悪役すぎる悪役令嬢の懺悔
神よ。
愚かな私をお許しください。
50才を越えた今も病気ひとつせず余生を過ごしていた私に、神は最後の試練を与えようとされています。
若者たちは昔常識だったことを「それは違う」と声高らかに否定します。
ただ、彼等の理想論に流されれば国は混乱します。
立ちはだかり壁になるのが、最近の私の役目でした。
彼等はその壁を壊そうと動き出しました。
私は辛い決断を下さなければなりません。
その時は間もなくやって来ます。
私は神に最後のご加護を期待しつつ、我が人生の至らぬ点を心より懺悔いたします。
神よ、愚かな私をお許しください。
***
私、マリア・ネフェルティのこれまでの人生は、多くの誹謗中傷に満ちたものでした。
私自身に至らぬ部分があったことは否定しません。
我が国の中でも名門として知られるネフェルティ公爵家の長女として生まれ、多くの者から多大な愛情を注がれて育ちましたから、多少わがままだったようです。
しかし生まれてからずっとそうでしたから、それが普通だと思っていました。
そのせいでいろんなことが起きました。
まず思い出されるのが「婚約破棄騒動」でしょう。
私は金髪碧眼の王太子から「わがままな娘は願い下げだ」という理由で婚約破棄を宣言をされた時、正直意味がよくわかりませんでした。
自身の問題点に気づいていませんでした。
今振り返えれば、思い通りにならないことがあると、他人に強く当たることがあったのは間違いありません。
まあ、苛めたりもしました。
まだ幼かった私からすれば私以上に王太子からの愛情を注がれる子爵の娘を、邪魔な存在と捉えるのは当然でした。
とはいえ、当時はちょっとしたイタズラの延長と考えていましたから、国中に私の名を轟かせるような大事になるとは想像していませんでした。
まさに晴天の霹靂でした。
私は思いました。
「ば、倍返しだ!」
この騒動によって「悪役令嬢」などと陰口を叩かれるようになり、普通の結婚すら夢物語になってしまいましたから、当然です。
しかし私はすぐ冷静さを取り戻しました。
直情型の父が私以上に怒っていたからです。
王太子に恥をかかされた形になった父は兵を挙げる準備を始めましたが、私は必死で説得し、それを思い留まらせました。
たかが私ごときの婚約破棄で内乱を起こすのはさすがにやりすぎでした。
私の悪名が轟いている今、事を起こしても味方してくれる者など現れないという悲しい現実もありました。
複雑な思いを飲み込みひとり静かに暮らそうと考えた私は、気分転換に母の実家であるエミニー公爵家の領内にある保養地に逗留することにしました。
そこで思わぬことが起きてしまいました。
たまたま同じタイミングで夏季の休暇を楽しまれていた国王陛下と昵懇になり、果てはお手がついてしまったのです。
当時王宮で女官長を勤めていたカルネ婦人は母と同じエミニー公爵家の出身で私と王太子の婚約をまとめあげた方ですから、彼女なりに思うところがあったのでしょう。
私を陛下に引き合わせてカードゲームなどのお相手をするよう取り計らってくれました。
お互い寂しさを抱えた者同士でした。
陛下は長年苦楽を共にされた王妃を亡くされたばかりだったのです。
年こそ離れていましたが恋に落ちました。
元婚約者の父という背徳感も私を燃え上がらせました。
言い訳に聞こえるかもしれませんが、私のような者が陛下の誘いを断ることは出来ず、結果として静かな暮らしとは正反対の浅はかな行動になってしまいました。
心より懺悔します。
そして、しばらくしてさらに追いうちをかける出来事が起きました。
お子を身籠ってしまったのです。
なんということか…
私は哭けかずにはいられませんでしたが陛下はお喜びくださいました。
そんな時に限って元気な男の子が生まれるのですから不思議なものです。
これまで男子は王太子だけで、後の五人は女のお子でした。
余計なハレーションを起こしたくないとの思いから、私は国外にでも身を隠し子供の成長だけを楽しみながら暮らしたいと希望しましたが、時流がそれを許してくれません。
「陛下はマリアの子を世継ぎにしょうと考えている。王太子はまもなく排除されるようだ」などというまったく事実と異なる噂が流れたりしました。
