第11話 目立つ
二人肩を並べて歩く僕と爽真。
話に一区切りがついた頃には丁度僕たちは大賢高校に到着していた。
この高校の最寄り駅はその名前の通り『大賢高校前』。
この駅の付近には大賢高校の卒業生を求めた企業が殺到し、それに伴ってここ一帯も栄えた。
こんな状況からも大賢高校の凄さが伺える。
大賢高校の校門の前、昨日とは打って変わって随分と人がいて賑やかだ。
昨日は遅れてきたせいで人影なんてなかった。
ドスッ──
「痛っ……」
そんな時僕たちの背後で何かがぶつかる音がした。
「ええっごめんね!」
「私こそぶつかっちゃってごめん、ちょっと急いでて!」
後ろを振り向くとそこにはボブヘアーの黒髪をした女子と七海雫が転んでいた。
ぶつかられたのにも関わらず七海雫は素早く立ち上がると、女子に手を貸す。
「これも何かの縁だよ、私七海雫って言うの。あなたは?」
すると女子はその手をとって立ち上がりながら──
「優しいねありがとー! 私は観世美香よろしくね──」
パッパと服の汚れをはらい彼女たちは二人笑って話し始めた。
その一場面を見ただけだが、僕の七海雫の印象は素晴らしいものとなった。
一方隣の爽真はそれに気づかずただ歩き続けている。
僕は今のことを別に話題に出す訳でもなくて、何も見なかったかのように歩いていった。
★★★
キーンコーンカーンコーン──
号令をして授業が始まる。
一年を通した授業の概要を説明する教科もあれば、早速本格的に授業が始まるものもあった。
高校受験が終わったばかりでだらけている人が大勢かと思ったが、意外と皆集中して授業を聞いている。
僕も同じように話聞かないと──
皆の様子を見てそう思う僕だったが、先程からどうしてもある事が脳裏をよぎってやまない。
あの周りとは一線を画す雰囲気、煌びやかな金髪、優れた性格。
自分が究極生命体、世界的ヒーローであるというのに何故か彼女との差を感じていた。
──そう、それは七海雫のことだった。
トレインジャックの犯人も七海雫を狙っての犯行──
七海雫……少し不謹慎だけど事件を巻き起こすほどの人気なんだ──
日本の人からすれば親しみのある人なのかもしれないが、僕からすれば謎多き人物。
そんな彼女への興味もありはするが、僕が本当に気になっていたことはまた違ったことだ。
それは一体何か──
──僕の正体、七海雫にバレてるかも──
実はこの不安は七海雫に限らず爽真にも言えることだった。
つまりはトレインジャックの時に最も至近距離にいた二人に、バレているかもしれないということだ。
爽真とはその後すぐに学校で話せた上に、彼の様子からして僕の正体を知ってるなんてことはないと思える。
一方で問題なのが七海雫。
まだこの天沢輝星として喋ったことは一度もない。
彼女が能天気な爽真とは正反対の性格の可能性だってある。
もしバレてたら速攻で僕の学校生活は終わり──
何の収穫もなしに退学──
何なら正体を知ってることを利用されたりして──
この学校生活を逃せば僕は──
嫌な考えが大量に湧き出てくる。
冷静に考えれば今朝の七海雫の性格からして、そんなことは有り得ないのだろうが心はそう冷静ではない──
「──おーい天沢」
「七海雫っ──!」
心の中にあった文字を口にしてバッと勢いよく席から立ち上がる。
その瞬間に正気に戻って状況を理解した。
教室からは笑い声、先生は僕にプリントを渡してきていた。
「天沢まだ二日目だぞー、ボーッとすんなー」
「……すいません、気をつけます」
僕は皆から笑われながら座り、先生から受け取ったプリントを後ろへと回した。
斜め後ろの爽真も僕のことを見てクスクスと笑っている。
あー嫌だ──
気を抜いていたら思わぬ形で目立ってしまった──
そこから皆からの目線は、何というかからかう感じのそれだった。
授業中も先生にたまにネタにされ、このクラスでの僕の印象が次第に大きくなっていく。
それにこの後の休み時間もこのことで色々爽真から言われるんだ──
「はあ……」
僕はため息をつく。
それには複雑で色々な感情が含まれていた。
★★★
チャイムと号令を挟んで休み時間──
憂鬱な気分に身を包ませていた僕に案の定声がかかる。
「おい天沢ー」
見知らぬ声、既に仲のいい爽真だったら良かったのに──
まさか他の初対面の人にこのことで話しかけられるなんて──
やっぱり目立っちゃったよな──
心ではそう思いながらもその呼ぶ声に返事をした。
「何ー? 授業中のことなら──」
「──B組の七海が天沢のこと呼んでるぞー」
「……え?」
読んでいただき本当にありがとうございます!
少しでも「続きが気になる」とか「面白い」とか思っていただけたら、ブクマと★(星)お願いします!
★(星)は広告下から付けられます!
作者のモチベやテンションが爆上がりするのでお願いします!