第13話 過剰
「──って皇爽真君に伝えて欲しいのっ!」
緊張と不安が最高潮に達し、その直後に驚きがやって来た。
僕は七海の言葉に愕然とし、それと同時に心の中の不安がほぐれていく。
「え……ええっ?」
予想していたものと全く違う展開に僕は腰を抜かすほど驚き、情けない言葉を発していた。
僕の思わぬ反応に彼女も同じように『ええっ?』と言い返す。
しかし彼女の動揺もつかの間、今度は表情を暗くしてうつむいて口を開いた。
「やっぱダメだったかな……私たちまだ初対面だもんね……」
「いやそういう訳じゃなくて……その……、え? 『助けてくれてありがとう』っていうのを僕から爽真に伝えて欲しいってこと? だよね?」
「ダメ……かな……?」
彼女はうつむいていた顔をあげて上目遣いで僕のことを見つめる。
その瞳は心做しか涙目になっている気がした。
僕は息を大きく吸い込んで気持ちを落ち着かせる。
僕の正体知ってて、助けて貰えて好きになって……みたいなの想像してた──
完全に読み外れた──
でもあっちの言い方も問題でしょ──
まさかの自意識過剰で一人で恥ずかしくなる僕。
しかしその感情を一気に払拭して僕は言った。
「──いや、全然大丈夫。僕から爽真に伝えておけばいいんだよね?」
「え、頼まれてくれるの!」
「うん、そういうことなら任せてよ」
「ありがとうぅっ──!」
彼女は満面の笑みを浮かべると、その上がったテンションのまま僕の手を取って握った。
僕の目を見つめて何度も『ありがとう』と繰り返す。
彼女のその言葉には僕への感謝も含まれていたのだろう。
しかしその一方で、嬉しさのあまりとりあえず口から出たものにも感じれた。
「──あっごめん!」
七海雫は我に返ったのか、慌てて手を離してバッと一気に距離をとる。
そして再び顔を赤らめて何度もぺこぺこと頭を下げる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
「ちょっと嬉しくて思わず手握っちゃって……」
七海雫の言っている意味が分からず僕は首を傾げた。
アメリカでは握手なんて日常茶飯事だったけど、日本では違うのかな──?
逆に初対面の挨拶はどうするんだ──?
はっきりとは理解出来ていなかったが、とりあえず『大丈夫だよ』と七海雫をなだめる。
取り乱してだいぶ荒ぶった動きをしていた彼女だが、容姿は特に乱れることなく綺麗なまま。
顔を上げた彼女の輝かしい瞳が僕の目の奥を見ていた。
涼しい風、桜の花びらが少なくはあるがこの屋上まで飛ばされてやって来る。
僕たちの髪を靡かせるこの心地のいい風当たりは、時間をゆっくりに感じさせた。
「……」
「……」
話が終わって沈黙のまま見つめ合う僕たちだが、気まずいという感情は特にない。
ただこの屋上のちょうどいい日差しや温度など、その諸々がこの空間を作り上げていた。
キーンコーンカーンコーン──
話に一段落ついて僕たちが見つめ合っていた最中、授業開始のチャイムが静寂を切り裂く。
その音が耳に入った途端、お互いの目がカッと丸くなったのが分かった。
「まずい……」
「天沢くんこれって……」
『遅れる──!』
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