王室の女官たちの間から広がった噂ですが、皆単純にそうなれば面白いと思ったのでしょう。
もちろん口悪き者が「あの悪役令嬢のことだからあやつが裏でいろいろ動いているに違いない」などと強い口調で言ったりしていたのも事実ですが、決してそのようなことはありません。
せいぜい「王太子は王にふさわしい資質をお持ちなのでしょうか」など心に浮かんだ素直な気持ちを陛下にお話した程度です。
そんな時事件が起こりました。
その当時陛下と私そして子が暮らしていた離宮を王太子に率いられた2千の兵が囲んだのです。
王太子に近しい人の中にあることないこと吹き込んだ輩がいたに違いありません。
元々王太子は陛下と私が恋仲になることを心よく思われていませんでしたし(まあ、当然ですが)、若干決断を感情に左右される幼い部分もありました。
もちろん私との因縁も少なからず影響したと思います。
私は愛する者たちと共に死ぬのであれば本望でした。
神に祈りをささげながら自害する覚悟を固めていたその時、王太子の兵が離宮の囲みをときました。
国境付近を荒していた山賊の鎮圧に出かけていた軍が、すべてを予期していたかのように、駆けつけてくれたのです。
ネフェルティ家軍、エミニー家軍に加えその兵力と機動力において我が国随一を誇るモンドール辺境伯の軍を主体とした約5千。
その軍を率いていた父によれば、占い師が王都での異変を予言したため急ぎ引き返したそうです。
その占い師は私が日頃より頼りにし、いつも近くに侍らせている者ですが、たまたま父の仕事を助けるため送り出していたのです。
本当にたまたまでした。
王太子の動きを掴んでいた訳ではありません。
それはさておき、我が国の主たる打撃戦力が勢揃いした形ですから、反乱軍などはひとたまりもありませんでした。
離宮近くの平野での決戦は陛下の出陣の必要すらなく決着がつきました。
王太子に味方する者も少なからず居ましたが、あまりに早く決着がついたため戦いには間に合わなかったようです。
私は九死に一生を得たのです。
王太子がその後どうなったかはお察しの通り。
私は「お命だけは」とお願いしましたがそれが叶うことはありませんでした。
この戦いで命をおとした騎士が何人もいましたから、今思えば私の願いの方が無理すじだったのです。
私は万感の思いでした。
しかしすでに王太子妃になっていた元子爵令嬢(今となっては名前も思い出すことが出来ません)につきましては、要望を聞き入れて頂きました。
彼女から命乞いを受け、私はすべてを許しました。
命乞いする女のなんと哀れで美しことか…
「ざまぁ…」
そんな言葉を心に思い浮かべながら、我が国の将来を支えてくれる子を生むことを条件に許しました。
幸い子供はまだでしたから彼女の美貌なら貰い手があると考えたのです。
相手はすぐ見つかりました。
彼女にぴったりの相手です。
モンドール辺境伯。
少々見た目に難があり結婚していなかったのが幸いでした。
見た目は皆が言うほどひどくありません。
普通より背が低く、普通より少し太っていて、歳も40才に手が届くか届かないかあたりですが、それだけのこと。
一年もすれば慣れるレベルです。
家柄も悪くないし、最強の軍を率いていました。
噂では嘆き悲しみ涙が止まらなかったようですが、彼女は立派な大人に成長していました。
親思いの立派な娘です。
私にそんなつもりはまったくありませんでしたが、彼女はこの結婚を受けなければ両親の命は救えないと考えたのでしょう。
「モンドール辺境伯が王に味方した理由がこれでわかった」とか囃し立てる者もいましたが密約があった訳ではありません。
彼女は辺境伯の子を何人も生みました。
役目を果たしてくれました。
***
そんな立派な女がいる一方で、泥棒猫のような女がいるのも世の中です。
王太子の一件が落ち着き、ようやく穏やかな時間が流れ始めた時、またしても事件が起こりました。
どうやら私が子育てに集中していたため陛下への心づかいが疎かになっていたようです。
反乱を企てたとはいえ実の子に厳しい処分を下さなければならなかった苦悩を、わかっていませんでした。
甘い言葉で近づいて来た女が陛下の心の隙に入り込みました。
そしてあろうことかお腹にお子まで出来てしまいました。
