている。
幸い教室内には誰一人としていないが、廊下からは沢山の観客がこの戦いを見ていた。
「ほらあれどう見ても本物のメシアだろ!」
「ほんとだ! ほんとにこの学校にいたんだ!」
「その相手が誰だか知んねぇけど、メシアいけぇっ!」
教室内の僕の姿を見て皆はそう叫ぶ。
僕の存在に興奮し危機感をまるで覚えていない皆は、満面の笑みでこちらを見ていた。
「皆早く逃げて──!」
目の前のジョーカーを警戒し、目を離さずに僕はそう言い放った。
しかし僕の声はざわつきにもみ消され、聞こえた人も知らないふりをして見続ける。
逃げるどころか歓声は更に大きくなってゆく。
「滅多に見れないメシアの姿だ! 目に焼き付けとくべきだろ!」
「頑張ってー! メシアー!」
「メシアクソかっけぇな! いけメシアァ!」
皆の応援、叫びが僕とジョーカーを包み込んだ。
群衆をどうにかするのは無理だと判断した僕は、ジョーカーへの警戒を決して解かない。
しかし次の瞬間思わぬ事態が──興奮が有頂天に達した生徒が教室へ踏み込んできた。
「メシアぶっ飛ばしちまえぇっ──!」
「──っ」
「──ぶっ飛ばされんのはお前らの方だからなァッ!」
入ってきた生徒に僕の注意が向きジョーカーから目を逸らした瞬間、彼はその生徒に向かって飛び込んだ。
調子に乗っていたその生徒の顔からは笑顔が消え、顔面蒼白。
『今から死ぬ』なんて思っていたことだろう──
ダンンッ──!
何かと何かがぶつかる鈍い音がした。
その"何か"の正体など考えずとも明らかだ──僕の目に映っていたものは案の定のものではない。
「ウォラアァッ──!」
──宙を舞い、足を伸ばして蹴りをいれる爽真の姿。
生徒に向かって飛びついてきていたジョーカーに、彼は横からドロップキックをかましたのだ。
爽真の攻撃によりジョーカーの進行方向は少し横にずれ、間一髪生徒は死を免れた。
パリィンッ──!
そしてジョーカーは廊下の窓ガラスに激突し、そのままそれを破って落ちていく。
僕はすぐさま駆け出し教室から飛び出て、ぴょんっと廊下に群がっていた群衆を飛び越える。
その間に爽真に向かってグッドサインを出し、ジョーカーが破った窓ガラスから僕も同様に飛び降りた。
『ライトニングストライクッ!』
先程の五階から着地していたジョーカーに向かって、後から僕は殴りを撃ち込む。
しかし彼はそれを容易く避け、僕の拳は代わりに地面に撃ち込まれる。
すぐさま避けたジョーカーからの攻撃が横から飛んでくる──
「岩っ!?」
「ヒッハハハッ──!」
彼は地面を大きく剥がして僕に投げつけてきたのだ。
慌てて上昇して避ける僕──
『削除ッ!』
僕の頭上に先程の岩が現れクリーンヒット。
降下するもそこに待ち構えていたのはジョーカー。
僕は上からの岩と下からのジョーカーに挟み撃ちにされ、二度の攻撃をくらう。
ドゴッ! ドドドッダダダダッ──!
★★★
僕は岩に押しつぶされ地面に倒れ込んでいた。
僕の頭からは血が出て、他にも体の色々なところに傷を負っていた。
歯をぐっと食いしばりながら前を向くとそこには僕を覗き込むジョーカーの姿が。
「ヒッハハハハハッ──!」
彼はその独特な笑い方で僕を笑い飛ばす。
「おいおいメシアァッ! 救世主とか呼ばれてんのにこんなもんかよォッ──!」
「……っ」
「そんなんじゃこれからやってけないぜェッ!? 強ぇって聞いてたのによォッ!」
『ハァ』とため息をついて肩を落とすジョーカー。
「あれっ? ここどこ? ……あれっ?」
「──ッ!」
そんな時"彼女"の声が聞こえた──七海の声だ。
声のする方に目をやると周りをキョロキョロと見回しながら、慌てふためく七海の姿があった。
恐らくこの校舎に慣れていないために、どうやって教室に戻るのかが分からなくて迷ったのだろう。
「おー? あの女じゃねえかよォッ──!」
タッ──
ジョーカーは七海を見るやいなや、すぐさま地面を蹴って彼女の方へ接近する。
僕の目には彼が拳を握っているのが映っていた──
まずいっ──!
その刹那、僕は決心した──本当の実力を発揮することを。
『ステップII──』
ドゴォオンッ──!
その瞬間雷のような音と、僕の上に乗っかっていた岩が木っ端微塵になる。
そして近くの窓ガラスは全て割れてガラス片が飛び散る。
そこに現れた光をそのガラスの粒たちはピカピカと反射し光り輝いた。
ジョーカーが七海に勢いよく接近するその時に、僕は瞬時に二人の間に割って入る。
「──ッ!? メシアお前さっきと速さがッ──」
『──ライトニングストライク……撃ッ!』
僕の拳はジョーカーの腹に思い切りヒット。
そして僕はアッパーして彼を上へ撃ち上げた。
『ステップI』より一段階上の『ステップII』のこの威力。
□□□
ステップ──
能力の発動の程度に段階をつけるものだ。
イメージとしては自転車のギアのような感じ。
扱いの難しいこの『光』の力を僕は『ステップ』を用いて上手くコントロールしている。
□□□
ブワァァ──
ジョーカーをアッパーの『ライトニングストライク』で上空へ撃ち上げた後の、暴風が周囲に起こった。
僕の後ろに立つ七海の髪が激しく靡き、校舎の窓から様子を覗き込む生徒も風に晒されている。
「メシア……!」
「そのまま階段を上り続けて! そうすれば一年の教室がある五階には着くから!」
「わかった……!」
七海はコクリと頷くと回れ右をして校舎に入り、階段を勢いよく駆け上がっていった。
僕は地面を蹴り飛ばし一気に上空へ舞い上がる。
上に吹き飛ばされたジョーカーに僕はすぐさま追いついた。
「くたばれメシアァッ──!」
パチンッ──
反撃をしようとする彼の腕を光のムチの『ライトニングウィップ』で拘束。
彼を一気に引いて──
「僕の勝ちだジョーカー──」
──ライトニングストライク闊──
シュッ……ドゴォオンッ──!
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