明日に備えて
夜、スノーレイン一家には子供たちの姿はなかった。
そのことにスノーレインは不安になっていた。
スノーレイン「…おそい、もう8時なのに帰ってこないなんて…」
サンレイン「めずらしいね、ぼくが帰ってきても誰もいないって。
フェイ、何かきいてない?」
フェイ「…このまえギルドに新人が入るって話してましたよね?
その子と何か関係があるのでは?」
スノーレイン「うーん…」
そのとき、ウェザーの家のドアを叩く音がした。
スノーレインがドアを開けるとアマテラスがいた。
アマテラス「こんばんはー!」
スノーレイン「あら、アマテラス!こんばんは。どうしたの?」
アマテラス「遅くなってごめんねおばさん、今日はみんなで
アジトでお泊り会することになったの!」
スノーレイン「もしかして…アルデバラン?」
アマテラス「正解!クローバーのお家は今日から
ウチのギルドのアジトになったから
みんなでお泊りすることになった!」
純粋な目で語るアマテラスをみて
スノーレインはまたか…と困ったような顔を
しつつ、悟った。
スノーレイン「…まあ、大体の予想はつく。
あなたは昔からそういう子だから…」
アマテラス「…?ごめんね?」
スノーレイン「いいのいいの、とにかく
みんな無事ならそれでいいわ。で、
明日はちゃんと帰ってくるの?」
アマテラス「えーっとね、明日はクローバーと
ミスティが恋歌のギルドに遊びにいくの。夜に!」
スノーレイン「恋歌に!?…大丈夫なんでしょうね?
あの人外だらけのギルドにミスティがいくなんて
不安でしかないのだけど…」
アマテラス「んー…でもおばさんすごくつよい
悪魔たちや神様と仲良くしてるのに自分の子供が妖怪と仲良くするのを
批判するのはおかしいと思うよ?」
スノーレイン「うっ…痛いところをついてくるわね。
だからギルドマスターをやってるんだろうけど…」
アマテラス「だめ?」
スノーレイン「だめじゃないけど、明日はちゃんと
帰ってきなさいって伝えといて」
アマテラス「ありがとう!じゃあ、おやすみー!」
スノーレイン「うん、おやすみ」
そういってアマテラスはドアを閉め、アジトへ戻っていった。
フェイ「聞きましたよ、ミスティが恋歌にいくって」
スノーレイン「去年の試合をみた自分としては、
あんまり関わってほしくないわね…」
サンレイン「気持ちはわかるけどアマテラスの
言い分にも一理あるかな。ぼくらって悪魔や神とつながってるからねえ」
フェイ「大丈夫だと思いますよ、恋歌の方々は種族こそ
人間ではないですが、性格はまともな連中が多いかと。
それよりテーブルに並んでるごはん、冷めないうちに
食べちゃいましょう。」
サンレイン「だな、ぼくたちはぼくたちで久しぶりに
お酒でも飲もうか」
スノーレイン「あら、いいわね!あの子たちの前だと
オレたちも飲ませろーってうるさいからずっと禁酒してたもんね」
フェイ「おふたりともほどほどにしてくださいよ…
サンレイン様は明日もお仕事ありますし、スノーレイン様は
呪気の修行があるんですから…」
スノーレイン「大丈夫よフェイ、それより貯蔵庫にある
ワインをあけましょ♪」
フェイ「ノリノリですね…」
スノーレイン「こないだ三代目様がもってきてくれた
ワインが味も香りもいいのよ!アレで焼いたお肉が
またおいしいことおいしいこと…」
フェイはやれやれと思いつつもグラスにワインを注いだ。
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一方こちらはアルデバラン邸こと虹の神楽のアジト。
調理場にはストーム、アミル、クローバーの三人が
料理をしていた。
クローバー「アミルは当然として、ストームが
料理できるってちょっと意外ですね」
ストーム「ブラストもミスティもアリアも
全部強火で焼いて毎回焦がすから…」
アミル「兄弟、姉妹でも得手不得手がありますし」
クローバー「リルフは料理しないんです?」
ストーム「あのごつごつした手だと
細かい作業が苦手なんだ…リルフのお母さんは裁縫とか得意なんだけど、
リルフは小さい頃ペンを握るのも苦労したってきいた…」
クローバー「はー…たしかに文字を書くのも大変そうですね」
ストーム「いや…握力が強すぎてすぐペンが折れるって…
最初は文字を1ページ書くのに20本はペンが壊れたっていってた…」
クローバー「…それはなんていうか、贅沢な悩みですね」
アミル「贅沢?」
クローバー「生まれつきの強靭な肉体が羨ましいなーって」
アミル「ふふ、何か誤解してるみたいねクローバーは♪」
クローバー「え?」
ストーム「最初から強くても、才能があったとしても
それを伸ばす努力をしないと弱いままだよ。剣術だって
呪気だって、鍛えなきゃ中途半端な強さで終わる。
能力だってそう、応用できなきゃ宝の持ち腐れだよ…」
クローバー「…私はてっきり、ここのギルドの人達は
最初から強いのだと思い込んでました。でもそれは
ちがうんですね…」
アミル「その気持ちわからなくはないわよ?