王都に居を構えて金などの貴金属を扱う商家の娘ですが、私も贔屓にしていましたから裏切られた気持ちでした。
その女の名前も思い出せません。
厄介なことです。
まだ我が子が2歳にもならない時でした。
子は健やかに成長していましたが、もし男の子が生まれれば少しばかりややこしいことになります。
私は思いました。
「なめたらいかんぜょ!」
女の感情としては当然です。
ただ、子の無邪気な顔を見ていて冷静さを取り戻しました。
責任の一旦は私にもありますから、複雑な感情を抑えて見守ることにしたのです。
やはり陛下を悩ませるのは本望ではありませんし、女の争いの醜さは感じていました。
「もし男の子が生まれたらその時はその時」と心を定めたのです。
するとしばらくして思いがけないことが起こりました。
なんと陛下が急死されたのです。
遠乗りの最中に突然落馬され、皆が慌てて駆け寄った時は、すでに心の臓が動きを止めていたそうです。
私は心の準備など何もしていませんでしたから、ただうろたえ嘆き悲しむばかり。
正直言えばこの後のことはあまり覚えていません。
しっかりとした記憶があるのは、半年後に我が子が王に即位したあたりからです。
本当に本当にまさかでした。
そんな訳で呆然自失の私に代わり事態の収拾に動いたのは父です。
毒殺の噂もあったようでいろいろ丹念に調べたそうですが、事件性はなしということだったとか。
健在だった王のお子(私の子を除いて皆さん女性)からはその結果に不満が出て、かなり緊張した場面もあったようですが、丁寧に説明してご理解頂いたと聞いています。
今お子たちは皆さん修道院でしあわせに暮らされています。
一方、陛下の子を宿していた女はいつの間にか姿を消していたそうです。
本人だけでなくその家族もろともいなくなったとか。
いったい何処に行ったのでしょう。
確かに私にはいろいろと悪い噂がありましたから、陛下の急死を知り自身の身に危険を感じたのかも知れません。
いくら泥棒猫でもさすがに相手は妊婦ですから、命を取るところまではしないのですが…
まして、逃亡を助けるふりをして家族全員を馬車に乗せ、国境付近で谷底に突き落とすなんてことなど、絶対にしません。
父によればその女は近しい人に「毒殺の証拠がある」と漏らしていたとか。
もう確かめようはありませんが。
予期せぬ出来事はさらに続きました。
この時期は本当に激動でした。
宰相としてまだ幼い王に代わり政治全般を取り仕切っていた私の父であるネフェルティ公爵が、第一線から身を引き引退しました。
ネフェルティ家の後継を巡り私と対立したため匙を投げたのです。
私としては王を支える意味でいずれは私が公爵家の後を継ぐべきと考えていましたが、父は違いました。
腹違いの弟(愛人の子)を考えていたのです。
最後は私が王の母の立場でわがままを通しました。
懺悔しなくてはいけない案件ですが、その時は我が家より国のことが大事でした。
もし弟なら王を支えるもう一方の柱である私の母の実家のエミニー家と距離が出来てしまいます。
貴族の特権をはく奪し弟には平民になって貰いました。
兄弟とはいえ腹違いは難しい問題です。
陛下と泥棒猫を繋いだのがあやつだったとの確証は以前から掴んでいましたがそれは関係ありません。
では、父の後の宰相は誰か。
いろいろ候補はいましたが皆が納得する人間はいませんでした。
私は嫌で断り続けましたが最後は説得されました。
女だてらに宰相となり王を補佐することになりました。
実質的には政治全般を動かすことになりますから責任も重く、のんびり王の成長を見守るという訳にはいきませんでした。
損な役回りです。
そんな星のもとに生まれてしまったのでしょう。
それから30年。
国のため幼い王のため一緒懸命働いて来ました。
幸いその後は大きな出来事はなく穏やかに過ごして来ました。
しかしそんな時間ももう終わりです。
***
神よ。
愚かなを私をお許しください。
離宮の周囲がいよいよ騒がしくなって来ました。
昔のことを思い出します。
今日ここを囲んでいる兵は5千というところでしょうか。
先ほど私宛に届いた贈り物は毒薬でした。
これを飲み干してすべてを終わりにしろとのメッセージでしょう。
それは簡単なことですが私らしくないような気もします。
