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オレを平和に生きさせろ!  作者: 亜武北つづり
オレを平和に生きさせろ!
1/2

『―――さらだばっ!』

◇◆◇◆◇



「一体全体、何だってんだ……」


 八切悠は一人、愚痴を零しながら思考していた。

 黒髪に同色の瞳。着ているものは諸事情により、とある高校の制服だ。


 まずは状況整理がてら、自分のプロフィールを思い出す。


「……八切悠(やぎりゆう)。17歳。現役の男子高校生。好きなものは平和と日常。人生の目標は堅実に稼いで平穏に生きること。学校からの帰り道、痴女に襲われて逃げてたらいつの間にかここにいた」


 割と激しくツッコミを入れたいプロフィールだが、全て事実だ。

 何故なら、未だ目を瞑れば浮かぶ光景が“おねいさん”(全裸、推定40代後半)なのだから――とまで考えて、悠は目から溢れるしょっぱい何かを拭った。


 閑話休題。気を取り直して状況整理、再開。


「んで、ここは……」


 ここ、というのは葵が今座り込んでいる部屋のこと。三方向に見える天然っぽい岩肌の壁と、しっかりと鉄格子の嵌った残り一方向の壁。

 そう。結論から言えば、悠は独房の中に居た。


「……クールだ。Koolになれ、オレ」


 逃避したくても出来ない現実に、再度悠の目からしょっぱい水が出そうになり、ギリギリ気を取り直す。


 オレが何したっつーんだよ、と零すも、反応してくれる人は一人もいない。寂しさで心が折れてしまいそうである。

 体育座りで数分間ぷるぷると震えた後、決意を固めて、悠は立ち上がった。


「ふっふっふ……決めた、決めたぜクソ野郎。こんな場所なんざ今すぐ出てってやんよ!」


 ヒャッハー! などと一人テンションを上げて拳を突き上げる悠の姿。

 その姿、真にキチガイ……ではなく、頭のおかしい人のソレである。


 しかしあまりの寂しさで頭がイッてしまった悠に周囲の目など関係ない。

 というかそもそも、周囲の目があったらこんなことになっていない。


「ククク、オレのピッキングツールが火を吹くぜ! ハーッハッハッ!」


 常に携帯している相棒を懐から取り出し、牢屋の入り口にある錠前と格闘する。

 この八切悠、破った自販機は数知れず。夏場はお世話になりました。


「っし開いた。さ、トンズラトンズラ……」


 扉を極力無音で開きつつ、抜き足差し足忍び足のトリプルコンボで悠は外の廊下へと出る。


 そこに、あったかい我が家への帰り道があると信じて―――!


「……あ? 誰だアンタ」


「…………」


 ジャスト30秒。いい夢は見れただろうか?

 なんて風に、現実という大きな敵が笑っている気がした。


「ぶっ殺すぞクソッタレッ!!」


「あァ!? いい度胸じゃねえかクソ野郎!」


「……はぇ?」


 間抜けた声が漏れ出る。え、何で彼は怒っているの? 理由もなくキレる現代の若者、怖い。

 そこで悠は初めて声の主の姿を視界に入れた。


 顔も体つきも分からないが、中々の高身長。声の感じからして男――それも十中八九、同年代だろう。

 目を引くのは全身をすっぽりと覆う黒のローブと、彼に担がれている少女の存在だった。


 ……というか待て待て。何でこんなデカい屋敷にこんな不審者がいるんだ。

 もしかしたら不法侵入じゃないのか? いや、女の子っぽいの担いでるし、コレはどっちかと言うと。


 もしかして、誘拐犯?