私もアリアに一時期劣等感を抱いてた頃あったし、
アマテラスはバカみたいに強くなるし…
呪気使いの3兄妹はいわずもがな。
私が力で勝てないことは明らか、だから
みんなより沢山本を読んだ…情報を集めた。
勉強して賢くなることでみんなより何か
ひとつでも優位に立ちたかった…でも、
いまとなってはそれもどうなのかしらね?」
クローバー「アミル…」
アミル「手、止まってるわよ。焦げるからひっくり返さないと」
クローバー「あっ!」
慌ててクローバーがお肉をひっくり返す。
アミル「諦めがついたのは私自身の能力が
戦闘向きじゃなかったことね。ハズレじゃないけど
補助特化なのがね…」
クローバー「どんな能力なんです?」
アミル「それはまだ秘密。」
クローバー「そんなあ…」
アミル「そうね…クローバーが鉄を切れるくらい
強くなったら教えてあげてもいいわよ?
ちなみに私の能力はギルドメンバーのだれも知らない。
マスターであるアマテラスもね」
クローバー「いいんですか、隠してて?」
ストーム「能力はばれると対処されるから
普通は秘密にしておくんだよ…最も、攻撃特化の能力ならばれても
対処できないこともあるけどね…」
クローバー「能力か…いいな。私もそういうの欲しいな…」
ストーム「クローバーは能力よりまず剣術を極めないとね…」
クローバー「う…それなんですが…」
ストーム「どうしたの…?」
クローバー「歴代のアルデバランの者でも鉄を
斬ったなんてきいたことないんです。本当に剣で
鉄は斬れるんですか?」
ストーム「…これ、借りるよ…」
ストームが包丁を手にとる。その様子を
だまってアミルがみている。
クローバー「何を…」
ストーム「見てて…」
ストームが呪気をこめて包丁を人差し指の先で
素早く縦にふりおろす。すると刃が
ポロリと音を立てて落ちた。
クローバー「バ、バカな…指で鉄を斬った!?
いや、昨日リルフがいってたようにみんな素手で…」
アミル「まーこれくらいの芸当なら私でもできるけどね。
いうなら、これは強者への第一歩、入口ってとこかしら」
呆然とたちつくしているクローバーにストームが声をかける。
ストーム「大丈夫だよ、クローバー…
腕力とか、技術とか、そういうの考えずに
がんばれば自然と鉄を斬れる剣士になってるよ。
そして鉄より硬く強い者だって斬れる剣士になれる。
その時は斬撃も飛ばせるようになるよ…」
クローバー「斬撃が…とぶ…?」
クローバーにとってこの斬撃が飛ぶということが
理解できなかった。幼少期から剣を握り、木や竹、
石を斬ってきたクローバーだが、斬れた物は刃に触れた物だけだった。
不可能なこと、出来ないことだという思い込みが
クローバーの邪魔をしていた。
眉間にしわを寄せて考えるクローバーにアミルが声をかける。
アミル「そう難しく考えることはないわよ。
アマテラスもクローバーの成長性を見込んで
ウチのギルドにメンバーとして迎え入れたのだから」
ストーム「そうそう、ボクらはクローバーが
強くなれることを信じてるから…」
ふたりに励まされて思わず笑みがこぼれる
クローバー「ありがとうございます!」
ストーム「こっち魚の煮つけできたけど、アミルはどう?」
アミル「ばっちりよ。スープも仕上がったし、
クローバーの焼いたお肉も出来上がったし、
食堂へもっていきましょう!」
クローバー「はい!」
クローバー(…何年振りだろう、誰かと一緒にご飯を食べるなんて)
ブラスト「遅いぞ新人!オレもう腹へってしょうがないぜ…」
アリア「ごはんごはーん!早くくわせろー!」
クローバー「いまみんなの分を配膳してますからちょっとまってください!」
リルフ「手伝おうか、クローバー?」
クローバー「あ、じゃあナイフとフォーク、それから
スプーンの用意をしてもらえますか?」
リルフ「わかった」
丁度みんなが食べようとしたとき、アマテラスも帰ってきた。
アマテラス「ただいまー!」
ミスティ「お帰り!ごめんねアマテラス、伝言まかせちゃって」
アマテラス「いいよいいよー、でもお母さんとても
心配してたし、明日は絶対帰ってこいって言ってたよ!」
ブラスト「はあー…母ちゃんも心配性だなあ。いつまでもガキじゃねえってのに…」
リルフ「おまえらは出生がオレたちとは少しちがうからな…
母親が心配するのも無理はない。」
ブラスト「あーそれ昔きいたことあるぜ?
