第10話 二日目
APEX社日本支部が位置する神中市は住宅街が広々と広がる平坦な地。
しかしその風景の中で目立つ建物が一つあった。
それは通学途中の僕の目にも映る──
神中市に隣接する光財市に存在する巨大なマンション、大賢タワー100。
「日本にも外国と変わらず金持ちってのはいるんだな……」
日付が変わって高校生活は二日目を迎える──
目に映る度に僕はそう呟く、ため息が出た。
その名の通り大賢タワー100は100階建てという脅威のタワーマンション。
大抵の芸能人や金持ちなどはそこに住んでいるという噂だ。
凄い建物って言ったって全然住所バレてるけどな──
僕はそのまま最寄りの神中駅に向かってとぼとぼと歩いていた。
朝日が照りつけ僕の眠気を取り除こうとする。
トレインジャックが起きなければ完璧なんだけど──
★★★
プルルルル──
出発のベルが鳴り響き僕は慌てて閉まりかけていた電車に乗り込む。
大きな足音をたてて乗り込んだ先には冷たい目線が。
珍しく乗客が少ない電車だからこそのものだ。
「あ、爽真っ──!」
電車の乗り込み口とは反対側のドア、その横の座席に座り腕を組んで眠る爽真の姿。
昨日のトレインジャックで爽真がこの電車を使っているというのは知っていた。
でも知らないふりをして話しかける──
「……ん?」
眠い目をこすりながら僕の呼び掛けに目を覚ました爽真。
声の正体が僕であることに気づくと彼は目を見開いて──
「え! 輝星じゃねぇかよ!」
「爽真この電車だったの!? もう最高でしょ!」
「まじ最高だわ! ちょ輝星こっち座れって!」
爽真は笑顔を浮かべながら隣の席をポンポンと叩く。
僕は彼の言うままに座りそのまま彼と話し始める。
さっきまでぐっすり寝ていたとは思えないほど彼の意識はハッキリしていて、とても元気に話していた。
「昨日俺トレインジャックに遭ったって言ってただろ? あれ最初犯人ただの痴漢してる変態だと思ってて」
「あそうだったの? それで止めようとしたらみたいな?」
「そうそう、止めようとして近づいて行ったら犯人銃持ってて! そんで乗客もそれに気づいて一気に逃げてって、何か俺気づいたらそいつの銃奪おうとしてたんだよ!」
爽真の言う動き、一切の脈絡がない。
銃の存在に気づき逃げ惑うのは分かるが、どさくさに紛れて銃を奪おうとするだなんてなかなかの度胸だ。
僕は外の勢いよく過ぎ行く風景を見て、そして電車に揺られながら彼の話を聞いていた。
「──ただそこで現れたのが! 俺の尊敬するメシア!」
「いいなー僕もメシアと会いたかった」
「だろ! 昨日は災難だったけど正味メシアと会えたからトントンだわ!」
顔を見合わせながら笑い合う僕たち。
『どんな風にメシアは現れたの?』と聞けば、詳細にその時の状況が語られる。
彼の身振り手振りは気分の興奮につれて次第に大きくなっていった。
「ただの乗客だと思ってた人がいて、そしたらその人いきなり犯人を挑発し始めて、銃口向けられてたんだけど──!」
僕が昨日やっていた行動が細かく言い表される。
僕は相槌をうちながら、あたかも初めて聞いたかのように振る舞う。
僕たちが昨日の話で盛り上がり、そうこうしているうちに電車は駅に到着した。
『──まもなく、大賢高校前、大賢高校前です。傘などのお忘れ物にご注意ください──』
僕たちは慌てて電車から駆け下りた。
その後も爽真との話は続き、すっかり仲良くなった状態で僕たちは学校へと向かって行った。
しかし爽真は気づいていないのだろうか?
爽真の真横、乗り込み口とは反対側のドアのそばに立っていた一人の女子生徒の存在に。
美しく艶やかな金色のツインテール、明らかに他とは違う雰囲気。
それに加えて非常に整った顔立ち──
それは『国民的』や『芸能人』といった言葉を当てても遜色ない、むしろその言葉を超えるほど。
そう、僕たちが話していた横に立っていた一人の女子生徒。
その正体とは、昨日のトレインジャックで爽真と共に被害者になっていたもう一人の人物──
七海雫であった。
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