「ハッ、このロリコン野郎が! 神妙にお縄につけ性犯罪者!」


「ちちちちげぇーっつの! コレはこの屋敷の当主とやらで、俺は依頼されて攫ってるだけだよ! 洒落にならんこと言うなマジで!」


「つまりテメェは略取・誘拐罪及び住居侵入罪を犯してるってわけだ。田舎のおっかさんが泣いてるぞ! ペッ!」


 自分のことを天よりも高い棚に上げ、悠は彼のことを勝手に不審者認定する。

 いや、別に間違いではないのだが―――なんだろうこの複雑な気持ち。


「落ち着け。まずはこれを見るがいいロリコン野郎」


「だから違ぇっての!」


 悠は見せつけるような大仰な動作で懐からスマホを取り出し、通話画面を表示し、全身ローブに突き付ける。


「ククッ、大人しくしろよ? 警察を呼ばれたいのか? 態度次第では見逃してやってもいいんだぜ?」


 相手が自分より下だと思った瞬間この態度。この男、やはり真性のゲスである。

 ――だが。


「は? ケーサツ? 何だそれ」


「……え? 警察知らねえの? マジで?」


「おう」


「んじゃ、ちょっと待ってな。今すぐ実物を見せてやんよ」


 ビビらないなら仕方ない。実際に通報しようとして――悠はここが圏外だと気が付いた。


「…………」


「…………」


 沈黙。言い換えるのなら、嵐の前の静けさ。


「―――さらだばっ!」


「逃がすかぁっ!」


 見られた以上生かしておけないと追ってくる誘拐犯と、盛大に噛んだ舌に涙目になりながら逃げる悠。

 命を懸けた鬼ごっこが始まった。





 数十分後、悠は屋敷の最上階、その隅っこに追い詰められていた。


「はーっ……はーっ、い、いい加減見逃せクソ野郎……!」


「ふーっ、ふーっ、なんて……はぁっ! すばしっこい野郎だっつーの……!」


 前には誘拐犯withナイフ。後ろはおっきな壁。つまり、これ以上は逃げられない。


 ちなみに悠にとって、誘拐犯に立ち向かうなどは選択肢にない。

 自慢ではないが、秒殺される自信しかないからである。本当に自慢にならない。


「……まーいい。いい加減観念したか、黒髪野郎」


「ってかわざわざオレ追って来なくてもよかったじゃん! その間に逃げればよかったじゃん!」


 ザ・逆ギレ。人間としてこの上なく情けないが、生きるためなら何でもやる。

 それが八切悠という人間だ。


 それを聞いた全身ローブは、呆れたように肩をすくめた。


「あー……ま、そうなんだけどなぁ。こんなザル警備抜けんのなんざ朝飯前だし、何よりお前が見逃せねえ。アレだ、正義のためっつーアレだ」


 何となく存在が小悪党なんだよ、と全身ローブは続ける。


「……誘拐犯に正義を説かれるっオレて……」


「大分アレだよな」


「お前が言ってんじゃねえよ!」


 叫び返す悠を面白そうに笑う全身ローブ。そして―――その雰囲気を一変させた。


「ま、こっちもそろそろ鬼ごっこは飽きてんだ。なぁに、一瞬で終わらしてやるよ」


「……一応、見逃してくれるってことは?」


「ねェよ」


 にこやかな声。直後――全身ローブの姿が消えた。


「なっ―――!?」


 人が突然消えた。そんな事実に驚く暇もなく、無意識のうちに体を前へと転がらせた。

 次の瞬間、突然現れた全身ローブが、寸前まで悠の首があったところにナイフを一閃させていた。


「「はァっ!?」」


 互いに驚く。悠は虚空から全身ローブが突然現れたことに。全身ローブは、悠が己の攻撃を避けたことに。


「俺の加速魔法が……初見で、だと…………!?」


「あぁ? 加速魔法? 何だそりゃ―― 」


「っ、うっだらぁ!!」


 二撃目。またも姿の掻き消える全身ローブ。悠は体が動く通りに、思い切り後ろへ飛んだ。


「げぶっ」


 ドンッ、と鈍く、重々しい音が響いた。


「……へ?」


 それは後ろに飛んだ悠の背中による体当たりが、モロに全身ローブの体に叩き込まれた音だった。


 予想外過ぎる状況に、取り敢えず振り返ろうとする悠。それが決定打となった。

 ガツンッ! と、振り返るのと同時に回った肘が、勢い良く全身ローブの顎にぶち当たった。


「おっ……おごっ……!」


「ごめんなさい殺さないで―――って、お?」


 勢いで命乞いに走り掛けた悠は、しかしふらつく全身ローブの姿を見て――ニヤリと、悪魔の笑みを浮かべた。


「……これは追い回されて疲れたオレの脚の分!」


 力任せの蹴りを股間に叩き込む。「ばうっ!?」なんて切なげな声が聞こえたが気にしない。

 ついでに誘拐された少女がボトリと落ちたが、そんなの自分のせいじゃない。


「これは命の危険で縮み上がったオレの心の分!」


 正拳突きを顔面に叩き付ける。「ぐぎゅっ」なんてアレな音がしたが、気のせいだ。

 ……というか自分でチキン発言していることに気付いていないのだろうか。


 気付いていないのだろう。だって馬鹿だから。


「そしてこれが―――」


 助走。一気に相手の真正面まで近付き、その場でジャンプ。そして、右足で―――



「オレの平和を奪い去った、現実への怒りの分だぁぁぁああああッ!!!」



 思い切り、相手の側頭部を蹴り穿った。


 技名『ジャンピングハイキック』。中学二年生の時、とある漫画で見たカッコよさに惹かれて練習して来たこの技がまさかこんなところで役に立つとは。

 過去の自分という黒歴史に、悠は惜しみないグッジョブを送った。


 ――と、ここでまたも予想外の事態が起こった。


 蹴り飛ばした全身ローブが凄まじい速度で回転しながら、廊下の壁までかっ飛んで。


 ――ドォンッ!


 とそのまま壁に、人型の穴をぶち開けてしまったのである。


「……はっ?」


 そりゃ確かに悠は全力で蹴飛ばした。男子高生全力の蹴りだ、吹き飛ぶのも確かに分かる。

 でも、それでも。

 紙切れのごとく吹っ飛び、あまつさえ壁を貫通するとは――悠の現実には程遠かった。


「…………」


 ちょっとの間、自分の体を考察する。分かるのは夢なんかじゃないという厳しい事実だけ。

 少しして一つの結論に至り、悠は赤レンガの綺麗な壁に、軽ーくワンパンを入れた。


 ボゴン、なんて重い音とともに赤レンガは拳の形に凹んだ。


「……あぁぁぁぁぁ……」


 悠はその場で頭を抱える。その絶望感は、全身ローブと対峙したときとは比べ物にならないほど大きい。


「何で、何でぇっ! ぐすっ、……平和、ひぐっ、主義者のオレ、っに、…………うぐっ、戦闘能力なんかぁぁ…………!」


 ……先ほど見事なハイキックをかましておいて、この男は何をほざいているのだろう。

 何はともあれ八切悠17歳、マジ泣きである。


「………………………………ぅ」


 と、そんな悠の近くで小さく身動きをする者があった。


「…………ん……ゅ…………?」


 そう。誘拐されたあげく悠に殴られたときに全身ローブに地面に取り落とされ強かに全身を打ち付ける、などという今日一番で不幸なその人―――。


 誘拐された少女が、目を覚ました。

※ピッキングは犯罪です。良い子も悪い子も絶対にしないように!

 ノリと勢いで書いてます。誤字脱字などあれば是非ご報告ください。


 深夜テンション時、書こうかなーなんてと思った時に書いてます。不定期更新注意。

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