2・5話 ラグナというSランク冒険者
リオ視点です。
短めです。
「ひぃ……お、おい! はやくたすけろぉ!」
伯爵家の次男がモンスターから逃げまどっている。
臨時パーティーとして顔を合わせたときから不安を感じてはいたが、こいつも私と同じBランクだ。
少しは戦えるだろうと思っていたが……。
「一応は冒険者だろう! なぜ戦わない!」
「僕は戦ったことないんだよぉ!」
やはり金で成り上がってきたクチか……。
「くっ! 下種が!」
情けなく地面を這いずりながら逃げる奴に、思わず悪態をつく。
そんなことをしても、襲ってくるモンスターの数が減るわけでもあるまいに……。
「キリがない!」
斬っても、斬っても襲い掛かってくるモンスター。
そして目の前に現れたオーク。
厄介な、オークは尋常じゃないタフさを誇る。こいつに時間を取られているわけには……。
「よぉ……」
そう声が聞こえると同時に、目の前のオークは九の字になりながら、吹っ飛んでいった。
普通はありえない光景を引き起こした張本人、ラグナはなんてことなさそうな顔で私を見ている。
「ラグナ、どこへ行っていた!」
「あっちの方に、男が八人ほど寝てっから回収よろしく」
「はぁ!? なんだそれは!」
「詳しくは後から、雇い主が説明してくれるだろうよ」
「そういうことか!」
なるほど、このモンスターの襲撃は人的に仕組まれていたということだな!
「ここはやっとくから」
「任せた」
そう言ってその場から離れ、ラグナの指差した方へと向かう。
「……オークを蹴り一つで……同じ人間とは思えん」
私が同じことをすれば、まったくダメージも与えられずに反撃されておわりだろう。
いったい、どういう身体の作りをしているのだ。
しばらく走っていると、完全に気を失って倒れている男たちの姿が見える。
「あいつらか……公爵の娘を狙うなど、大それたことを」
倒れている男たちの場所へたどり着き、その姿をよく見てみる。
全員、まだ若そうな男だ。
「おい、嬢ちゃん……Sランクの奴に言われてきたが、そいつらか?」
そうやって男たちを見ていると、後ろから別の冒険者の男がやってきた。どうやら私と同じで、ラグナに言われてきたらしい。
「そうみたいだな」
「おー、基本的に一撃ってとこかぁ……さっきもゴブリンを蹴りで仕留めてたがありゃ、化物だな」
そうなのだ。
男たちには、だいたい一か所しか傷跡が見えない。
モンスターを蹴り飛ばすラグナの一撃を受けたとなると、手加減はされていただろうが相当なダメージだろう。
「Sランクは皆、あのような感じなのだろうか……」
「いやぁ……。一度だけ、別のSランクを見たことがあるが、ちゃんと武装してたぜ」
ラグナは明らかに私服で、武器のひとつも身に着けていない……。
最初見たときは、Sランクとはいえあまりに舐めていると思っていたが、逆だったな。
私の方がSランクの強さを過大評価だと思っていた。
同じ人間なのだ、そこまで大きな差はないだろうと。
「嬢ちゃん、さっきクランに誘われてたろ? 大変だなぁ」
「あぁ……」
そうだ……。
なぜあそこまでの強者がクランを作ろうとする?
私のようなものを勧誘する?
くだらない理由な気がする……。