不愉快な夢
「申し訳ありません!」
ことが終わった後、冒険者全員を集めたアインは開口一番にそう言って頭を下げた。
「頭をあげてください、アイン様!」
「ですが……」
「護衛依頼なのです、なにも襲ってくるのがモンスターだけとは限りません。アイン様が謝りになる必要などありません」
「リオさん……」
まァ、その通りだな。これに文句つける冒険者はいねェだろうよ。
「んでェ、さっきのヤツらはどうするんだ?」
「……私の従者が手にかけますので」
尋問はナシってことは、相手がハッキリしてんのか。
「残念でしたね、若。尋問大好きなのに」
「言ったことねェよ、そんなこと」
「そうでしたか? 若の尋問を受けたものは、簡単に情報を吐くので手慣れているものと」
「手慣れてもいねェよ。尋問のやり方が、他のヤツとは違うだけだ」
むしろ面倒だから嫌いだ、尋問は。
「この襲撃で時間を取られましたので、今日はここら辺で夜を明かそうと思います。……よろしいですか、ラグナ様?」
「構わん」
「ラグナ! 構わんではない!」
「なんだよ、だって聞かれたんだもん」
「もん、ではない! 少しは敬意を払え!」
そう言われてもなァ。俺は俺だし。
「若、私たちは馬車へ戻りましょう」
「そうだな、リオも来い」
「はぁ!?」
「……若?」
「もう俺のクランメンバーだ。黙って共に来い」
「……なにか、いかがわしいことをする気か……?」
「心配するな。今は気が乗らない」
「心配だ……」
俺がそんな節操なしに見えているんだとしたら、それは問題だな。教育が必要かもしれん。
「リオさん……あまり調子に乗らないでくださいね……」
「え……」
「なにやってんだ、はやく乗るぞ」
「はい……若」
「なぜ私が……?」
ベルベットとリオを伴って馬車に乗り込む。
そしてすぐにベルベットに膝枕をしてもらう。これは絶対に必要だ。
「……ラグナ、一つ聞いていいか?」
「アァ?」
「どうして私をクランへ誘ったんだ?」
「美人だから」
「……それだけか」
「それだけ」
「リオさん、若が一目でここまで気に入るのは珍しいことです。良かったですね?」
「……いや、嬉しくないのだが。というより、なぜラグナはクランを?」
「楽したいから」
「まさか……自分が仕事をしない為にクランを作ったのか……?」
大事なことだろうが……。俺が楽するってのは。
「ちなみに、リオさんが一人目です」
「え……。そのベルベットさんは?」
「私は秘書ですので」
「今から増やしていく予定だ。……そうだな、百人は揃えるつもりだ」
「若、管理が面倒になりますよ?」
「……どれぐらいがベストだ?」
「そうですね……少数精鋭で六人から十人、でしょうか」
六人から十人か……。多いほうが楽させてくれるよな?
「じゃあ十人だ!」
「だそうなので、リオさんも良さそうな人がいればお声がけを」
「……やはり今からでも」
「リオさん……まさかやめるとか、言いませんよね」
「リオ……やめるわけないよなァ?」
「……手遅れか」
そう言ってうなだれるリオ。安心しろ、きっちりとこき使ってやる。
「それよりも問題なのは、今日の夜メシをどうするかだ。ベルベットおすすめは?」
「私は夜飯に負けるのか……」
「アイテムボックスに入ってる中だと……マスカルベアのお肉でどうでしょう?」
「ならそれだ」
「では一時間ほどしましたら、調理に取り掛かります。それまで睡眠をとりますか?」
「そうする」
「ではリオさんは、私とクランの話を詰めましょうか」
「あぁ、分かった」
そうやって二人の会話を聞きながら、眠りに落ちる。
……夢だ。
ハッキリと分かる。
「ラグナ、私ね……」
コイツはもういない。とっくにいないが、今でも大事な存在。
「分かっているのか! 自分がどれほど愚かしいことをしているのか!」
コイツはもう潰した。叫ぶことしか能がないヤツだったから、簡単に潰せた。なにが愚かだ。誰がそれを決める……?
「貴方の行いには正しさがない……」
ふざけんな、正しさなんて自分が決めるモンだ。上が決めた正しさはそいつらの正しさでしかねェ!
「オマエは! なにを考えているんだ!」
決まってんだろ、自分のことだよ。
常に俺は俺のことだけを考えて生きてる。この世界で自分以外のことを考えてるヤツは呆気なく死ぬんだ。
俺は俺だ。
誰の指図も受けない。
どんな正しさも信じない。
俺のこの生き方こそが、俺にとっての正しさだ……!
夢はもう終わる。
なんだ、いつもよりずっと短くて……。
「若……?」
目を開けると、ベルベットが俺を心配そうに覗き込んでいた。
馬車内を見るとリオの姿がない。
「ベルベット……リオは?」
「先に調理の準備をしに、外へ」
もうそんなに経ったのか……。
「……よし、俺たちもいくぞ」
そう言って立ち上がろうとした俺を、ベルベットが引き留める。
「若……うなされていました」
「不愉快な夢を見ただけだ……さっさと行くぞ」
ベルベットを引きはがし、立ち上がる。さっさと降りよう、ハラが減った。
「少しは頼ってくださいね……若」
やはり最近のベルベットは俺に対して敬意が薄い。俺が誰かに頼るなど、あるわけがない……。