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●《最強の魔銃使い》

《魔銃使い》と呼ばれる異能力者達が集う学園で働く、おっさんの物語です。

よろしくお願いいたします。


《魔銃使い》。


 強力な外装を持ち、あらゆる兵器でも傷を付けることの困難な、人間を害するモンスター達。


 人々そのモンスター達に抗う術を持たず、ただ侵略され、蹂躙されるだけのはずだった。


 だが人類の中から、《魔薬》と呼ばれる力を体内で生成でき――その《魔薬》を練り上げ《魔弾》を生み出す、モンスターに対抗できる攻撃能力を持つ、特殊な人間達が現れた。


 それが、《魔銃使い》。


 そして、その《魔銃使い》達の歴史の中に――一人、『最強の魔銃使い』と呼ばれる男がいた。


 その男が如何に最強であるのか……それは、たった一言の言葉で説明がつく。


〝一撃必殺〟。


 そのままの意味だ。


 一発である。


 一撃である。


 たった一発、たった一撃の《魔弾》で、あらゆるモンスターを殺してきた。


 べへモス、サイクロプス、フェンリル……伝説の中で語られる、規格外のモンスター達。その全てを、彼は討って来た。


 一発で、一撃で、屠ってみせてきた。


 そして、かの有名な〝邪竜殺し〟。


 記録上、最も多くの人間を殺し、史上最悪の被害を人間に齎してきた――殺戮災害、イビル・ドラゴン。


 そのイビル・ドラゴンですら、『最強の魔銃使い』は〝一撃必殺〟の名の下に抹殺した。


 しかし、その戦いで〝深い傷〟を負った彼は、療養のため故郷に帰り、一時戦線から離脱しているのだと言う。


 そして彼は現在――。




   ●●●●●●●●●●




「おじさーん、B定食ちょうだーい」


「あたしはC定食」


「あたしもー」



 国立グレイス学園。


 依然、世界で猛威を振るうモンスター達への対抗手段――《魔銃使い》を育成するこの学園では、今日も10代の若者達が己の才能を磨いている。


 時は昼食時。


 この学園の敷地内にいくつか存在する食堂……所謂、学食の一つも、昼飯時特有の忙しさを見せていた。



「お、また来たのか。ほらよ、B定食にC定食2つだ」



 女子生3人が陣取った食堂のテーブルの一つに、一人の男がトレイを3つ持っていく。


 そこまで歳は食っていない外見だが、女学生達から見たら十分『おじさん』と呼ばれる年齢の男である。


 清潔に切り揃えた黒髪。


 端正とまではいかないが、決して不細工ではない顔立ち。


 その左目は、黒い眼帯で覆っている。



「おー、早ーい。さすがー」


「お前等、よくうちの食堂に来てくれるよな」



 男は、テーブルの上にトレイを並べながら学生達に話しかける。



「お前等みたいな女子生徒は、ほら、この前改装したあのオシャレなカフェみたいなところとか、ああいうのの方が好みなんじゃないのか? もしかしてあれか? うちの味の方が美味いのか?」


「ん~……普通」


「味は普通だね」



 どこか期待したように問い掛けた男に、女子生徒達はニマニマと笑いながらそう言った。


 普通――と評された言葉に、男は微妙な表情を作る。



「でも、なんか素朴っていうか、家庭の味っていうの? おじさんの料理ってそんな感じで、なんかまた食べたくなっちゃうんだよね」


「クセになるよね。高級感は無いけど」


「マニア受けする味なんじゃない?」


「そ……そうか」



 女子生徒達の褒めているのか褒めていないのか、よくわからないお褒めの言葉をもらい、彼はとりあえず微笑を浮かべた。



「おじさーん、こっちも早く注文とってよー」


「おー、悪い悪い、今行くよ」



 彼の名は、アドレス。


 この国立グレイス学園の食堂の一つを切り盛りする調理師……所謂、『学食のおじさん』である。




   ●●●●●●●●●●




「ふー……疲れた」



 ランチタイムが終了し、学生達は午後の講義へと向かって行った。


 空になった食堂で――アドレスはコーヒーを淹れている。


 焙煎されたコーヒー豆を砕き、ドリップ。


 厨房の中に、苦みと渋みの混じった匂いが漂う。



「~~♪」



 アドレスは、鼻歌混じりに厨房を出て、テーブルの一つに腰掛ける。


 そして肩を揉みほぐしながら、今し方淹れたばかりのコーヒーが注がれたカップを、口元へと運び――。



「アドレスさん」



 飲もうとした直前で、いきなり背後から声を掛けられ、アドレスは驚きのあまりコーヒーを膝に零してしまった。



「あッッッッッッつぅ!」


「今日のお仕事は、もう終わりのようね?」



 飛び跳ねるアドレスの、そんな様子など意に介さず、彼に声を掛けた人物は言葉を続ける。


 艶やかな黒髪のストレート。


 我の強さを表したかのような釣り目。


 学園の制服を纏い、すらりと伸びる脚がスカートの下から伸びる。


 凛然とした雰囲気を漂わせる佇まいの彼女は、その長い髪をさらりと持ち上げながら、膝に零したコーヒーを必死で拭うアドレスに言う。



「では約束通り、この後は私に付き合ってくれるわね」


「……いや、約束した覚えなんてないんだが」



 面倒そうに呟くアドレスを、女生徒はジトォ……と、怨みの籠った目で見る。



「たとえ、あなたが了承しなくても、従ってもらうわよ。《決闘》は、この学園内で定められた唯一無二、絶対のルール。そのルールに例外は無い。生徒でも、教師でも……学食の調理師でも」



 ぴっ、と、彼女の指先が勢いよくアドレスに向けられた。



「今日こそ、はっきりとさせてもらうわ。あなたが本物の、伝説に語られる〝最強〟……〝一撃必殺〟の《魔銃使い》であるのかを」




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