小説の神様
とうとうこの日が来ましたね。
高い高い空の上、空気が澄み切った雲の森の中に小説の神様が住んでいました。
神様は下界を見下ろして呟きます。
「ほう、なかなか面白いことを考える奴がおるわい。」
青く深いナロウ海がこの惑星の表面を覆っています。どこまでも広がる海の真ん中にヤシの木に囲まれた小さな島が浮かんでいました。
その島でアキノーという娘がペンを片手に空を仰いで祈っていました。
「小説の神様っ、ああどうか私にお話しの種を降らしてくださいな。」
そんな娘の姿をトゥモロー村長がヤシの木の陰からこっそり覗いていました。
「頑張って、アキノー。8月10日のお祭りの日まではまだ間があるよ。僕はコメディーを書くことにしたんだ。サイトーはもう小説を書き上げたって言ってたけど、そんなに焦ることはないよ。サヤキは試験勉強をしているからまだ書いていないだろうしね。」
そこに小学生のカーズカズが走ってやって来ました。
「トゥモロー村長、船が来たよっ。船長さんは新しい本棚を買って来てくれたかなぁ。」
カーズカズの顔はワクワクと輝いています。トゥモローはカーズカズの頭を撫でながら頷きました。
「サラーサ船長はいつも少し早めに話を書き始めるんだ。そんな船長が今年の本棚の設置を忘れることはないだろう。僕が考えたこの『企画』に真剣に取り組んでくれてるみたいだしな。」
トゥモローとカーズカズは港に向かって歩いて行きました。小高い丘の上から港を眺めると、青い海を背景に大きな白い船が島に向かってゆっくりと近づいて来るのがわかります。カモメたちが久しぶりの船を歓迎するかのように舞っています。島の東の岬を廻ってイルカ達も泳いできました。
「ほらっ、イルカも来たよ!」
「そうだな。あいつらは好奇心旺盛だから・・。」
ボォーーーー。
汽笛が島中にこだまします。
島の人たちが船が来たことを知って家の中から出てきました。
「さあ、僕たちも行こうか。」
「うんっ。」
トゥモローとカーズカズは港への坂道を足早に降りて行きました。港の広場には学校の先生をしているツバサも来ていました。
「アオヤマ先生、こんにちは!」
「こんにちは、カーズカズ。トモロー村長も一緒だったんですね。アキノーさんはまだ悩んでいるんですか?」
「ええ。普段とは書き方が違うのがネックになっているようです。時間を決めて本棚に一斉転移送信というのが難しいらしいです。小説の神様に祈っていましたよ。」
「ハハッ、アキノーさんらしいですな。私は柄にもなく恋愛小説に挑戦してみましたよ。新境地を開拓したくてね。」
「でもアオヤマ先生は歴史小説の中に恋愛色も差し込まれているじゃないですか。きっとらぶらぶなお話が読めるのではないですか?」
トモロー村長がニヤリと笑うと、カーズカズが不思議そうな顔をします。
「ねぇ、らぶらぶって何?」
「うっ、ゴホンッ。カーズカズも大人になったらわかるよ。」
「ふうーん。僕は血がどばぁーって出て来るようなサスペンスが好きだな。でも「夏・祭り」だからどうしようかなぁ。なんかトリックを使ってみる?」
「君はそういうショートショートが得意だからね。私も読むのを楽しみにしてるよ。」
「サンキュー、先生。頑張りまーす。」
港に船が接岸されると渡されたタラップから大勢の人が降りてきました。
船の後ろの方では、コンテナーに詰め込まれた荷物がクレーンを使ってゆっくりと降ろされていきます。
乗客が全員上陸した後に、サラーサ船長がノートパソコンを持って船から降りてきました。
「皆さんお集まりですね。トゥモロー村長、お久しぶりです。この度は面白い企画を考えて下さってありがとうございます。私は張り切って書いたので、長編の話になりそうなんですよ。」
「船長、それは楽しみですね。村の皆さんもいろいろと工夫を凝らされているようです。」
「ピノコさんも参加されると仰ってました。私はあの方のファンなので楽しみです。」
「ほう、そうですか。私もナロウ乙女ゲームを読ませて頂きましたよ。あれは、面白かったですな。爽やかに裏切られました。」
