教会のムスメ 一
「暑い……暑いです……」
燦々と照りつける日差しの下、猫背で今にも死にそうな程苦しそうな顔をした汗だくの女が一人歩いていた。
服装は一見シスターのようだが、その佇まいからはシスターの慈悲深さは全く感じられなく、むしろ殺気を放っているようだった。
「もういっそ死にたい……」
延々と日陰のない平原を歩き続けた末辿り着いた木陰。
女は木の根を枕に、なりふり構わず横になった。
もう体力も限界が来ている。
この夏真っ盛りの時期に長袖、ロングスカートの『制服』を身に纏っているのだから……。
ちなみに、袖は本来なら捲ってはいけない規則になっているがそんなものをきちんと守るような性格ではないようだ。
「暑い……」
日陰に入って少しは涼しさを感じていた女だが、呪文のようにその言葉を繰り返していた。
ジャリ……。
かすかに音が聞こえた。
もう眠ることすら苦痛なこの暑さの中、女は重たい瞼を開いた。
見ると、目の前に小さな女の子が立っていた。
歳は四歳位か。
女の子は不思議そうな顔をして女を見つめている。
手にはどこからか摘んできた、小さく可愛らしい花を幾本か握っている。
服装は……お世辞にもきれいとは言えないがとても風通しが良さそうなワンピースを着ている。
「…………(ジーーーー)」
どうしよう……凄く見られてる……。
女の子の純粋な瞳に見つめられると、自分の無様な格好に罪悪感を感じる。
「…………(ジーーーー)」
まだ見てる……。
この無言なのがまた辛いんですけど……。
「んんんっ」
女は咳払いをしながら、だらしなく寝転がった上体を起こした。
そして背筋を伸ばしその場にきちんと正座をする。
「今のは、木の根を通じて地下の水脈の音を探っていたのです」
聞かれてもいないのに女はふふん、とドヤ顔でそれっぽいことを言ってみた。
もちろん実際は違う。
「うー!」
意味が通じているのかわからないが、女の子はにこにこして万歳のようなポーズを取った。
女はジト目で女の子の反応にどう対応したらいいのかを考えてみる。
正直子供の相手は苦手だった。
あまりに純粋で、自分の汚れきった心が非常に情けなく感じられるから。
頬を伝う汗は状況に耐えかねる心の涙か、それとも暑さによるものなのか……。
「えっと、あなたはここで何をしているのですか?」
「うー!」
女が訪ねると女の子は両手に持った小さな花束を女の前に差し出した。
この、『両手を思いっきり伸ばしているのにこの程度の長さ』とはなんということでしょう……!
女は、突き出された短い腕の可愛さに悶え死んでしまいそうだった。
子供の相手は苦手ですが、子供は大好きなんです……!
と、思いつつも女の子がうまくしゃべれていないことが気に掛かっていた。
体の大きさを見ると、もうきちんと会話ができていてもおかしくない年齢だと思うのですが……。
そう思いながら女の子を観察する。
言葉以外問題はなさそうですかね……。
「可愛いお花ですね」
そう言うと女の子は満面の笑みを浮かべた。
「ところで、一人でお花を摘んでいたのですか? 昼間とは言え小さい子供の一人歩きは危ないですよ」
女がそう言うと、女の子は女の腕を引っ張った。
どこかに連れて行こうとしているようだ。
掴まれたその小さな手に悶えながらも女はそのまま身を委ねるのだった……。