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2.自由

「どうかした?」

 彼の問いかけにハッと我に返る。私は力なく首を横に振った。

(今日も捕まった)

 そう思いながら彼に手を握られ家路につく。夜中急に部屋を出て行った彼。今日のゲームは夜中に始まった。私は半分義務のように部屋を出て街を彷徨い行くところもなく橋の上に佇んでいたのだ。彼のゲームには必ず付き合わなければならない。あの部屋での彼は絶対君主なのだから。

「涼子、ご覧、きれいな朝日だ」

 言われて顔を上げる。暗闇に慣れた目に朝日が眩しい。目を細めて見つめていると鳥が数羽飛んでいくのが見えた。

(私にも翼があれば飛んでいけるのに)

 そんなことを考えながら鳥を見ていて私はふとあることに気付いた。

(飛べるじゃない。私だって飛べるわ)

 どうして今まで気づかなかったのだろう。

(《《ベランダには外から鍵がかけられない》》)

 私の心は喜びに溢れた。私は自由だ。これで彼から逃げられる。でも、と思った。

(彼から逃げる……ううん、違うわ、今度は私が彼を(とら)えるの)

「あなたはいつも私を見つけてくれるのね」

 そう言うと彼は嬉しそうに頷いた。

「あぁ、もちろんさ。君のいるところは僕のいるところ。僕のいるところは君のいるところだからね」

 私はしばしの沈黙の後彼に言う。

「そう。たとえ私がどこにいてもきっと迎えにきてね。きっとよ」

「君がそんなことを言うなんて珍しいね。やっと僕の愛情を理解してくれたようだ。行くさ。どこへでも」

「ありがとう。迎えに来てくれなかったら私から迎えに行くわ」

 ニヤニヤしながら私の手を強く握る彼をちらりと見て私は心の中で嘲笑った。そして聞き取れないほどのかすかな声で鼻歌を歌う。

「おや、鼻歌かい? 今日はやけに機嫌がいいじゃないか。よく聞き取れなかったけど何の曲だい?」

 私は心の中で呟いた。

――葬送行進曲よ。

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