皆で話をしながら島に一つだけある宿の食堂に入って行きました。
「やぁ、皆さんお揃いで。サラーサ船長、お久しぶりです。」
宿屋の主人が奥から出てきました。
「こんにちは。今回もお世話になりますよ。ご主人、お茶を一杯いただけますか?」
「サイトーさん、僕たちみんなの分も頼みます。」
トゥモロー船長がそう言うと、サイトーはわかっていると頷いて黙って厨房の中へ入って行きました。
そこにアキノーが走って駆けこんできました。
「村長っ、やっと書けましたよ。ゆかこさんの続きと山の話、そしてこの島の話を書き上げました。」
「えっ、三本も書いたのですか?」
トゥモロー村長が驚きます。
「ええ。短いものばかりですけどね。」
「アキノーは、書くのが早いなぁ。僕はここの所出かけてたから、これからだよ。」
カーズカズも目を丸くしてアキノーを見ました。
サイトーが全員の麦茶を持って来ました。
「トゥモロー村長、私は公募に出す小説を紛失してしまったんですよ。」
「わぁ、それは大事じゃないですかっ。」
「ええ、だいぶ落ち込みました。それで、夏・祭り用の物を一旦そちらに回して、バイクと幽霊の話を本棚に転送したのですが・・。」
「それはいいですよ。サイトーさんのあの話は面白いですからね。」
「本棚って言えば、サラーサ船長はちゃんと買って来てくれたんでしょう?」
「大丈夫だよカーズカズ。思ったよりも参加者が多くなりそうだったから、余裕をもって買ってきました。もう村の公民館に設置してくれていると思います。」
「やったぁー。」
「船長、お世話になりました。」
「いえいえ。最初、私の話が長くなりそうだったから場を取りそうだと思って大き目の本棚を用意したんです。でも結局その話はボツにしました。二万字書いたんだけど、どうもそこから筆が乗らなくなって・・。今回は書き直した七千字の物を投稿します。私には珍しい現代・恋愛ものなんですよ。」
船長はそう言ってワハハハと笑いました。
みんなの話す様子を聞いていたのか、食堂の奥に座っていたサヤキが立ち上がってこちらのテーブルにやってきました。学生鞄を右手に持っています。
「こんにちは。」
「あら、サヤキさん。こちらに来ていたのね。もう学校の試験は終わったの?」
「ええ。アキノーさんの家にも寄ったんですが執筆中のようだったので声を書けませんでした。」
「まあ、気が付かなくてごめんなさい。いつもすぐにサヤキさんが読んでくれるから、書きがいがあるのよ。今回は皆で一斉に読むことになるみたいだけどね。」
「そうですね。でも楽しみです。サラーサ船長のお話を聞いて、私もトゥモロー村長にお伝えしとこうと思って・・・。なんとか間に合って書けそうです、村長。」
「それは良かった。皆さんのご協力に感謝します。ここにいらっしゃる方々だけじゃなくて、島の多くの人たちが参加してくださるみたいです。よい夏・祭りになりそうですね。」
島に住む皆の心は一つになっていた。
面白い本を書こう! そして面白い本を読もう!
高い高い空の上、小説の神様が微笑んでいます。
「わしも読みに行こうかの。」
「夏・祭りは8月10日の18時に開催ですって。」
天使たちも楽しみにしているようです。
青くて深いナロウ海が、みんなを応援するように静かに輝いていました。
***************
本棚を駆け抜けるように読む大勢の人々で島の公民館は一杯です。サラーサ船長が設置した本棚には、十五冊の本が並んでいました。
「待った待った。まだあるよー。」
天使のカイスーイが空からすうっと降りてきます。手には本を二冊持っていました。
「フォローして頂いてありがとうございます、天使様。」
「いえいえ、今日は小説の神様と一緒に読み専に徹していますからね。これから一緒に読ませてもらいますよ、サラーサ船長。」
カイスーイが可愛い声で答えます。
まだまだ賑やかな公民館でメモを取っている人がいました。小説の神様に祈っていたアキノーです。どうやら普段ナロウ海に浮かぶ小説を拾ってエッセイを書いているように、夏・祭り企画の話も書くのでしょうか?