他の者の命は助けると言われても素直に信じること出来ません。
やはり戦うという選択の方が性に合っているのでしょうか。
年を取った今も血が騒ぎます。
***
私と王の間に軋轢が生じたのはここ1年くらいです。
大人になった我が子はどんな騎士にも引けを取らない体格になりました。
私に似て容姿も整っていましたから、立派になったと密かに喜んでいました。
周囲の大人たちも「そろそろすべてを王におまかしになられては」と進言して来ました。
そんな状況を受け私が宰相の座を降りたのは2年前のことです。
国を動かす人間だけが感じる孤独の辛さはわかっていましたが、それもまた王の責務。
迷いを振り切って国を託しました。
それでも長く苦楽共にした重臣たちはことあるごとに意見を求めて来ました。
私も参考までにと私見を述べたりしましたが、どうやら王はそれを心よく思っていないようでした。
平民上がりの男爵を宰相に起用しょうとしたのを、重臣たちと協力し止めたりしたこともありました。
私たちの行き違いはそのあたりからです
自分で思い通りにしてみたい気持ちはわかりますが、変化を求め過ぎていたように見えました。
最近は私の私的な行動にまで文句を言い出しました。
王とその側近の言い分を要約すれば、私は贅沢しすぎるということのようです。
確かに人より美意識が高いせいか、何かと要求が厳しくその分お金がかかることは承知しています。
服一着仕立てるにも何度もやり直ししたりします。
華やかな意匠が好きなためどこにいても目立ってしまいますから、注目する人間も多く、いろいろと言われてしまいます。
また、余生を過ごす場所として先の王と暮らした思い出の離宮を改装しましたが、それが豪華すぎると意見する者もいました。
しかし、服にしろ宮殿にしろ王の威厳を見る者に伝える政治的な意味もありますから、贅沢を尽くすのが我が国王家の伝統でした。
そんな先人たちから受けついで来たことを「時代が違う」と彼等は問題視しました。
もちろん予想していなかった飢饉が発生したせいで民の暮らしが大変だったことはわかっています。
「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」
つい口をすべらしたりしましたから怒る気持ちも少しは理解出来ます。
これはしっかり懺悔しなければなりません。
私としては冗談のつもりだったのですが…
ただ民の暮らしを思うことは大切でも、度がすぎると天地が逆さまになってしまいます。
王の威厳がこの国の平和が守っていることを理解していない者が多いような気がします。
人を人とも思わぬ異教徒たちが攻めて来ないのは王に威厳があるからです。
モンドール辺境伯の娘を王妃に選んだのが失敗だったかも知れません。
母親に似て素直な優しい子に育っていましたから、いいと思ったのですが。
辺境伯の軍事力を常に味方にしておくという政治的な意味合いもありました。
ふたりは私の時のような婚約破棄などなく深く愛しあっています。
ところが、優しすぎるが故、王に民を守るように意見していると聞きます。
母親はすでに亡くなっていましたからあの件は関係ないのでしょうが…
父への配慮から平民にした弟を生かしておいたのもミスでした。
民を先導し各地の一揆を起こしているのはあやつです。
根の性格が私に似てなかなか執念深い上、貴族との繋がりも残っています。
モンドール辺境伯にもかわいがられていましたから、裏でいろいろ糸を引いているようです。
そんな状況はわかっていましたが、王自らが私に兵をあげるとは想像していませんでした。
油断でした。
血の繋がりを信頼しすぎていました。
耄碌しました。
王の了解を得ず一揆を先導した者たちを死刑にしたのがきっかけでした。
こればかりは譲れませんでした。
何事にもけじめは必要なのです。
王は激怒しました。
それはもちろん想定していましたが、いきなり兵を挙げる度胸があるとは思いませんでした。
モンドール辺境伯が、王妃でもある娘かわいさから、王に味方したことが背中を押したようです。
あの老いぼれは本当に恩知らずです。
***
待女が良い知らせを持ってきました。
援軍が王都に到達したようです。
私も決断しなければなりません。