オレとストームと父ちゃんは本来死んでるってな」
ストーム「子供の頃占い師のお姉ちゃんに
言われたことがある。ボクとブラストの
未来が見えないって…」
クローバー(…話しについていけない…
本来死んでる?じゃあなぜいま生きてる?そういえば
明日会うのは妖怪とか神のいるギルドなんだっけ?じゃあ、生き返るとかもアリ?
…ダメだ、わからない。)
リルフ「そうか…ところでアリアとアミルは家に帰らなくていいのか?
親は心配しないのか?」
アリア「全然大丈夫!」
アミル「マ…母さんの子供って私たちだけじゃないし
定期的に母さんの息子や孫が会いにくるから
いうほど子煩悩じゃないのよ」
クローバー(アミルって普段はママっていってるんだ…
冷静で知的なお姉さんかと思ってたけどそういうところもあるんだ)
ミスティ「リルフはどうなのよ?あんたここ最近
家に帰ってないじゃない。」
リルフ「…親がうっとおしいんだよ。オレは一人っ子だから
家にいると四六時中親がかまってきてな…」
クローバー「…アマテラスさんは親が心配しないんですか?」
アマテラス「あははー♪ウチの親はそういう
心配しないから平気平気!でも去年の
ギルド同士の試合には見に来てくれて、応援してたよ。」
クローバー「へえー…」
クローバー(親か…あんまりいい思い出がないな…
両親がいなくなってから召使いもいなくなったし…
こんなふうにウチが賑やかになるのは本当に久しぶりだな)
ブラスト「おい新人!あとで枕投げしよーぜ!」
クローバー「ダメです。ちゃんと歯磨いて寝てください」
ブラスト「むー新人のくせに生意気だぞ!」
クローバー「ここは私の家です」
ブラスト「オレらのアジトでもあるんだぜ!?」
ブラストとクローバーがにらみ合う。どうも馬が合わないようだ…
クローバー「いっときますけど、ブラスト。私とあなたとの間に
上下関係はありません。平等です。」
ブラスト「なにい!?霊気もみえねえ雑魚のくせに
よくそんなこといえるなおい!」
クローバー「強さは関係ないはずです。」
ブラスト「あのな…おまえがウチのギルドに入れたのは…」
それを遮るようにアマテラスが話す
アマテラス「ねーアミル!明日の予定をみんなに教えてよ!」
アミル「ミスティとクローバーが恋歌へ遊びに行きますね。
リルフは私と書類整理と来客応対、ブラストとアリアは行方不明の
子供の聞き込み調査。ストームは…」
ストーム「ボクも行こうか?恋歌…クローバーが嫌じゃなければ…」
クローバー「そんな、嫌じゃないですよ。一緒に行きましょう!」
アマテラス「じゃあストームとミスティはクローバーを連れて
恋歌のアジトに行ってね。訪問することは明日の朝に
アミルが伝えにいっといて♪」
アミル「はあ、まあ…別に構いませんが、多分
夜にきてくれって返事がきますよ?あそこのギルドマスターは
朝と昼が苦手ですから…」
クローバー(朝と昼が苦手?吸血鬼?)
ミスティ「クローバーったらずいぶん考えてるようだけど
会えばわかるわよ。ここで誰がどんな奴かいうより
本人たちと直接会って話したほうがいい経験になるよ」
クローバー「そうですね…そうします」
アミル(うーん、やっぱサブマスターは必要かな。
立場的には私かリルフのどっちかかー…)
こうして虹の神楽のメンバーによる食事会は終わり、
各メンバーは空いた部屋にそれぞれ入っていった。