ちょっとアキノーのメモを覗いてみましょう。
☆彡「愛する貴方へ ~君と花火と神様がくれた時間~
作者 長岡更紗 N2468EE
レビューを書きました。
口下手な女性と照れやな男性の愛の物語です。
涙なくしては読めませんでした。深い描写に心を鷲掴みにされます。
☆彡「夕立と雷雲」
作者 銘尾 友朗 N4003ED
レビューを書きました。
お笑い芸人の話です。
この女性主人公が物凄く魅力的です。これは笑いなくしては読めませんでした。
☆彡「あはれなるひと夏の」
作者 月城咲耶季 N3635EE
レビューを書きました。
平安の世の一夜の妖宴です。
もう上手すぎるんですけどこの文章。震えが来ました。
☆彡「ナツのドライブ」
作者 青山翼 N3587EE
カップルの情景です。
読んだ後、えーーーっ、そんな。と思いましたよ。
☆彡「バイクと幽霊 ~花火~」
作者 斎藤秋 N0207EE
以前、短編で投稿されていた作品の続編です。
とにかくカッケーんです。絵になるんです。そしてしみじみするんです。
☆彡「★夜空に咲く花のように☆」
作者 カボチャの悠元 N0009EE
少年はおじいさんの家に行って一人の少女と出会った。
田舎の豊かな風景の中での青春の恋。よいですー。ほのぼのしました。
☆彡「平吉の走馬灯」
作者 じゅー N8586ED
平吉は幼くして亡くなった妹の為に走馬灯を川に浮かべた。
魂の結びつきを感じます。美しい空蝉の情景です。
☆彡「陽炎ライフ」
作者 らの N0104ED
引きこもりの女の子が電脳の世界で出会ったのは・・・。
陽炎とカゲロウをこの夏のテーマに選んだ斬新さ。唸りました。
☆彡「縁側から見る花火」
作者 朝日 N0437ED
一人の老女が自宅から花火を観ています。
様々な花火の音。そしてそれが終わる表現。秀逸です。
☆彡「夜空の花火に誓う約束」
作者 菜須よつ葉 N1816ED
小児病棟から観る花火の情景です。
昔、娘と一緒に病院の窓から観た花火を思い出しました。
☆彡「夏のある暑い日」
作者 Suzuki-Romy N2627ED
引きこもり気味のムニエルが友人二人と出かけます。
ムニエル、トトロ、平行キノコというアダナがいい味を出しています。
☆彡「少年は叫ぶ。」
作者 NADIA N4324ED
幼馴染みの二人は・・・。
アイスクリームを話の主軸に通しているのが良かったです。
☆彡「若様についた虫を駆除します!」
作者 pinoko N5149ED
乳兄弟の女の子が若様についた虫を見つけてしまった。
身体中を掻きむしりながら大笑いをしました。凄い所に目を付けられてます。脱帽です。
☆彡「社畜ライダーの超圧縮夏休み」
作者 四島村政 N2611EE
やっととれた夏休みの一日を死ぬ気で堪能する男の話。
全部やったよっ。やりきったよ。と満足感に浸れました。社会人スキル半端ねぇ。
☆彡「MATSURI☆ウォーズ2017 ~納涼ラブストーリー~」
作者 Hiro N6757ED
作者様との約束でコメントは控えさせていただきます。
2017年の本棚に本が揃いましたね。
良い夏祭りが出来ました。
皆さまお疲れさまでした。
ひゅーーーードンドドンッ
本棚の本は、読んでから中継します。→ 中継を終わります。