毒を飲むのも悪くないと思っていた時もありましたが、援軍が間に合った訳ですから、神はまだ私に戦えとお導きのようです。
王だけならまだしもその背後にいる人間には思うところがあります。
持つべきものは古くからの友人です。
アンジー・ローランドは王立学校時代からの私の取り巻きです。
今はエミニー公爵家に入り現当主の母親になりました。
子爵家の生まれですから随分偉くなりました。
彼女が私の頼みを断れないのは当然です。
先の陛下が遠乗りに出かけられる直前に飲まれた紅茶を用意したのは、私とお茶会をしていた彼女です。
現エミニー公爵が軍を率いてやって来てくれました。
私の養子であるジョージ・ネフェルティもやって来ました。
同じく私の取り巻きだったレイア・マイヤーズの子ジョージを養子に迎い入れ、ネフェルティ家の当主にしたのは私です。
レイアは現役の女官長でもありますから、助けてくれるのはわかっていましたが。
今、私の隣で嬉しそうにしています。
もしもの時、彼女もまた私と一緒に毒を飲まないといけない立場です。
かって王太子の動きを監視して情報をもたらしてくれました。
今日もこの早さで王都に到着出来たのですから彼女の情報収集の力はさすがです。
あ、忘れてはいけません。
馬車を一台台無しにしてくれたこともありました。
特殊な工作でもいろいろ世話になっています。
兵力は合わせて3千程度でしょうか。
人数では劣りますが仕方ありません。
***
遠い昔のことも思い出されます。
私がこの世界に転生する前のことです。
歌舞伎町というキャバクラ激戦区でもう少しでナンバーワンに手が届くところだった私が、交通事故に巻き込まれたのが、すべての始まりでした。
死神がちょっと目を離した隙に起きた手違いでした。
本来死ぬはずだった人の隣を歩いていただけの私がとばっちりを受けた訳ですから、あってはならないことです。
決して美しい世界ではありませんでしたがようやく自身が輝ける世界を見つけたと思っていた時でした。
残る未練を振り払うため私は死神と交渉し、お金持ちの貴族令嬢に異世界転生させるという提案を引き出しました。
私は遊んだことのないゲームの中でしたが、華やかに思えましたので受けることにしました。
「公爵令嬢と子爵令嬢どちらがいい?」
そう問われ私は迷わず公爵を選びました。
そりゃ地位が高い方がいいに決まっています。
ちやほやしてくれる人がたくさんいましたから、新しい世界は毎日が楽しくて仕方ありませんでした。
学校時代に早くも取り巻きが出来ましたが、彼女たちへの対応はヘルプの女の子との付き合いで慣れていましたから、上手くやれました。
下働きの男たちには黒服にそうしていたようにまめにチップを配りました。
キャバ嬢のスキルを活かしていました。
そんな時降って湧いたのが「婚約破棄騒動」です。
その時初めて気づきました。
ヒロインは子爵令嬢でした。
私はハズレを引いていたのです。
欲張りな私に死神がお仕置きしようとしたのでしょうか。
いずれにしろショックでした。
「何でこの私があんな小娘の引き立て役をしないといけない訳…」
そう思いました。
やはりキャバ嬢の血が騒いだのでしょう。
王太子がほぼ完璧なビジュアルだったことも影響しました。
私から見ればお子ちゃまですが、眺めるにはちょうどいいと思っていました。
かわいさ余って憎さ…
切れた私は暴走しました。
ゲームの世界観すら粉砕し、行き着いた先が今日です。
少々やりすぎました。
自分ではわかりませんでしたが悪役としての才能には恵まれていたようです。
とんだ笑い話です。
まさかこの年になって我が子と戦うことになるとは思いませんでした。
精神的にも軍事的にも厳しい戦いになるのは間違いないでしょう。
でもここまでくれば行くところまで行くしかありません。
もう時間のようです。
心は定まりました。
迷いが消え清々し気持ちです。
援軍の到達を知った王軍が、平野での決戦に備えて、離宮の兵をそちらに移動をさせています。
私も急ぎ我が軍に合流しなければなりません。
神よ。
愚かな私をお許しください。
キャバ嬢としての人生はまっとう出来ませんでしたが悪役令嬢としては完璧な人生になりそうです。
では、そろそろ最後の戦いを始めるとしましょう。