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第七話


 谷川こころの、永眠会が執り行われた。

親族はもちろん、クラスメイトや先生も出席し、谷川こころとの別れを惜しんだ。

この街には、神様がいないので、他の街でやっている“葬式”とは形式は違うが、参列者の深い悲しみは一緒だった。

彼女は、とにかく明るく、誰とでも話せる人で、友達がたくさんいた。

そんな彼女との別れ――。辛くないはずがなかろう。

朱音も、涙を堪えきれなかった。なんせ、彼女との最後の会話があのようになってしまったのだ――。どうして悲しくないはずがなかろう。

その時、こころの母親が、人波を縫って朱音の元にやってきた。目は赤く腫れており、涙を何回も何回も流したのがわかる。


「朱音ちゃん……」


こころの母親がつぶやく。

その震え声を聞いて、朱音もとうとう、堪えていた涙を流した。

やはり、悲しかったのだ。クラスで唯一と言っていい友人、唯一話しかけてくれた友人。転校してきてからの短い間だったが、仲良くしてくれた友人。それを失った悲しみは、並大抵のものではなかった。


「お母さん……こころさんのご冥福お祈りします」


こころの母親はうんうんと頷いた。


「ありがとう、こころも喜んでいると思うわ。こころ、自殺で亡くなってね、遺書が残ってたの」


「そ、それは……」


「あなたにごめんね、って伝えてほしいと書いてあったの。伝えておくわ」


「そんな……」


朱音は泣き崩れた。

とてもよかったとは言えない最後の会話。

あまりにも、突然の別れ。

楽しかった思い出も、もう帰ってこないのだ。

次々と悲しみが奔流のように流れてくる。

そこに、河合がやってきて、言った。


「失礼します。自殺って、もしかして……」


こころの母親はまた頷いた。


「ええ、そうよ。こころと、こころのボーイフレンドは、彼岸花を抱えていたわ。こんな街に住んだばかりに……」


こころの母親は、顔を手で覆った。


 永眠会からの帰り道だった。

空は秋の夕暮れ色で、群青と朱色が混ざり合い、壮大だった。


「こころ……どうして亡くなっちゃったの……。彼岸花って何?」


朱音は河合に縋りよった。

今にも泣きだしそうな目をしている。


「そうか……お前は引っ越してきたから彼岸花事件を知らないのか」


河合は言った。


「ええ……知らないわ。教えて。私、こころがどうして亡くなったのか知りたい」


「そうだな彼岸花事件っていうのは―´」


 南花街のカップルは、必ず不幸な目に逢う。

その最もたる例が、この彼岸花事件だった。

ここ五十年ほど、カップルが南花街にある、閉鎖された<神家>の周辺で亡くなっているのが発見される事件がたびたび起きている。

被害者は皆、なんらかの方法で自殺をして発見されていた。

この事件の奇妙なところは、被害者が全員、彼岸花を抱えて死んでいる、ということだ。

例にもれず、<神家>の周辺で死ぬカップルは、彼岸花を持っている……。

屍は何も語らない。なぜ、今生をあきらめてしまったのか、なぜ、花を持っているのか、謎は解き明かされないままだった。


「そう、そういうことだったのね……」


朱音はぼんやりと夕方の空を眺めた。


「あぁ、こころが何を考えていたか、なぜ死を選んだのかはわからない。きっと何か無念なことがあったんだろうってことぐらいしか……」


河合はそういうと、ふぅっと、息を吐いた。


「ただ、あいつを忘れないようにすることだけが俺たちのできることだと思う」


朱音は茫然と、空っぽになった頭の中から言葉を取り出せないでいた。

 

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