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第三話


 次の日、空は連日のからっとした秋晴れを無視した曇り空になっていた。

少しシーズンから遅れた台風が接近中らしい。

気持ちの良い天気とは言えず、朱音は、憂鬱な気持ちで朝ご飯のトーストを食べながら、ニュース番組を見ていた。

続いては今日の全国ニュースです……画面を見て朱音は目を瞠った。

“南花街”の文字がテレビに映ったのだ。そして、見慣れた街の風景も映された。

南花街は温泉街として有名だったが、全国ニュースの舞台に立つことなどなかなかない場所だ。

南花街がテレビに出ているのを見て、隣に座っていた朱音の妹がはしゃいでいた。


「お母さん、近所がテレビに出てるよう!」


朱音も口にトーストを入れようとした動きを止め、ニュースをじっと見た。内容はなんなんだろう。


「南花街にて、昨夜、十歳の男の子が行方不明であると、保護者から通報がありました――」


「警察は行方不明事件として捜査を進めています――」


朱音の母親があらやだ、と言った。


「物騒な事件ね。朱音、気を付けて。私はこの子を学校まで連れて行くわ」


朱音は答えた。


「うん、そうしたほうがいいと思うよ。お母さんも気を付けて」


朱音の妹が母親を見上げて言った。


「今日、お母さんと小学校行くの?」


「ええ、そうよ。危ない人がご近所にいるかもしれないからね」


妹は今度は朱音に言った。


「お姉ちゃんも、怖い人には気を付けるんだよ」


朱音は微笑み、妹の頭をそっと撫でた。


「えぇ、気を付けるわ」


 その日の教室は、行方不明事件の話題で持ちきりだった。

教室内だけではない。外でも、ヘリコプターがわんわんと飛んでいる。

男の子の安否を心配する声、何が起きたんだろうと考える声、ショッキングな話に心を痛める声、色々な声が飛んでいた。

朱音も、こころに話しかけてみた。


「朱音、今朝のニュース見た?」


何十回と教室で繰り返し使われた台詞だった。

しかし、こころはぼーっとしたように宙を見てて反応しない。


「ねえ、こころ、聞いてるの」


朱音がもう一度話しかけてみると、こころはハッと気づいて朱音のほうを見た。

どうやら、上の空だったらしい。

こころはごめんごめんとこころは言う。


「どうしたの、朱音」


朱音は呆れたように言った。


「どうしたって、今朝のニュース見た? って言ったの」


「あぁ、見たよ。男の子、大丈夫かなあ」


それはともかく……と朱音は続けた。


「ねえ、こころ、最近ぼけーっとしてるとき多くない?」


するとこころは明らかに狼狽えたような様子になった。


「そ、そんなことないよ」


首を振るこころに、朱音は怒ったように言う。


「そんなことあるでしょ。何かあったの?」


「いや、何もないよ! はい! この話は終わり!」


こころはその後何も話したがらず、結局、話は別の話題へと移っていった。


 そして次の日、こころは欠席していた。

次の日だけではない。次の日の次の日、さらにその次の日も、こころは欠席していた。

まさか、私が変なこと言ったせいではないだろうな、と朱音は心配になった。

ただでさえ人付き合いに臆病な彼女は、こういうときとても不安になるのだ。

嫌われたんじゃないだろうか、避けられてるんじゃないだろうか、自分が気づかないうちに何かしてしまったのではないのだろうか。

耳にこびりつくガラスが割れる音が離れないのだ。

今日も、朱音は河合に誘われ一緒に帰っていた。


「最近谷川が一緒じゃないけど、病気なのか?」


朱音は首を振る。


「わからないわ。こころに連絡取ろうと思ってもつながらないし。どうしたのかしらね」


心配になった朱音はメール、電話、メッセージアプリ、思いつく限りの連絡手段をすべて使ってみた。

だがしかし、こころからの返事はなかった。


「それなら、直接家に行ったらいいんじゃないか?」


朱音はうーんと考え込んだ。

最近のニュースが物騒なのもあり、心配だが、様子がおかしい、欠席しているというだけで家に押しかけるのもいかがだろうか。おせっかいじゃないのだろうか。結局――。


「そうね、今後も様子が変だったら行ってみるのもいいかもしれない」


朱音は内心焦っていた。

この街での数少ない友達の一人であるこころにどう思われてるのか、嫌われてないだろうか、とこころへの心配もあるが、自分自身への心配もあったのだ。


「それじゃ、明日あいつが休みだったら行くってのはどうだ?」


河合は提案した。


「そうね。そうするべきだわ」


 結局、谷川こころは次の日も欠席しており、二人は彼女の家に行くことにした。

幸い、朱音はこころの家には行ったことがあったので場所は知っていた。


「ところで、今朝のニュース見たか?」


河合が今までの話題を切り替えた。


「えぇ……」


朱音が防犯ブザーをギュッと握りしめる。


「行方不明児童が三人増えたやつでしょう? 全員十歳以下で……」


「あぁ、それのことだ」


今朝の全国ニュースでアナウンサーが緊迫した様子で告げていた、物騒な内容――。

ヘリコプターはいまだに上空を旋回しており、街全体が緊張感に包まれていた。

朱音も、念のために、用心には用心を重ねて、と防犯ブザーを携帯し、夜間は歩き回らないようにしていた。

もし変質者にさらわれたり、殺されたりと思うとゾッとする。それに何より、行方不明になった子供が哀れでならなかった。


「無事、事件が片付くといいわね……」

昨日投稿するの忘れてましたすんません

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